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三遊亭円生『初音の鼓』 その1

!!必ず、この前の解説を先に読んでください。 背景が分からないといささか分かりにくい話です。

 物売りの中で変ってるのが下駄の歯入れ屋さんで、鼓を打ってくる、ポンポーンポンポーンなんてね、鼓を打ってきます。 どう言う事でございますかなー、下駄の歯入れに鼓を打つというのは、なんだかおかしいようで、・・で、聞いてみたら決してその、縁のないものじゃないんだそうで、鼓というものは雨を降らせる道具なんだそうですね。

で、それはどう言う訳かというと「狐忠信」という芝居のせりふに 「雨の宮、諫め(いさめ)の神楽(かぐら)、日に向こうて打つ時は、鼓はもとより波の音、狐は陰(いん)の獣ゆえ、雲を起こして降る雨に、民百姓の喜びに、初めて声をあげてより、初音の鼓と名付けたり」 というセリフが有ります。え~、してみると鼓というものは、あれは雨を降らせる道具です。足駄というものは雨が降らないと履かないもので、・・で、鼓を打って雨を降らせて足駄を履かせ、でこれが減った時分にまた取り換えに来る、とこういう訳で、なんだか考え落ちのようでございますが、

 え~昔はこのお屋敷などへ道具屋さんという今で言うと骨董屋さんが出入りしてましたが、ま結構なものを持ってくる場合もあるが、中にはずいぶんインチキなものもありまして、

「誰だ!」 『へい、御免下さりまして』 「う~ん、道具屋の吉兵衛か、ま、こっちへ上がれ」・・・

『えー、ご無沙汰をいたしまして、こんにち御前(ごぜん)にひとつお目にかかりたいのでよろしくご思慮をうかがいたいので』 「何か持ってきたのか?」 『珍しい物を持参いたしました』 「珍しい物というと何だ?」 『初音の鼓を持って参りました』

「初音の鼓!!・・あの何か、義経が静御前へ下されたという、あの初音の鼓か!」 『へっ』 「ん~~珍しいな、それは、・・本物か?」 『・・へっ、本物なんざぁありっこありません、こりゃぁまさしく偽物!』

「何だいまさしく偽物てぇのは、・・どうする?」 『で、御上(おかみ)にご覧にいれて、お買い上げを願いたい!』 「幾らに売る?」 『え~、百両で』 「お前はどうしてそう、ばかなことを言ってくる、え!そんなお前、その偽物の鼓を百両なんて」 『いや、そうしないと私が困るんで』

「お前が困ると言って、私がそのようなものをご披露するわけにはいかん!」 『そうおっしゃらずに、何とかしてねぇ、売り込んでくださいよ~、え~、そのかわりあなたには決してタダはお願いを申しませんで、え~、うまく売れたら三十両私があなたにお礼をするから、是非ひとつ殿様に願って頂きたい。』

「三十両!・・・ううん三十両・・うんまあ、う~それならば主(かみ)にご披露申し上げてもよい。」 三太夫もなかなか欲が深いから・・

 「お~、三太夫、なんじゃ?」

「恐れながら、ただいま道具屋の吉兵衛、なにか珍しきものを主に御覧入れたいとまかりいでましてござりまする。」

 「んー、さようか、苦しゅうない、これへ・・・おー、これへ、もそっとこれへ寄れ!」

『主にはいつもながらご健勝の呈を拝します、手前身に取りこの上なき喜びでございます。』

 「ん~、よう参った、なにか珍しきものを持参したというが、なんじゃ?」

『初音の鼓を持参いたしました。』

 「初音の鼓!! 静御前にたまわったという、あれか? ん~ん・・!して何かその、折り紙(鑑定書の事)はあるか?」

『えー、折り紙はござりません』

「折り紙がのうて、いかに致してその初音の鼓と、あい分かる!」

『これは不思議な事がございまして、鼓を調べる(音楽を調べるの意)ときは必ず生き物が出てまいります。』

 「生き物が出る?・・ん~ん、さようか、あ~、しからば予が調べてつかわす。・・・ほぉ、この鼓か、だいぶ古びておるな!・・・しからば、予が調べるが、よいか?」

『どうぞお調べの程を』 





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