Nicotto Town



柳家小さん『将棋の殿様』その5

『では・・かような事になりまして、・・王手になります』

「王手じゃ!?・・んー!・・良い! 参れ!」

『殿に伺いますが、敵が城の塀際まで攻めよせて参りましたら、いかがなさりまする? 敵が塀際まで攻めよせてまで戦うは大将たるべき者の不明(識見の足りない事)でござりましょう。 およそ大将たる者は三日も以前にその勝敗が分かるようでなくては、一国一城の大将とは申されますまい、時としては塀際まで引き寄せて一気に撃って出て勝ちを得ることもございましょうが、策もなく略もなく空前として控えおるは、馬鹿大将とも申すもので、マヌケ大将とも申します。 いわゆる雪隠詰め(せっちんづめ)になるまで身に惑い、苦しみましては言語道断でございますな!』

「何ぃ!・・馬鹿大将だぁ・・・では、んーん・・・ここに金を打ったか?・・では余の行く所がない」 

『何でございます?』 

「余の参る所がない」 

『ないと申しますと?』 

「負けじゃ!」 

『どちらが?』 

「皮肉な事を申すな、余の負けじゃ!」 

『は、ではこの爺めの勝ちでございます、このヤカン頭がへこまずにすみました。 ではお約束通り鉄扇をお拝借を・・』 

「もうよい!」 

『良いと言う事はございません、えー、武士の一言金石の如しと申します、ご拝借を!・・・はー・・なるほど手頃の鉄扇でございますなぁ・・爺めは少年の頃片手打ちが得意でございましたなぁ・・は! うーん、やぁー、やぁーあ!!』

「これぃ、左様に気合を賭けるな!」 

『・・えー、ではおつむりをどうぞ』・・

「ん、良い、打て!」 『では!』・・・さすがにつむりは打てませんからわざと手元を外して膝の所を 『やー!!!』 “ピシッ”っと、・・腕の立つ人に叩かれたんだからたまりません。 

「ふぁうあううぅぅぅーん、はぁー!」 

『いやぁー老衰を致して手元が狂いまして・・・打ち直し・・』 

「う、う、打ち直しには及ばん! その方たち何を笑っておる、早く将棋盤を片づけい! 焼き捨てい! 明日より将棋を指すものは切腹を申しつけるぞ!!」


こうして文章にしてみると小さんさんはよく“いや(何々)”という癖が有るようで、なかなか書きにくかったです。 次回は講談で越前の赤鬼と言われた真柄兄弟(姉川の合戦での本多平八郎忠勝との一騎打ちはあまりにも有名)の母の話を一龍斎貞丈さんで予定してます。

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2009/02/26 20:35
おおお~ぱちぱちぱちぱち!!
本日は長いお話を していただきました。
品のいいすばらしい演題でしたね。書くのも大変だったでしょう。
聞きながら(本当に聞いているような、気がするんですよ)平時の、のどかなお城の、広い青畳のお部屋まで見えるような気がしました。 
今夜もよいお話で、楽しませていただきました。次回も楽しみにしていますね。



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