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一龍斎貞丈『真柄のお秀』その1

越前一乗あたり、朝倉弾正左衛門重景(考景の間違いか? 義景の父)の家臣で真柄刑部(ぎょうぶ)、この人人物にかけましてはもう人並みすぐれた才能が有りまするが、戦場の役には立たない女のような優男(やさおとこ)。 そこでせめて倅には英雄豪傑をもうけたい、それにはまず体格のいい妻を持たにゃあならんと只今盛んに物色中でございました。するとこのたび殿様の代参で越前気比の村へ参詣を仰せつけられましてお伴の文助とただ二人、膝栗毛、・・代参も滞り無く済みまして下って参りましたふもとの宿、

『おや、旦那ポツポツおいでなすったよ、急ぎましょう!』 旅籠屋を選んで伊勢屋という宿へと飛び込んだ。 とたんに“ざぁんっ”、逆巻くような音! 

「文助、早く気がついてよかったな」 『全くですねぇ』 給仕に二階座敷に通され、ほっと一息ついたとき、下では伊勢屋の主の声らしい、

 『いやー、だ、だ、だ、駄目だ駄目だ、駄目だい! 早く庭の俵をかたずけなきゃ、皆濡れちゃうぜ。 駄目だ、駄目だ、いくら言ったって分かんねぇんだな、力仕事だったら男じゃ駄目だ男じゃ、お秀呼んでこい、お秀を』

『妙な事を言うな、力仕事だったら女だ?』 不思議に思いながら文助、ふっと二階から下見ますと、今台所から現れいでましのは・・身の丈6尺以上、目方40何貫間違いなくありそうな大女、・・・あたくしも永六助にならって尺貫法で言いました。 でも今ではこれでは分らない方もいらっしゃるので、まあ今で言やあ身長190㎝、体重が180㎏以上! “ズシン、ズシン” 歩くたびに地響きがする。 やがて庭の真ん中に積んでありました米俵1俵を右の手に、米俵1俵を左の手にひょいと持ち上げ、向こうの物置の空いてんのをめがけて、こっちから“たーん、たーん”と放り投げる。 これがみんなストライク! さぁーと片付いた。 えらい力である。

あきれ返っております所へ若い衆が 『お風呂の支度ができました』 ・・「しばらく文助、先にわしが湯に入ってくるぞ」 刑部が下のお風呂、田舎には珍しいきれいな湯船

 「あ~~、旅の疲れは今が一番じゃが・・」 手足を伸ばしているとかたわらのくぐり戸がガラガラと空き、ぬっと入ってきたのが例のお秀、見るというと薪を五、六っ把脇へ抱えまして

『あのう旦那さま、ぬるうければ熱うしてしんぜます、熱うければぬるうして進ぜますが?』

「んー、少しぬるいようだな、焼べ(くべ)てもらうかな」

『へぇ、かしこまりました』というと、持って参りました薪を五,六っ本握りまして、膝っこぞへあてがい ”バリン、バリン!“ それを焼べましたからどっと炊き上った炎! その明りに照らし出されたお秀の顔を見て刑部が驚いた。

(「世の中にとかくまずい顔も多いが、こりゃまず過ぎらぁ!」) 何しろ鼻の上へコンパスを掛けて、ぐうっと書き、ちょうど耳だけがすぱっと残っちゃうと云うお盆みたいなまあるい顔、鼻が有るかないか分からない、上から撫で下ろすと云うと空振り三振をしちゃう、“ぶーん”と転んでも、おでこ転んでも鼻打たないという・・そのかわり最前申しました通り大変な肉体、いい体、何しろ丈が六尺で横が六尺! 六尺六尺で一軒の路地一方通行、後だーれも通れない、アブラムシも通れない。 グイッと出した腕は番茶の二万円の袋(何のことか?)へ野球のグローブをはめたのではないかと、おっぱいなんかの物凄いこと、ボインどころの騒ぎで無い! まるで搗(つ)き立ての鏡餅!!・・・見た訳じゃないんですよ、台本にそう書いてありますからそのとうり申し上げておりますが、大変ないい体。 しかし顔がまずいんでちょいと刑部殿も困ります、ところがこの人妙な癖がございまして、美男のくせに醜いのを見るとちょっとからかってみたくなるのが前からの悪い癖! 

「おお、これ、最前庭でどんどん俵を片づけておったは・・二階から見ていたが、確かそちであるな?」

『まあ御覧になすったけ、女になって力持ちで、お恥ずかしいごぜぇますだ』 「それでお前どのくらいの力が有る?」

『へぇ、まだこれがと言って重てぇもんは一度も持ったことがございません。 はなのうち力ありすぎますんで粗相ばっかりしておりました。 お膳出そうと思ってそれを持つとぺシャッと割れてしまう、お客様ぁおらに変な冗談言いなすったぁで、ありゃぁお前様(めぇさま)ぁばかな事言わねぇこんだよ~、とおらが背中ポーンとたたいたら背中の骨三本折れた。』

(その2へ続く) 今回もやや長いので何日かに分けます、30分弱ですが文章にすると長くなってしまいます。

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2009/03/07 14:36
ありがとさんです。 あなたのような読者が増えてくれるといいんですが、しごとは朝7:00から10:00ぐらいでかたづいてしまうのでそのあとは勉強やら何やらで暇なので、当分続けたいと思ってます。 今後ともよろしく。
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2009/03/07 01:03
お話が面白いので、長さはまったく気になりませんでした。”その4”まで読んでから、嬉しくなって、もう一度読み直しに来ましたよ。今はテレビなどでも、ほとんどやってくれないこういう優秀な古典を、ここで 読ませていただけることを、幸せに思います。



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