Nicotto Town



一龍斎貞丈『真柄のお秀』その4

のこのこと上がり込んで来た、たすき掛けしてバタバタバタバタ屋敷内の掃除を始めた。 掃除をするといっても力が有りますから大変に便利、このタンスが邪魔だなぁとひょいと持ち上げるとトトトトっと動かす、この火鉢が邪魔だなと思うと“フーッ”(息をかける)、すーっと動く、荷物があっち行ったりこっち行ったり、その間文助、きゃあきゃあ逃げ回ってます。 たいそうな掃除が有ったもんで・・・

その隙を見て文助はお城の刑部の所へ行ってこれを知らせました。 さぁー、一大事とばかりその晩から友達の所へ、なるべく金の有りそうな友達を選んで泊めてもらって、転々として全然屋敷へ戻りません。 お秀が文助に 「旦那様は?」 文助は空うそぶいて取りとめのない返事、ここに至りましてさすが純情なお秀も初めて騙されたことに気付いた。 「あー、悔しい!!」 

時期をうかがっております、と今日はちょうど殿様がお山へお鷹狩りとの事、それじゃあその帰りを待ち受けてやろうと松の大木の陰に潜み殿様来たれと・・・

今日は殿様上々の首尾と見えまして、馬上豊かに大勢の家来衆をずーっと引き連れてくる、“パカッパカッ”・・と、いきなり大木の松の陰から”タッタッタッ“っと飛び出したお秀 「おねげぇでございます、おねげぇでございます!」 これを見ましてご家来衆がばらばらっと集まり 『うぬっ、無礼者』 と、どかそうとするが 「何、こいつら邪魔すんだよ!」 と、”ポンポーン、ヒュー・・“・・行方不明! 殿さまの乗ってた馬も、驚きいななく・・『これこれ、無礼な女だ、名を名乗れ!』 「秀と申します、田舎娘でごぜぇます、お殿様のご家来で真柄刑部さまと・・(これこれこうと)かてぇ約束をしましたんで、こちらからわざわざ訪ね申したところ、おなぶりなすってまるっきり会っては下さいません、立派なお武家さまがおらみたいな田舎娘をなぶりになってどれほどの手柄でごぜぇましょう? このままもう伊勢屋へは戻れずどっかで死んじまわなければなりません。 その前にせめてお殿様からあの卑怯な刑部さまへ一言お叱りがねげぇとう存じますだ、お殿様!・・どうぞお裁きを!」

この純真なお秀の言葉を馬上でお聞きになった殿さま、思わず“ポロッ“とした。 『んーん、不憫な奴じゃな!(考え見れば刑部は家中一の美男、それに引き換えこの女はまた、すんばらしくマズイな、こういう者をめおとにさしたならば刑部の戒めにもなろう、またこの朝倉の領にも名物が一つ増えるというものだ、こういう易きもので名物をこしらえてやる)・・あー、だれか刑部を呼べい、呼べい!』

ずっと後ろの方に居たんでこんな事が有ったなんて全然気づかない、やがて大勢の朋輩衆に取り巻かれ殿様の前へ 『こら、刑部! そちが旅先に、宿において思いを掛けてめおとの約束を結びし秀と申す者が今訪ねて参ったぞ。 其の方にはまことに釣合のいい女房となる、末永くかわいがって遣わせ! こりゃ秀とやら、近日中に余が仲人役を務めつかわそう、晴れてめおとの杯をあげい! 刑部、そちも思いがかない定めし満足なことであろうな!』 「ははぁー!」 いや聞いてお秀さん嬉し涙ボロボロたらし 「お殿様―! ありがとうごぜぇますだー!!」 と言うと、かたわらに居た刑部をひょいとつまんで懐手にもって帰った。

数日後殿様が改めてのお仲人役、刑部が泣きの涙で上げました三々九度の盃、ここに真柄のノミの夫婦というなるほど越前の名物が一つ出来上がりました。 世に醜い女の深情けのたとえの通りかゆい所に手が届きますお秀さんの貞女ブリ。 というのは刑部がまだ背中がかゆくもなってないのに背中に手を突っ込んで 「まだこの辺はかゆくねぇだろ、これから今にだんだんかゆくなってくる、今のうちにこちょこちょ!」なんて貞女ぶり、一龍斎貞女ぶりってなもんで、その愛情にほだされましてお秀お秀と寵愛が重なり、やがて懐妊を致しまして、十三月目に産み落としまして望み通り玉のような立派な男の子、これが長じまして後、元亀元年六月の二十八日、江北(ごうほく)高田の郷、姉川の合戦で越前典秀の鍛え上げました太郎刺(たろうざし)という六尺八寸の陣刀を振り回し、あっぱれ抜群の手柄を立てまして徳川家四天王のひとり本多平八郎忠勝と一騎打ちの勝負に及んだ天正年鑑の豪傑、越前の赤鬼とうたわれました真柄十郎左衛門直澄、その人でございます。 その人の母真柄のお秀、醜い人も決して悲観をしてはならないという、厚生省推薦の一席でございます。

お後がよろしいようで、 これは2002年ごろのNHK話芸で放送されたものですが、この後2003年に貞丈さんはお亡くなりになってしまいました。 貞丈という名跡は講談界で最も権威のある名前です、この後だれが継ぐのでしょうか?

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2009/03/07 14:46
 ありがとうございます。 次回からしばらく三遊亭金馬さん特集です。 初めは当時の新作『居酒屋』を予定してます。 三週続けてそれぞれ違ったタイプものを用意します。
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2009/03/07 00:35
講談の素晴らしさを、満喫させていただきました。
ポン ポン ヒューッとか、吹出しちゃいますよヾ(≧▽≦)ノキャハハハ☆
講談もいいもんですねえ^^
こういうお話が大好きです。また 次のお話を楽しみにしていますね。
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2009/03/05 22:05
いっきに読ませてて頂きました。普段聞いたりすることのない世界ですので
次回が楽しみです。



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