Nicotto Town



三遊亭金馬『高田馬場』その5

『ん~ん! 大変な酒!』 「何だい?」 『水っぽい酒ってのは有るけど、酒っぽい水だよ』 「仕方ないよ、こんなとこだもの、やーと、こうやって繋(つな)いでればいいんだよ、どうにか・・ん、う!・・んー!! こりゃあひでぇや! 飲めたもんじゃねぇよ! 樽ゆすいだ水みてぇなもんだ。・・え、時刻!? 聞いてみようかな・・(タン、タン、タ!)」

『御用ですか?』 「今何どきだ?」 『ただいま馬です』 「あー、い?馬? 未の刻は過ぎたのかい? 何か始まらねぇかい、始まったらおせぇてくれよ」

「未の刻過ぎたってさ、また日延べかな?」 『よせやい、何言ってやがる、ここまで来てこれだけ入費を使って日延べ食えや世話ねぇやな』・・・ 「おい、さっきから変だと思ってんのが、柱へ寄っ懸って酒飲んでる爺さん」 『ん?』

「とっくりを垣根みたいに並べてるだろ、昨日観音様で仇だと言われた爺さんによく似てんなー」 『仇! あ! そうだ、あいつだよ! 何だい? 飲み納めの食い納めってのか? 所詮若い者二人にはかなわねぇから、へべれけに酔っぱらって殺されちゃおうってのかい! 聞いてみようか!』 「ん? 何だって!」 『昨日観音様で仇だって言われたのお前さんじゃありませんか? そんなとこで飲んでねぇで早く打たれちまえ』 「よせやい! 口裏聞いてみらぁ!」

「御免なせぇまし」 『何だ?』 「へっへっへっへっへ、大層見事なとっくりでございますな。 お酒飲みに二通りございまして、飲んだ側から片されないと気持ちが悪りぃってのと、飲んだだけそっくり並べといてあと何本で何本になるという、それお楽しみに召しあがるてのございますが、旦様ぁ後の方でございますなぁー、見事ですな~、よほど召し上がりますなー」 

『酒か?』 「へい」 『まず朝一升、昼一升、夕一升、寝酒一升』 「へ~~?!一日に四升!」 『其の方飲めるか?』 「飲めねぇ事は有りませんがねー、調子づくってぇと一日に一升一枡ぐれぇ引っ繰り返けぇしちゃいますがね、そうやってたんじゃあ懐が承知しませんからねー!」 『懐がと言って、家業は何だ?』 「へ?」 『営業は何だ?』 「えい・・何すか、えいぎょ・・」 『いや商売は何だ?』 「あっはっは、へぇ、でぇくでございます」

『何? 何だその”デク“てのは?』 「いえ、大工で・・」 『なぜ大工と言わん、上方での番匠(ばんじょう)、神へ立つ職。 で、手間はどのくらい出る?』 「聞かれると面目ねぇや! 早出居残りで、一所懸命やって三匁五分(さんもんめごふん、重さの単位)すかねぇ」 『三匁五分、六としてさぶろく十八、一両二分(ぶ)、二両に足らんな~』 「へー」

『ふっふっふ、不憫な奴だなぁ、うふふ、はっはっは、左様な商売やめて未曾有物の商売になれ! 儲かるぞ』 「お武家さまは?」 『わしか? へっへっへ、仇討屋(あだうちや)だ』 「へ??」 『かたき討ち屋だ!』 「かたき討ち屋と申しますと・・」

『ほれほれ、お前ここに何しに参った? 昨日浅草観音の境内・・』 「あっとっと。待ってくれい! そこまで言いやあっしら早ええや! ガマの油売ってた奴が仇だーって言ったら、待ってくれって言ってたのおまはんでしょ?」 『ふはっはっはっは、存じおったな・・(ヒック) 如何にも拙者だ』

「如何にも拙者じゃないよ、勝負は時の運、勝つか負けるか分からねぇ、やってみねぇ、やってくんねぇ!」 『ふふ、今日はやめた』 「やめた?? やめたでお前さんが済むけど、相手はそれでは済みますめぇ?」

『済むも済まぬも無い、ありゃぁわしの娘に倅だ!』 「げあ!!! ありゃ嘘かいありゃ??!! 大きな嘘つきやがったな~、大変な爺だよ、早くこっち来いよ、おい! 何だってあんな嘘ついたんだ?」

『こうしておけば本日ここへ人が出る。』 「へぇ!」 『従って近所の茶屋小屋が繁盛するわ』 「へー!」 『その上がり高の一割貰ってのー、らくーに暮らしてるのだ!』
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このネタは金馬さんに勝る人はいないでしょう。 実に面白いネタでした。 ガマの油のくだりはネットでも少し調べてみましたが金馬さんのほうがより詳しく演じられてました。 貴重な一席です。 次回は新作人情話、『釣り堀にて』をお送りします。 笑いはないのですがドラマを見てるような傑作です。

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2009/03/20 16:11
 毎度ひいきにしてもらいありがとうございます。 来月は古今亭志ん生さんシリーズです。
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2009/03/20 01:40
いいですねえ^^ 日ごろのせちがらい生活を忘れさせてくれますね。
それにしても、いつの時代も、金稼ぎのうまい人はいるもんですね。
今回も良いお話を、聞かせていただきました。次回も楽しみにしてますね~^^



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