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古今亭志ん生『庚申待ち』その4

『本当におめぇその爺さんしめ殺して熊谷の土手に二百三十両ふんだくったんだ、山口の手拭いだからな! 未だに忘れねぇや本当に!』 「じゃ熊さん何だね、嘘じゃねぇんだね?」 『熊五郎は嘘はつかねぇんだ、本当なんだおい!』 「へぇー、そうかなあ?」・・・

(パン!) 『これ! 主!』 「は・・お呼びでございますか?」 『んん・・ちょっと前へ・・閉めて』 「へえ」 『うん、あー今隣で色々な事を言っていて実に今夜は面白かった。 どうもいや、あー腹を抱えて笑って、良い晩に泊まったなと思っていたが、最後に熊五郎とか申す者が今を去ること十年前に、熊谷の土手にて老人をしめ殺し二百三十両の金を奪ったという・・』

「えへ、ありゃあもうホラ熊と申し・・」 『いや、そうではない! 嘘ではないぞあれは!』 「そうですか?」 『んん!何を隠そう拙者の父は今を去ること十年前に・・熊谷の土手にて何者かにしめ殺され、所持なしてる金子(きんす)を奪われ・・・どうか父の仇を討ちたいと・・処々方々を・・回っておった、んん! 図らずも隣にいてそれを申すとは天が言わしたものであろう。・・踏み込んで真っ二つに致そうと思ったけれども、庚申待ち、神の前も有るから、当家を穢す(けがす)でも無いと思って我慢を致した。 あの者を明朝庭前(ていぜん)に引き出してきて父の無念を晴らす! 取り逃がしては相ならんぞ! もしそれを取り逃がすような事有らば、拙者は家内中皆殺しに致すから・・そのつもりでいろ!!』 「はは~~!!」・・

「へえー大変な事になったもんだー・・・ちょいとちょいとちょいと・・あのねぇ今熊公がそう言ったろう、あれ本当だよ!」 『そうかい?』 「うーん! おめぇその隣に立派な息子さんが居るんだよ、武士で、親の仇を討とうと方々探したんだな。 そいつをあの野郎しゃべりやがった、運の尽きだねー、うん。 で真っ二つにしちゃうって、えー逃がしたらねー皆ここに居る者なで斬りだって、おめぇだってなで斬りにされる。」 『やだなー』 「だからよー、あいつさえ逃がさなけりゃいいんだがね、皆でもってあいつをふんづかまえちまおう、うん構やしないよ、うん!」

「おい、熊さん! 熊さん!」 『何でぇ、何でぇ?』 「お前今何だろ十年前に年寄りをしめ殺したなんて事は、そりゃおめぇ嘘じゃねぇかい?」 『何言ってやがんでぇ、嘘つくもんかい! 殺したから殺したてんじゃねぇか! 病に倒れてたのをしめ殺して二百三十両・・・』 「この野郎!(パン、ボカ、バシ!) 不てえ野郎だこん畜生め!」ってんで、皆でこの熊さんを縛っちゃった。 物置へ放り込んで鍵をかけちゃった。 「てめぇ明日の朝斬られちゃうんだぞーこん畜生!」 それからってものし~~んとしてしまう。・・・・・

『主! (パンパン)これ!』 「へいへい!」 『色々厄介になったがまたこっちへ来たらよるからな。』 「へぃへぇ・・え、今勘定は下げてきました、頂きましてございます。 つきましてはですなー、あのー・・昨晩の熊五郎って者どうしましょう?」 『何だ熊五郎というのは?』 「いえあなたのお父さんを熊谷の土手で絞め殺して、十年前に二百三十両とった奴!」

『拙者の父は…存命でおるがそれは何だ?』 「あれ??!! あ? 夕べあなたそう言ったじゃないですか、熊五郎って者を・・えー! あなたのお父っつぁんを熊谷の土手で絞め殺したと!」 『おおあれか?』 「ええ」 『ありゃ嘘だ!』 「あれ?! 悪い嘘だねー、あなたは!! 夕べの中じゃあなたの嘘が一番だよ、何だってあんなこと言ったんです?」

『ああ言わんとやかましくって寝られないから!』
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有難うございます。 少し聞いたことのあるネタでしょう? 実は『宿屋の仇討』というネタとそっくりなのです。古今亭一門は主に『庚申待ち』で演じているようです。 座頭が官位を貰いに行く下りですが、当時は金で官位が買えたらしいです。 位によって検校(けんぎょう、盲人の最高位で千両かかるそうですよ)などにも成れたらしいです。

 志ん生さんの使ってる方言は独特で不思議な響きが有りますが、ほかの噺家さんもそれぞれ違ってます。 ひとつ言えるのは落語独特な訛りでして、決してある地方の本当の方言を使う事は有りません、気を悪くされないように妙な言い回しで話してるという事です。結構気を使ってるのですね。

 さて来週は今でもやる人が多ございます『五人廻し』でございます。 変な方言の連発でございます。お楽しみに!

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2009/04/06 23:00
 有難うございます。 志ん生さんと言うとすぐ“火炎太鼓”、“黄金餅”と来ると思うんですが、どうも文章には向かないので外しました。 と言うのもテンポが大事なネタで文章では表現が出来そうもないのです。 トントントントンっと話す処が有りまして文章にはテンポが付けがたいのです。 特に火炎太鼓ではここだけと言えるほど重要ですのでやめました。そのせいですね、今でもこのネタはやる人があまりいません。極めて難しいネタなのでしょう。 歌と同じです。 黄金餅はやや違っていまして、暗くて陰気なネタです。 ところが志ん生さんがやると笑えてくるんです。極悪人の出世話と言っていいです。なのに面白いとは??そう言う訳で外しました。 だからこそ代表作なのでしょうが、残念です。 それにしては同じような夕立勘五郎を書いたのは不思議ですが? これと似たのに“五目講釈”と言う面白いのが有ります。 もうわけわからなくなる変な話で、八百屋おひち(上方の人情物)が出たと思ったら平清正や九郎判官が出て来て、本多平八郎が出てきた時には驚いてしまいました。 何これ??? もうめちゃくちゃ! お楽しみに!
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2009/04/06 15:56
ドキドキしながら、落語だと言うことを忘れて読んでいました。
落ちのところで、ガクッ!
今回も、楽しかったです~。☆★☆
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2009/04/04 07:53
ぱちぱちぱちぱちぱち・・・お堂に集まって夜通しおしゃべりして過ごすって、面白そうな信仰ですね^^
庚申塚なら、お散歩コースの丘の上に、いくつもありますよ。お堂は見かけませんが、昔はあったのかもしれません。



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