Nicotto Town



古今亭志ん生『猫の皿』その1

えーどうもこのあたくしは、人のようになかなか器用に行かないもんで・・話と言うものは、その話にはこう入っていくという順が有るんです。 えー、あたくしの話は・・上がったとこ勝負でしゃべっていくんですが・・えー自分ながら不思議だと思う事があります。だいちこの話て言うものは、端(はな)はてぇと小話しと言って短い話が端で、それからだんだんと長くなってまいります。 

ネズミの娘がお嫁に行って直に(じきに)帰ってきたんで、ネズミのお母さんが大変怒って「おまえはあんな結構な所へ行って何で帰って来たんだい?」 『うん・・でもお母さんあそこの家あたし嫌なんですよー』 「どうしてやなの?」 『御隠居さんがねー』 「やかましいの?」 『ううん、優しすぎるのよ』 「優しすぎるならいいじゃないか」 『でも・・猫なで声で・・』なんて・・

枡落しでネズミを捕った時代が有ります。 「捕れたかい?」 『捕れた、でっけぇ奴ふんずかまえたぞーおい!』 「本とか? 大きい! へーん・・んん、何だい何だい、ちっとも大きかねぇじゃねえか! ここんとこ見ろい! このネズミ小せぇぞ」 『うるさいよ、畜生、人の捕まえたもんにケチ付けやがら、大きいよ!』 「大きかねぇ、小せぇ!」 大きい、小さい、大きい・・てぇとネズミが枡ん中で“チュウ!”・・・

こんなのからまあ、えー端の話は出て来たもんと見えますが、えー昔はこの何処の橋にも橋番と言う者が居て、その橋から間違いが起こると橋番の責任でございまして「こういうように毎晩身投げがあっては困るではないか、うん! 其の方がここに居て分からんのか?」 『ええどうも相すみませんでございます。』って上役に叱られて、その晩こう見てるてぇと1人がバタバタっと駆け出してってね、欄干につかまって飛び込もうとするやつを後ろから捕まえて『手めぇだろう毎晩こっから身を投げやがんのは!?』・・

こうやって自然に話になってくる、そのようなのから出てくる・・両方で強情張ってるというのは良くあるんですなー、いやそうだ!いやそうじゃねえ!って、この強情張る人はてぇと、その・・昔のような古い事を先に出した人がどうしても、えー、勝ちを得るようになるんですなー、んー! 「これが石川五右衛門をうでた(茹でた)釜ですよ!」 『あ、そうですか』 でこれはどうもしょうがねぇんですな、えー。 うでたの見ていた人もなきゃあうでてた人もいないんだから、えー。 だから大きくて古いと五右衛門をうでてた釜じゃねぇかな、なんて思うんです。・・から、古い事と言うのはそりゃあ面白いもんです。 古い事は証拠と言うもんが無いです・・

まずその、そのうちで我々に分からない物は何だってぇとまず刀剣の目利きなんてのはとっても私達には判らないですなー。 あー、どうも刀剣と言ってもずいぶん種類があるもんで、まず刀剣の方では正宗・・正宗たって酒じゃねぇんで・・酒なら知ってるけども、正宗、それから定宗と言うような皆正宗の弟子にはいいのが居たんですな。

 村正と言うのがいる。 この村正と言う人はとっても気が荒い人ですから、打つより斬れる事ばかり考えてた。 斬れろ斬れろと打つから、その・・悪剣に成る。 村正の刀を持った人は何かきっと騒動を起こすんですね、えー。 ですから村正打った刀を師匠の正宗が見て「お前のような了見ではいい守り刀は打てない!」 いくら言ってもその了見が直らないのでとうとう正宗に勘当されまして、村正が旅から旅に出まして、手付き(たつき、生活の手段の事)に困って菜っ切り包丁かなんかを打った。 それが村正の打った菜っ切り包丁だから切れるの何のって、まな板の上へネギなんぞをのっけてポーンとやるとまな板がネギと一緒にパッと切れちゃう。 ネギ一本切る度にまな板切っちゃたんじゃしょうがない。 それがために売れなくなっちゃった。

そのくらいの技もんですから色々な事を起こしまして、吉原じゃあ佐野次郎左衛門と言う人が籠釣瓶(かごつるべ)と言うのを振り回して百人からの人を殺めたという、これも村正なんでございますなー。

(その2へ続く~今回は前話も面白いので全部書きました:22分)

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2009/04/15 23:41
小話もなかなか 面白いですね(^▽^)ニコニコ さて、次へいってきまつ^^



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