Nicotto Town



古今亭志ん生『猫の皿』その2

で、因州鳥取から出た柴田重三郎と言う人、吉原で大変浮名を鳴らし、その後から出たのが白井権八、この白井権八と言う人も村正を持ってた。据物切り(すえものぎり)の名人、それへ以てこう村正を持ってた。 だから堪りませんなー、人を斬るったってその村正持ってさっと斬るってぇと“鼻歌三丁焼かず斬り”なんてんで三丁歩いたそうですな。 斬られた方が分からない。

あんまり切れるから、すれ違うとたんにパーっと斬られる。 斬られた奴は“ふ~ふんふ~”(鼻歌) 「どうしたんだ、おー!」 叩かれちゃった。 とたんにパーっと倒れる。 「野郎継ぎ目がはがれやがった」 継ぎ目じゃないけども、そう言うような色々村正と言う物は騒動を起こしてきました。

昔はてぇと武士と言う者は何は無くても腰の物さえ、えー、確かな物を持ってればそれで人は許したんですからなー、だから腰の物には金を賭けます。 その腰の物に金を賭けてた時分には田舎から出てきた武士と江戸の武士とで、なんか違うんです。田舎の方はこういう風になって歩いてますなー、とにかくこう刀の柄頭下げちゃって、刀の小尻がこんなに上っちゃってなー、天神様の刀みたいになって、すぐ分かる。

そこへ江戸の武士はてぇと柄頭上げて、こういう風にやってて、分からないというくらい。 だから鞘当てと言うのを江戸の武士はあまりしない、武士と言う者は鞘当てをしたらば、言い訳言いようがない、もう駄目ですな。鞘がかちんと当たった以上斬られてもしょうがないですからなー、だから鞘がパンと当たったら、さっと両方で飛ぶそうですな。

・・からすぐ果し合いをするそうです、それが段々と世の中が徳川の末期になってきますてぇと、そう言う事が無くなって参ります。 「えー、野暮だよー、刀なんぞ持って歩いてるのは、ねー! あの人はあれは何だよ、武士で居ながら三味線弾くぜー」 『うん、いい声だね、粋ですな』なんてな事を・・

先祖伝来の名刀を売り払って茶器を求めたってのは・・「どうです、これでなきゃいけませんよー」と言うように穏やかになってくる。 そうすると向こうでは茶の湯の会が有るとか、こっちでは美術の何々が有るとか、そう言うものが段々段々流行ってくる。

蒔絵の、誰の蒔絵じゃなきゃいけない、茶碗はどういう焼きがいいとか、そうなるてぇとその売り買いする人がいる。 値何ぞは構わない、幾らでも売れるけれども人が持ってる物を放さなくなってきた。 品物が足りなくなってくる、いい物が無くなってくる。

だからその地方を歩いてそれを探してる人がいるんですなー、これを旗師と言いましてさんざんそういう物の商売をして骨董屋をし、失敗をし、いろいろな事をしている内に段々段々目が利く(きく)ようになってきて、人にものを頼まれて買ってきてやったり、いろんな口をきいたりする、これを旗師と言う。

今でも茶碗でも何でも少し価値の良いんで古いてぇと安くないですからなー、美術クラブなんぞ、こないだ出たので茶碗一つ三百万円(昭和30年ごろですから、サラリーマンの月収が数万円の頃)・・茶碗に成りてぇくらいのもんで・・この旗師が方々行っちゃあ何かを、えー安く買ってきて江戸へ来て、この渡すてぇとそれがパーっと売れてくるから、旗師も儲かるし買った骨董屋も儲けがずっとある。 方々歩いてるんですなー・・

 三度の笠に足ごしらえを厳重にして素赤の矢立(やたて、筆記具)かなんか差して、この旗師が方々廻って歩いているけれどもそうそういい物も出ない、たまには骨折り損のくたびれ儲けで、河童の川流れて事が・・ムカデも転ぶてぇからそういう事も有るんですなー、いい事ばかりはない。

今日ももうしょうがないから帰ろうと川越の宿の手前まで参りますとまだ日が落ちない。 ちょうど只今で言ってみたら4時ちょいと過ぎでございます。 向うを見ると葦簀(よしず)ッパリの茶屋がございまして、良く芝居などで有るような茶屋で、縁台が2つ並んでいる。 市松の柄の出た御座が敷いてありまして、つるべ型の煙草盆がそこへ置いてあります。 ヒョイと向こうを見ると竃(へっつい、かまどの事)の縁を吹き竹で一所懸命に吹いてる。

(その3へ続く)

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2009/04/15 23:49
村正の話から、旗師の話へ、こういう話の流れもみごとなものですねぇ~(^▽^)



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