Nicotto Town



古今亭志ん生『猫の皿』その3

「ちょいと休ましてくれ・・えー、あー、いいよ、お茶はいいよ後で、んん、あんまりくたびれたからね~、ここで休んでいこうと思って・・あー、いいんだよ・・え? 何? あーあ、なに、宿へへぇちゃえば何でもねぇんだけどもねー。 あーくたびれた。・・あーいいねーのんびりしていてね~、のどかと言うのは今日のような日だなー。 山をも笑うというのはこういう日の事だ、えー、驚いたねー、何処行ってももう、田舎の者は知ってるくれぇだもう・・おじさんこの流れは何かい、いつもこんな綺麗なのかい? あーそうかね、下がビーズなんじゃねぇかなー! いい水だねー、江戸じゃあこんな水は飲み水だよ、本当だよ、あー・・あーいいねー、あーあー、メダカが鼻揃えて泳いでやがる・・暢気だねメダカって奴は・・」

と、こうじっと見るとそこに皿が置いてございます。 その皿をこの旗師がひょいと見ると・・高麗の梅鉢と言う、実に・・すごい様ないい皿で有ります。 まずこの江戸の物持ちでこういう皿が10着揃う家てぇのは無いくらいで、一枚放しても三百両には羽が生えて飛ぶように売れる皿です。

なんでこんな所にこんな良い皿が有るだろうと思って、分からなくなってきた。 「(この皿・・何だ・・皿に飯粒が付いてると思ったら、あそこで猫があくびしてやがる。 あの猫にこの皿で飯を食わしてんのか?・・へ!知らねぇんだなー、おー、どうしてこんな物が有るかなー?)」“パッ、フ~~”(煙草です)「(じゃ知らねぇんだから何とかしてふんだくってやる、なー!) あー、いいんだよ、いいんだよーただ休むだけだから。」 『えーまだぬるいかも知れませんが・・』

「えーえ、ありがとありがと、えーへ、うーん、あんまり熱いやつはいけねぇんだよね。 お茶の熱いのは癇癪に障ってね、えー、早く飲もうってぇと暑くて飲めねぇしね・・あーあー、あの松は良い松だねー、えー、うーん、いい松だなー、うーん、相当古いんだろうね、うん(ちょろちょろ皿を見てる)、あのくらいの松てのは何百年ぐらいたつだろうなー。 松は男の立て姿と言って、あー松というのは気持ちのいいもんだね、おじさん! えー、ううん・・あああ来たぞ、よしよしよし・・」 『あーあ、お、お客様その猫駄目です、そいつはいけないんですよ。』

「いけなくたっていいんだよ、俺は猫好きなんだからなー、へへへ、いいよ、いいよー、ふふふ・・」 『え、そいつはまあシッポばかり長くてねー』 「シッポ長くたっていいじゃねぇかなにも、猫のシッポ長ぇのいいよ、シッポで人の喉絞める訳じゃねぇんだなー、何言ってんだって言ってやれ、長くてワリィかと言ってやれ、へっへっへっへっへ・・ゴロゴロゴロゴロ言ってやがる、可愛いもんだねー。 えー、お前鼻が冷たいぞー、ふふーなぁー、うー俺ぁ好きなんだからしょうがないよ、猫が、うー、うん?懐へえる? さ、入んな、入んな入んな入んな・・入んな」

『あ、そいつ、およしなさい、毛が抜けてねー』 「いいんだよ、いいんだよー、俺ぁ好きなんだからいいんだよー、黙っててくんなよー、んー、なー・・なんでぇ?あー、俺の顔不思議そうな顔して見てるよ、んー・・ふふーん・・え、あー、俺んとこにも猫がいたんだけどもね、どっか行っちまいやがった、うん。 内のかかあがね“お前さん、どっか行って猫一匹貰ってきて”って言う、中々ねぇんだよー、うーん。で、どうだい、この猫俺にくんねぇか?」

(その4へ続く)




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