「“いいえ、すまなく無いよー・・あたしゃお前さんが好きだからさー、んん、もう今夜遅いんだよお前さんねえ、ちょいと兄さん、今夜上がってもらえない、え？　いえ無理に頼んじゃ悪いんだけどもね、夕べもおとといの晩もお茶引いちゃってるんだもの、だから今夜御内所にねきまりが悪いんだよ、だからこんな遅くなったのにお客呼んでんの、ねえあたしを助けると思って上がってくんな、ね！”

“駄目なんだい、まだ廻るんだい”　“廻るったってもう皆寝ちゃってるよー、ねえーそんな事言わずに上がってよ！”　“嫌だよ”　“いいじゃないかねぇー、えー、チョイトチョイト兄さん、ね、後生だから、ね！ええ？上がんないの？よすの？冷かして行っちゃうの？・・へん！何処行ったて寝るとこなんかありゃしないよ、何だい本とに・・上がれねえんだろ！？”

“何でぇ上がれねぇとは？！　何言ってやんでぇ、上がれねぇ事はねぇや！　気にいらねぇから上がらねぇんだ”　“何だ？　気に入らない？　何言ってやんでい畜生！　どこが気に入らねんだい？　上がりたくても銭が無いんだろ、銭無し！”

“銭無しとはなんでぃ！有るかねぇか分かるかい？”　“有るか無いか分かるか？　へん！見りゃあ分かるよ本とに・・後生だから助けると思って上がってよって女に言われりゃあねえ、男としてはねー、上がるもんだよー、えー！それを上がれないんだろー、へへ、有ったら銭を見せやがれ！そうしちゃあ煙草飲んで逃げちまいやがらー・・泥棒！！”

“泥棒とは何だい！！畜生！　客つかまえて泥棒とは何だ！？”　“何だー？客だー！ふざけた事言いやがんな畜生！客てのはなー上がるから客だ、何言ってやんだ本とに！　えー、野宿でもしやがれ！”　“何お、こん畜生め！”

“おお、お、おう、お、お！”　“何だ？何でい？”　“何だじゃないよ、よせやい本とにー、よしなよおめぇ女相手にして喧嘩なんかすんなよ～”　“女相手にしたってって癪に障るからだなーおめぇ”　“癪に障るったってぐずぐず言うなよ、え！　そんなに喧嘩してぇのかおめぇ、そんなに喧嘩してぇなら俺が相手になってやろうじゃねぇか！”

“何を！？　相手になる？　おーお、売るのか喧嘩、買おうじゃねぇか、当たりめぇだな本とに！”　“持ってこい！”　“何を？！”　“持って来いってんだよ！　殴るんなら殴れ！”　（パカン！）　“あ、こん畜しょ、殴りやがったなこん畜しょ！”　（パン、パカン）　“こん畜生、この野郎！　俺を誰だと思ってやがんだ！　さー、さー何人でもかかって来やがれ！　おう！　さあ殺せ、畜生殺せ！！”　“何お生意気なこと！”　　　
（バカ、ボコ、ギャッ！、アウウ！、ハ！・・・）　“殺しやがれこん畜生め！　さあ殺せー！！　殺せー！！”」・・・

「たまに内にいると思うとまあ・・大きな声を出しやがって・・喧嘩してるよ、一人じゃねぇぞこりゃあ、しょうがねぇなー・・・定や！・・定！」　『へ！』　「何か・・二階で大きな声してんな。」　『え？』　「お前行って大きな声出しちゃいけないって、喧しいから・・行ってきな！」　『へい』・・・

『あ～あ！　えー、綺麗だねー！　おお明かりがついて綺麗だね、なー・・へ～～・・・あそこに誰か居らあ・・ほっ被りして、泥棒だありゃ、泥棒だ・・ああ若旦那だ、なぁんだ若旦那だ・・喧嘩してる、一人で喧嘩してる！　うへへ、自分の胸ぐら掴んでやがる！・・・若旦那！若旦那！』　「さあ殺せ！　何人でも掛かって来いってんだ！」　『ううん、何・・若旦那、若旦那！』　「何を言ってやがんだ、そんな事言いやがって、手めぇの・・さぁこい！こん畜生！（パン、パカ！）」

『ああ、しょうがねぇな、若旦那、もう・・ううん・・（パカ！）若旦那！』　「あいて、何しやが・・あ！？何だ、定吉か？！　あー悪い所で会ったな～・・大変なとこで会っちゃったな～・・ああーおめぇねー、俺にここで会ったって事、内へけぇったら親父に黙っててくんな！」
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お疲れさんでした。毎度玉置さんの解説です。
“いかに大店か、つまり二階に立派な吉原を造作として作ってる、出来上がってるという事も大旦那は知らないんですね、当然見て来いと言われた小僧さんも知らない、ねぇー、如何に大家か！　実に珍妙なネタでございました。”

当代では談志さんが掛けるくらいだそうです。次回は『五目講釈』にしようと思ったのですが、やはり“取り”（最後に演じる人あるいは演目）ですから大ネタで『柳田角乃進』にしました。５０分を超える大ネタですので何日かに分けます。