Nicotto Town



古今亭志ん生『柳田角乃進』その4

その金を色んな物を引いて50両という物が明くる日の昼時に柳田の手へ入った。 それを前へおいて柳田角乃進が、「許してくれ!・・遊ぶにも床を選べと言うが、それだ・・俺が悪かった!」・・・

『今ちは!』 「おお万屋の御支配か」 『ええ、今ちと言う・・』 「んん、ここに50両有る、これを持ってけ!」 『は、左様すか・・えーどうもね、酔ってしまう・・』 「よく酔う酔うと言うな! 分からん奴だな、拙者は知らないのだ、天地の神に誓って柳田は左様な事は致さない、その場に居たから俺が出すのだ、良いか! しかし・・拙者は知らない・・御主人もそれは知らない、それでひとりでにその金が紛失しているのは何か後(ご)にきっとこの金は他より出てくる事もある。 もしその時にこの柳田に何と其の方は言うな?」 『えへへ、出て?!・・出て参りますれば・・ま、出てくる事はございま・・出てきますればそりゃあお武家様に対してかような失礼な事を申したのですから・・ま、あたくしのこんな首でも貴方に差し上げます。』 「それに相違ないか?」 『ええ、この首をパッと上げましょう・・ついでに主源兵衛の首と2つ上げます!』 「忘れるな!」 『へい!』・・

『旦さん!』 「ああ何だい番頭さん?」 『あのー、先だって十五夜の晩に失くなった50両が出ましたよー』 「出た?! そうかい、言わないこっちゃぁねぇんだ、な!んん!・・どこから出たい?」 『やっぱしあの浪人です、え! 昨日行って懸け合ったらねー、えー! 知らねぇてんです、願って出るってったら、実は例のあれを切りましててね、へえ、明日来いてんで今日行って50両取って参りました。』 「おいおい! 誰が柳田様の所へ行って取って来いと言ったい?え!」 『へぇ?』 「あたしがそう言ったろう、あのお方が持っておいでになるには余程要る事が有るからお持ちになったんだから、いいったじゃねぇか! 勝手に行ってそんな事して取ってきて、え! お前だよ主人思いの主倒してのは! あたしは50両の金どうしたってあのお方に使ってもらうよ!」

その50両の金を持って小僧を連れて柳田んとこに行って見るてぇと、家は釘づけになって居ります。 家主立会の上でこじ開けてみると所帯道具そっくりそのままになっていて、突き当りの壁にその筆の鮮やかにも、「長らくお世話になったが故あって他へ引き移る者也」というような事が書いてある。 「道具万端は宿賃滞りの事ゆえに売り払い下され。 浪人柳田角乃進」とある。

これを見た源兵衛、「あ~、何処へおいでになったあのお方は? あ~惜しい人を失くしちゃった!」 手分けをして柳田角乃進のいる先を・・どこに居るか分からない。

 その金の失くなったのが8月十五夜の夜、9、10、11、12月、ちょうど暮れの28日、あー言うその棚方では煤掃き(すすはき)という物が有る、その日一日薄商い、休みで、店休んで方々掃除をしている。 「旦那様のお居間掃除してこい」 『へい!』てんで小僧がパタパタと掃除をしている。 富士の額が有る、その額を取って掃除をしようとするとバタッと落っこった物が有る。 『やあ? これはお金だ!・・旦さん!』 「何だい?」 『あの今旦那様のお居間の所の富士の額を取りましたらば、お金が落ちて参りました。』 「そいじゃあ柳田様は・・50両どこで工面なすったか?・・番頭って奴ぁだからろくな事をしない・・」

「徳兵衛!」 『へい!』 「あのー、柳田様と碁を打った事有った、一五夜の晩に」 『へぇへ』 「あんとき五〇両の金が失くなったろう!」 『へ?』 「出たよ!」 『え?』 「出たよ!」 『え、出ましたから旦那様にあたしお渡ししたんです・・』 「そうじゃないよ、他から出たよ。 額の後ろへ私がはっと置いといたやつを忘れちゃったんだ、その金がこれだ。 お前さん柳田さんが50両もって来たが、どうして柳田様はあれを拵えた?」 『へ? ほ? お! うう・・』 「しょうがない! あれだけの立派なお方にそんな汚名を着せて、えー! さあ、あの人、ど、何処に居るか捜さなくちゃ」 『いやー、そ・・捜さない方がいいですよ・・うう、捜すと大変ですよ、えー、五〇両の金を受け取る時向うで、“これは俺は知らない、天地の神に誓って知らないんだから、その場にいたのが不運だから俺が出すんだから・・もし後に至ってその金が脇から出てきたらどうする?”とこう言ったからあたしは出る訳が無いと思ったから、“えー、出て来たら首を上げます”って言ったんです、えー!』 「じゃ首を上げたらいいだろ! あれだけの人に汚名を着せたんだ、首をやんなさい!」 『えー・・でも、一つ・・どうせ出ないんだからと思って、旦那とあたくしの首合わせて差し上げますと・・』

(その5に続く)




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