Nicotto Town



古今亭志ん生『柳田角乃進』その6

「さあ、もっと来なさい」 『へえ』 「やあ浪々中は色々世話になった。 さあ飲みなさい。」 『へえ・・柳田様! 貴方にこれを申し上げない・・うちは・・お酒も喉に通りませんので・・』 「其方(そなた)どうした?」 『8月十五夜の晩に五十両失くなりまして』 「んん!・・春早々、左様な事を言ってはならん、この柳田その事については寝た間も忘れた事が無い、今以前の主人の許へ帰り留守居役で200石を取っているが、寝た間も忘れた事は無い、んん・・」

『それに付きまして、お話を申し上げます!・・あの50両は暮れの28日大掃除に、煤掃きに・・離れの額の後ろから、50両出たので御座います!』と言って、言うとたんに番頭がバーっと逃げようとした。 え!それを言って逃げたところでしょうがないのだが、足が承知しませんなー、“出ました“ってぇと足がピャーッと畳に躓いてターッと倒れた。 「何!? 50両出た!・・そうか!・・ああ今日は吉日である、定めしこの金の出た事を娘が聞いたら喜ぶであろう! うん、分かった・・まあ一杯飲みなさい。」 『へぇ、もう・・』 「お前さんに50両渡す時、何か約束したことが有ったな」 『(始まったよ)ええー!(べそかいて)』 「明日昼時に行くから主人によろしく・・」 『へい』 「あの今宵・・湯に入ってなさいよ!」 『へぇ・・』 「首の垢を綺麗に落として・・」 『えっひっひっひ!!』 番頭徳兵衛どうにもしょうがない・・・

帰って主人に話をすると主人の源兵衛が、「頭から聞いたが柳田様に会ったそうだね・・明日柳田様が御出でになったらお前は出ちゃいけません、あたしが主人だから、その罪は引き受ける、お前は出てはいけませんよ!」 こう言って・・明くる昼時に柳田が供を連れて参ります。

「これはほんの心ばかり」 『どうも相すみませんでございます、昨日徳兵衛が貴方様にお目に懸かったと・・以前の御主人に御帰参が叶ったとの事、実におめでとうございます。・・つきましては十五夜の晩に貴方に50両という金が失くなったから、とこう言って何でもかんでも柳田様のとこ行って50両取って来いと言いつけたのはわたくしで御座います。 番頭はただ主人の言うがままにそう言う事を致しました、あれには60何歳になる母も御座います、どうぞあたくしをお手打ちに願います。』

『旦那ー!』 「これ、番頭!なんで出るんだい!」 『冗談言っちゃいけません! あ・・とんでもない、柳田様! 旦那は行かないでいろと言うのをあたくしが無理に貴方のとこへ行って金を取ったので御座います。 罪はわたくしに有るんでございます、どうぞあたくしを手打ちにして下さい!』 「何を言うんだお前は、今・・」

「今さらになって二人で左様な事言っても相ならん!! 二人首に致さんければ・・廓に努めを致しおる娘に対して相すまん、んん!! あの時の50両は娘が身を売った金である、直る(居直る)出ない!!」

「はい・・お前だけ助けてやろうと思ったがそうもいかなくなった・・二人でお手打ちになればよい・・」 『旦那、まことにすみません!』

合掌を組んだ奴を後ろへ飛び下がって柳田が、区切りの時の一刀の鞘を払って、「覚悟は良いか?!」 ピャーッと振り落す一刀のもとに、源兵衛、徳兵衛の首がゴロッとそこへ・・・・・・・・・落とさなかった!

柳田がパチッと鞘へ収めたのを見て、『柳田様! お手元が狂いましたか?』 「馬鹿を申せ・・二人とも手打ちに致そうと思ったが・・主人はその家来、その使われる者はその主人を案じ、両方の人情によって柳田がこの刃(はがね)も鈍った!・・助命致す!!」・・『はぅ!!・・すいませんで御座います!・・・お嬢さんは吉原の半蔵・・』 人を持ってすぐに柳田の娘をここへ連れて参りまして・・・

『どうぞお詫びの言いようも・・お嬢さんをこれへ連れて参りました。』 「親子の縁を切ったから俺の娘ではない。 お前が身受けをしてきたんだから、この娘をお前さんのとこへ上げますからどうにでもしてくれ」 『は?』 「それで婿を取ってこの万屋の跡を継がしたらよかろう」 『まことに相すみません!』 「これなる徳兵衛は主人を思ったため我が一命を賭けるような事に成り、また娘の絹は親のために自分の身を沈めるような事になった。 片っぽは孝主、片っぽは主人の為の忠、忠と孝と2人を夫婦にしてこの万屋を継がせなさい。」

吉日を選んで高砂や控えの間、静かに歌い納めてこの2人が夫婦に成り、この間へ出来た男の子を柳田の家名を継がせて三方が丸く収まるという、柳田の堪忍袋で御座いました。
―――
文字数中途半端なのでコメントの方にあとがき書きました。

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2009/04/30 21:33
もうねw途中でどうなることかっとドキドキしましたよ。
すごい話ですねえ~それにしても、
柳田様の最後の三方丸く収めた判定は立派なものですねぇ~!!
こんな人が、今の国会にいてほしい・・・
今夜もとっても楽しい夜をありがとう^^
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2009/04/30 12:04
大変お長くなりまして、読んでいただいた方に感謝です。 志ん生さんには珍しい人情話です。 志ん生さんの人情話はあまり評判良くないとの事ですがそうかな?と思います。 番頭と柳田の出会うシーン、駕籠屋をいたわるところなど柳田の人柄が細かく示されててとても芸の細かいところです。

さて志ん生さん特集一応幕となりまして、来月は私が最も良く聞くお話し、これぞという物用意いたします。 初めの2席は秀吉さまのお話、後の2席は志ん生さんのお弟子さんが登場します。 五月の始めは講談ネタで、旭堂 南陵(きょくどうなんりょう)さんの『太閤記から、矢作橋(やはぎばし)』です。



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