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森乃福郎『太閤の猿』その2

ここが頭がええ、曾呂利新左衛門は、『はい、殿下が猿に似させられてるのでは御座いません、猿幸いを得て殿下に似たものかと存じます。』 「成程、余が似てるのではなく、う~ん、猿が余に似て居るのか!・・おんなじこっちゃ!」ってゆうてね! もうあんた言葉遣いも乱雑になって参りますがね。

「うん、面白い!・・しからば余にそっくりの猿を探して参れ!」 君命で御座います。
さあ曾呂利新左衛門さん大変で御座います、方々捜しましたが・・顔はもうどの猿持って来てもピッタリなんですけども、身体つきもこう似てる奴でないとあかんと言う事で方々捜しました。 幸いのこと丹波の国にお百姓さんの飼い猿、これは年を経て居ります、こう毛も真っ白になって居ります白いサルで御座います。 もう身体つきが太閤殿下そっくり! 3百両という高額なお金で贖い(あがない)求めまして、殿下のお目通り・・

「ん~ん、愛い(うい)奴じゃ!・・お~、その猿が・・ん~余に似たのか! お~そうかそうか・・え、それならばこの猿め、余と同等の風をさせよ、んん! そして余と同じような扱いをせい!」

さぁ~えらい事で御座います。 太閤殿下とこの猿と同じように扱え、同じようなカッコさせいという訳で・・ま、もちろん御召替えというのが下りて参りますが、白羽二重の衣類に、それから紫の踏み込み(?)、角切りのこの羽織で御座います、それから中啓と言いまして扇子をこう半分程広げたやつ、よく持ってますな中啓! プロ野球中継やおまへんで、これを持ってお目通り・・さぁ~どちらが太閤殿下でどちらが猿か分からへん。

「んん~、面白い奴じゃ! 武村三左衛門宅へ預ける!」 さあ武村三左衛門さんという家来、さっぱりでおわすわこれ! 普通の人間預かるんやったらともかく、猿や! しかも太閤殿下とそっくりで御寵愛(ちょうあい)の猿、もしもの事があったら切腹もんですわ、もうあんた見はり番立たすやら何やらと一室に小屋を作ってそん中へ猿をこう入れまして、もう三食太閤殿下のお召し上がりになる、そのお膳をば同じ物を作って参ります、二の膳!・・

しまいに猿の方もあんまりごっつぉ食べて、文句言いだしよった。 『ちょっと武村はん!』 「お前なー、その猿やのに物言うのか?」 『落語では何でも物言いまんのや!』 「まあそらこっち置いててええけどなー、何や?」 『もうねー朝から晩まであんた私、もうごっつぉばっかり食べさせてもらいまっしゃろ! それ有り難いんでっけどなー、も、この頃胃ーにもたれて胃ーにもたれて・・どうでっしゃろ今晩あたりは奈良漬けに茶漬け食べさしてもらえまへんか?』 贅沢言うとりますが・・

毎日のようにお城へ上がってこの猿が太閤殿下とこう色々遊んでおりますが、ある日の事太閤殿下、え、運動がてらという訳で城内の御廊下をず~っとお歩きになって、で太閤殿下だけかと思うとその後ろからおんなじカッコしたおんなじ顔付きのこの猿がチョコチョコチョコチョコと付いて来よる。 そこの御廊下というのは大変に見通しがよろしい御座います、各お大名がご挨拶にという事で上がって参ります。 遠目に見える訳です、え~!

『お!殿下が来られた!』 ちょっと傍ら(かたわら)へ寄って、『へへぇ~!』っと黙礼で御座います。 「んん皆の者、よう来たな~! んん、後から来るのは猿じゃ、んん、よく見ておけ~!」 てな事言いながら・・

『あ~、あれが殿下御寵愛の猿で御座いますか! 良く似て居りますな!』 「左様全くそっくりで御座りまするな~!」 てなこと言うております。 これを4,5日続けまして、で今度は廊下を歩く順番を変えましたこの太閤殿下は、先にこのお猿を歩かした。 で、後からその殿下がチョコチョコチョコチョコっと付いてくる。 大名の方はそれ分かりまへんさかいな・・

『お~、向こうから殿下がお越しになった!・・へ、へへ~!』 「こりゃこりゃこりゃこりゃ、そりゃ猿じゃ、猿じゃ! 余は後ろじゃ、余は後ろじゃ!」 『おおー、これはこれは御無礼を致しました。』 「う~ん、面白いな~、2度頭を下げよった!」 しょうも無い事で喜んで居りますがね、偉い人というのはそういうもんで御座います。

そうこうするうちにそれが飽きてきたんで太閤殿下は今度は袋竹刀(ふくろじない)を猿に持たせまして、そしてこの、人の首筋の所をポ~ンとぶつ、これを教えました。 猿の人真似と言いますように猿は知恵が御座いますから、直ぐにその袋竹刀持ちますと叩く事を覚えてしまいよる。 さあー何とかこの猿に上がってくるお大名を叩かしてみたい・・

(その3へ続く)




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