Nicotto Town



森乃福郎『太閤の猿』その4

「あ~、そこに小屋が有るな、その中か?」 『は、それではどうぞ・・』 小屋の戸を開けますとそっからこうヌ~ッと出てきました。 政宗公その猿の首筋をダ~ッとひっ摑まえました。

「お~りゃ、おりゃ! 其の方が、う~ん! 其の方か! 殿下のお言い付け有り条、大名の首をぶつというのは? 其の方か、よ~し! 余が一度懲らしめてやる、良いか!」

言いながらこの首筋をギュッと持ちまして畳の目が御座いますな、そこへその鼻柱をくっ付けまして、“ゴ~シ!ゴ~シ!ゴ~シ!ゴ~シ!” 大根おろし作ってるようなもんだこれー、え~! で、真っ赤になってもうた、鼻の頭が、ねー、尻だけじゃない、鼻の頭まで真っ赤になって、こりゃもうえらいこっちゃちゅう事で・・

「良いかー、んー! 余は明日登城する、もし其の方が余を打てばそのままでは捨て置かんぞ! その場においてひっさいでくれる、良いか!! 余の顔を見よ!」っとこの顔を見せた。 “うわ~~!”てなもんで・・「分かったか? 分かったか? さ、入っておれ!」“バタ~ン!” 小屋へ放り込んでしまわれて・・・

さあ、明くる日で御座います。 その伊達の御殿様がいよいよ登城と言う事に成りまして・・『伊達大膳太夫政宗で御座りまする。 殿下には麗しきご尊顔の呈を拝し恐悦至極に存じ奉ります。』 「ほ~、これはこれは伊達殿か、よう来られたー。」 清正やとか正則とか、嘉明とか、且元とか、あーいう者はもう皆昔からの家来で御座いますから、“おお正則か、清正か”気軽に言うてはりますが、伊達の御殿様と言うのは客分で御座います、はー、大したもんで御座います。 もうこの太閤殿下も割りに丁寧な言葉をお使いに成る。 “伊達殿か、よう来られた”そんな風にしてるかと思うと、これ伊達政宗に・・あの猿でポ~ンとやってみたいなと言う、これやっぱ起こりますわな人情として・・こんなもん人情じゃおまへんけどもね。

頭を下げてる所で、「猿、行け!」 猿はこう知らんもんですから、袋竹刀持ってチョコチョコチョコチョコっと、で政宗公の首筋を叩こうとしますと、政宗公がその独眼竜の顔でもってグイッとこう睨んだ。 『(そうら!!)』

『あ~、昨日のおっさんやこれ! 痛い目におうたがな、鼻柱擦られてあんた! えーもう、叩いたらあんた引き裂く言われたんだ、畜生! こらあかんこらあかん、こらもう逃げるに越したことない!』 とチョコチョコチョコチョコっと殿下の側へ戻ってきた。 「猿、どうした、ん? 行かんか! 行けー!」 『あ~、難儀やなこれ! もう内の大将はあんた、昨日の一件知らんのやこれ~! 難儀やなこれもう~、と言うて行かなんだらいかんしな~・・よいしょふー、よいしょふー・・もう行ったろー!』 てなもんで、またチョコチョコチョコチョコっと行きますと政宗公がギョロッと、こう睨まれます。

『うわぁ~~、桑原桑原!』 と言うとかえって参りますと、「猿行けー!」 行きゃあ睨まれる、戻りゃ猿行けー! 行きゃあ睨まれる、戻りゃ猿行けー! この時中に入って一番猿が辛かった!!

そこでその歌が出来あがった訳で御座います。 『猿とはー、辛いね!てな事おっしゃいましたかね~~!!』

独眼竜政宗放送される前の年の演目でしたね。 この方は初めは笑福亭福郎という名だったらしいですが(師匠は笑福亭福松さん)、この一門は噺家は売れにゃあいかんと言う松鶴師匠(上方落語界の御意見番)の方針でテレビに登場してた際、女優さんの命名でこの名に変えたそうで、以後ずっと森乃福郎で通してるとか、息子さんが同じ名を襲名してるそうです。

次回は志ん生さん(本名美濃部孝蔵)のお弟子さん登場です。 まずは志ん生さんの長男である、金原亭馬生(本名美濃部清)さんの『臆病源兵衛』をお送りします。 ちょっと怪談じみたとこも有り、夏の話で早いのですが・・

アバター
2009/05/14 23:52
 “去りとは”とは、誤植でして“然りとは”と書きます、“そう言う事とは”という意味でして調べ不足でした、おそらく知ってらしたようですが…

 それにしても不思議に誰も読んでくれませんね・・私が変なのでしょうか? 独り者でもう先が見えるが、こういう知的財産を誰かに残したいのだが居ない!! 1000席からあります、もちろんメディアや落語界(尤もそのタッチなどはかなり疑問ですが?)にはあるでしょうが40年溜めてたものです、誰かに残したいと思うのはしょうがないでしょう。  私は自分だけでこの財産とも言える物を持っててもしょうがないので若い人に伝えたいだけでこれをしてるのですが、ずいぶん色んな人に片っ端から宣伝したのですが誰も読みに来てくれなくて・・この人間国宝級の話も私の心の中だけであの世行きかと・・悲しいです・・人間の趣向は時代とともに変わるのですね・・漫才が嫌いではないです、しかし最近はあまりに軽いですよね・・また体力芸的な所が有ります、そこが嫌です。 歌舞伎、浄瑠璃、猿楽、狂言、落語、講談、浪曲、昔話?は日本の宝と思います。 消えてしまったら神社仏閣と同じでせいぜい拝む人がいるだけ・・・不思議な程に珠玉の名作に目を向けず、軽薄なネタに飛びつく! 余の趨勢ですかね・・
アバター
2009/05/13 22:45
ほお~ ”猿とは辛いね ♪” とはそういう意味だったんですか。
なるほどねえ~…
今夜も面白いお話を、ありがとうございます~❤



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.