『“（ガタガタガタガタ）お化けだ！　お化けが部屋へ入ってきました！”　“お化けが？”　こっちもガタガタ震える・・あっしが隣の部屋へ入って行ったんですよ・・女郎ですよ、ね！　怒ってんですよ。　“あたしが入ったら、ギャー、お化けだって、突き飛ばして逃げた！”てんで、こりゃ怒りますよこれはね。　えー、だから、“お前よく見ろ！　ね、こんなお化けが有るか！　こんなお前・・・う～・・まあなー、暗いとこで見ると、そう見えるけれども、お天とう様の下で見ればいい女だよ”か何か・・こっちもしくじっちゃった。　あーもうそれっきり行かないからね～、あの野郎昼遊びに行くんですよ、その女の所へ・・夜は怖い！・・おかしい男ですね～』

「まあまいいから飲みなよ。」　『そうすか、有難う御座います・・（ググッ）・・えー、やー、暑気払いに飲むってのはいいもんで・・ええそうすか、あー生姜ですか、えー生姜に味噌を付けて食うなんてのは・・夏は、うん！口の中ぁピリッとしまっていいもんですな～』

「んん、まあ大した御馳走はねぇけど、まあ飲んできなー・・俺も一人もんだ、どっち道寝ようったって寝られやしねぇ・・よかったら夜明かししていきな！」　『そうすか？　えー、有難てぇな～、えー、そうしてもらえりゃあもうね、あっしも家で寝たって暑苦しくて寝られねぇんですよ、えー・・・どうでしょう、ここへ源兵衛呼びましょうか？』

「源兵衛？　ふふ、来やしねぇよ！」　『来るんですよ、一つだけ方法があるんです、えー！　兄いの妹さんのおしんちゃん、えー、あれにもう馬鹿な惚れ方をして・・』

「う～ん、何かそう言ってたな、源兵衛がおしんを好きだって言ってっからおしんが内に来なくなっちゃう。」　『あそうですか！・・でそのね、おしんちゃんが来ているよと、“源兵衛さんの姿が見えないがどうしたんでしょう？”何て言ってるとか言えば、やっこさん慌てて来ますよ。』　「そりゃ来るだろうけども、おしんは居やしねぇ。」

『いいんです、居なくたって・・ここへ連れて来ちゃえばこっちのもんですからね・・で、あっしがちょっと話をしていて、“じゃ、ちょっと酒買ってきます”てんで裏から抜けて、すーっとね・・台所へまわります。　玄関から出て台所へまわる、どっちでもいいや、う～んと、とにかく台所に居ます。　で、こっちからあのね、ここえねぇ・・何ですけども、踊りに使う赤い手拭いが有るんすよ、ね、これをスットコ被りして、ちょいと笑うんです・・これをフワッと掛けて・・フワッて・・台所から、いいすか！　その時に兄貴はね、あのー、水差しかなんかへ、“ちょっとこれへ水汲んできてくれ”、こう言うんですよ。　やっこさんが水を汲みに来る、そこへフワッと出る・・“ギャッ！”っと引っ繰り返る・・ひひひ、こっれはねー！面白いですよ！！』

「・・よした方がいいなー、それはなー・・どっちにしたってあんまりいい事はないよそれ、えー！　からかうにも程が有るからなー。」　『いいえ・・やりましょうね、えー、あの面白い、えー・・あいつだってね、あんな事してたんじゃかみさんも貰えないしねー、商売はいい腕持ってんですからねー、商売も日が暮れるとあたふたと帰ってきちゃうんですからねー、え、じゃあね、そういう事で、えー今ちょっと呼んで来ますから。』・・・

『おぅお、この暑いのにまぁー雨戸閉めて！（タンタンタンタン）　おう！　（タンタンタンタン）　源さん！　（タンタンタンタン）　源さん！』　「は・・・何・・どなたでしょうか？・・何でしょうか？・・・誰です！！・・誰です！！」

『おい、そんな声出すなよ、分かんねぇのかよ、俺だよ、八だよ。』　「あ、八っつあんですか、お一人ですか？」　『俺一人だよ。』　「本とですか、何か用ですか？」　『用ですかじゃない、雨戸ぐらい開けなよ、友達なんだから。』

「へ・・・雨戸・・開けます・・へ・・ふふ・・（隙間から覗くしぐさ）」　『お前よせってんだよー、おらぁただの八五郎だよ～・・・う～う、実はね、今兄いんとこで一杯飲んでたんだ。』　「あ～あ、兄さんとこね、ええあたしもさっき行きまして御馳走になりました、えー。　いい帷子置いてありましてね～。」

『んんー・・それを褒めながら、一杯飲んでたんだがね、そこへ兄いの妹のおしんちゃんが来たんだよ、“あ、今日は源さん居ないの？”こういう訳だ。　“うー、それはねぇ、夜は居ないんだよあいつは・・”　“どうして？”　まさかねー、夜怖いから表には居ないと、そ、言えねぇじゃねぇ、“ちょっと今しがた家へけぇったところなんだ”　“そお”て言ってんだけどね、　今日は飲み明かすつもりなんだ、え！　おしんちゃんも来てるから、来ねぇかい？』

（その３へ続く）