Nicotto Town



金原亭馬生『臆病源兵衛』その3

「は、あ、おしんちゃんも来てんですか? 本とですか、は、あ、はぇ・・ちょ・・ちょっと待って下さい、ちょ、ちょっと待って下さい・・へへ、う! そう先行かないで!・・はぁは、行きましょ!」 『よせよおい! 袖なんか引っ張んなよ!』

「いえ、あたしは放しませんからね・・どんな事が有っても・・おしんちゃんが居るという事については行かない訳にいかないですからね、へー!・・おしんちゃん! いい女ですねー! 八っつあんも好きでしょ?」 『んな事知らないよー、えー、あの人には立派な人が付いてんだ。』

「あー、そうですってね、だから兄いはあーやって左団扇(うちわ)で・・・だ~!待って下さい! 待って下さい! 待っていい!!」 『よせよ、こっちの方が怖いよー! あのねー、そういう声出すんじゃないよー・・いいよ放さないから、ゆっくり一緒に行こうよ。』 「へぇへ、こう摑まってりゃ安心なんです、へぇへ。」・・・

『兄い!源兵衛連れて来ましたよ。』 「おお、源兵衛、よく来たなー、えー! おめぇが夜出歩くてのは珍しい、さあさこっちヘぇんな!」

『は・・はぁ・・どうも先程は・・』 「おお、いいよいいよ・・どっち道みんな遊びもんだ、えー、ま、飲みなよ。」 『へ、頂戴します、どうも・・えー・・(グイッ)・・お、おしんちゃんは?』 「おしんか、あらぁ今ちょっとねー、買い物が有って一人でちょっと出かけたんだ。」

『この真っ暗なのに?!・・女の身で?!・・は~、恐ろしい話ですな! 大丈夫でしょうか?』 「大丈夫だよ! おめぇー一人だよそんな騒いでんのは、えー、暗かろうと何だろうと・・ままいいから飲みねぇー、さあ、えー、夏のもんだ、冷奴と生姜しかねぇけどな、こんな物はかえって口の中さっぱりすらぁ。」

『へえ・・好きで御座いますからね、へ、頂戴します・・(ん?、ん?)・・』 「後ろをいちいち振り向くなよ! んん、お前は忙しないね!」 『へへ、どうも・・』

『ああ、兄い!』 「何だい八!」 『え、ちょいと酒が足りなくなってきたんでね・・店しまわねぇうちにね、2升ばかり買ってきます。』 「あ、そうかい、あ、すまねぇけどもじゃ飛んでってくれ、あー・・俺の名前言やあ済むから。」 『あそうすか、じゃ行って参りやす。』

『あの人も暗い中一人で行きましたが・・』 「行くよそりゃあ! 子供だってこの位の暗さなら行くよー、まだ宵の口だ、えー・・まあ飲みなよ。」 『へへ、でも何ですね・・相変わらず・・いい上布ですね~、えー、あたしもね上布買おうとは思うんですけれどもねー・・へ・・これ白は着たいんですが、白を夜着るてぇと怖いでしょうね~。』

「お前自分を自分で怖がってたんじゃ駄目だよー、んー、まあまとにかくね、まあいいから飲みなよー・・・そうだ・・この水差し、ヤカン、これ水が無くなっちまった・・穴開けたくねぇんだ、ちょっとあの台所行って水を差してきてくれ!」 『あ・・あ、そうすか・・へい・・じゃ、行ってきます・・へい・・』

と源兵衛はへっぴり腰で恐々と台所へ・・台所へすーっと入ってくてぇと、待っていたとばかりに八の奴が赤い手拭いをフワッと頭から掛けてちゃーっと出てくる。 臆病な奴ですから驚いたのなんの、『キャ~~!! (パカ~ン!!)』 八五郎の方は殴られるとは思わない、“ギャッ!!”てんでそこへ引っくり返っちゃった。

「おい! おいおいおいおい・・おい! 何、どう、何の騒ぎだ?」 『はあ・・はあ・・はあ・・幽霊を・・幽霊をやっつけました!』 「幽霊をやっつけた? 幽霊何ぞやっつけられるもんじゃないよ・・あ、おい、これ八五郎だよ!」 『あー、八っつあん、あー、八・・八っつあんですか?・・あー、あー、思い切って、このヤカンで・・』

「あ~あ、ヤカンが半分へこんじゃった、壊れやがった・・え、お前そっち持て、引っ張り上げるから・・えー!生きてりゃいいけども・・あー・・弱ったな・・おい、駄目だ、おい、逃げるんじゃない!」

『逃、逃げません、あたしは兄貴の・・』 「触るな・・んとに!・・死んじゃってるよ!」 『死んじゃ・・? は?・・・あの一緒に御番所へ・・』

「何言ってる! いいかお前ぇ、えー! これはねぇ、このまんま御番所行くとお前ぇは連れてかれるよ、え! 友達を殴り殺したと・・どんなお仕置き有るかちょっと見当もつかねぇな。 長ぇ間牢に繋がれて、下手―するてぇと遠島だ、島流しだ、それでもいいのか?」

『・・は・・助けて下さい、何とかして下さい、お願いします!』

(その4へ続く)




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