Nicotto Town



金原亭馬生『臆病源兵衛』その4

「何とかしてやろう。 うー、これも俺を頼ってた男だからな、うん、じゃ、ちょっと・・え! ガタガタ震えてんじゃねぇんだ、馬鹿! 死んじゃったもんはちっとも怖くはねぇんだ、生きてる奴が一番怖いんだ! えー、帯を取っちゃって着物脱がして・・あんなに欲しがってた上布だ、着せてやろう、ねー、帷子だ。 経帷子だと思えばいいや、んー・・早いとこやっちゃうんだよ・・それから額に三角を付けなけりゃいけねぇな、えー、左文字(鏡文字とも言う)で死と書かなくちゃなんねぇ。 ん~ん、ん・・そこに半紙があんだろ、それ・・ちっちっ、不器用な奴だ、横に折って揃えてピーっと切りゃあ三角になるん・・どれどれ貸して御覧、俺が書いてやる・・これは台所行っておまんま粒・・」

『台所は嫌す! 嫌!』 「そんなに何人も出て来やしないよー・・おまんま粒おまんま粒持って来て・・んー、これでおでこ貼ってやろうじゃねぇか、なー!・・あの世行って行き先分かんねぇと困るから・・よいしょ!(小駕籠を掴ませる)・・持つだろこれでー、ん、よし、えーと、そこに行李(こうり)があんだ、それをこっちへ引き出してくれ。 え、中の物はろくなもんじゃねぇ、そこらへおっぽりだしていいや・・足をうんと折り曲げろ、足を曲げるんだよ! 行李に入るように、いいからギュッと曲げて、よっ!あっと! (はー、はー)うまく入ったなー、よし!・・それからそこに夏物の掛け布団が有るだろ、それ引っ張り出して上からこう・・で、細引きがあんだろ、細引きは俺は欠かした事ねぇんだ、何かに付けて便利だから・・それを掛けて・・よし、んー、よしよし。・・それで、これお前担いで・・あの、不忍池(しのばずのいけ)、な! あの池の縁のどっかへ捨てて来い!」

『・・そ、そ・・勘弁して下さい!・・それだけは・・』 「この野郎! おめー何かいおい! え? 遠島になりたいか? 下手するてぇと縛り首だぞ!」 『・・捨てて来ます。』 「てやんでぇー!・・捨てちゃえば分かりゃしねぇんだから、まあー早く行ってこい!」 『へ・・』

「さあそこへ紐掛けて、よし・・いいか。お前も力入れなきゃだめだぞ! よっ! よっこいしょ! よし、はぁー、じゃ行ってこい! なるべく奥の方に行って捨てんだぞ。」 『へい!』 「とば口(入口)へ捨てんじゃねぇぞ!」 『へい・・行ってきます。』・・・

「ふぅー、ううう~~~」 それでなくたって臆病な源兵衛、死人をしょっちゃったからもう足は何処へ付いてるか目は何処を見ているか訳が分からない。 これを下谷に住んでおりますから不忍池へ入って行くと暗い・・ザワザワザワザワと蓮の葉が揺れている、余計怖い! 「はぁふー・・ふぁー、はぁー、うー・・」・・・

(その5へ続く)




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