Nicotto Town



金原亭馬生『臆病源兵衛』その5

と向こうからさっとすれ違った三人組が、何か様子が可笑しいなと思って、『えー! 何だいありゃ? はは、不思議な野郎だね! あー、泥棒かな?・・ちょっと今時分あんな物担いでんだからな、ふん捕まえてみようか!』

「これで捕まった日にゃぁ俺は殺される! 助けてー!」てんで行李をおっぽりだすとターッと逃げちゃった。

『何だいありゃ?』 「ははは、おっぽりだして・・泥棒だよ、ねー! いい物をしこたま盗んできたんだなー・・・へ~へ、あ~あ、ぐずぐずになっちゃった、ちょっと開けてみようか、えー・・おめぇちょっとそっち開けろー、ぐずぐずになってちゃいけねぇ・・えー、俺が手を突っ込んで・・上は大したもんじゃねぇなー・・?!よせよ!・・ふた開けろ! 見ろよ!・・」 『ほー死人だ!』 「そうだよ・・そっと行っちゃおー、な!・・(ふ~うう、うううぃ~ん)」ってんで三人が行きかける。

八っつあんは本当に死んだ訳じゃなかった。 前額部をヤカンで“パカ~ン”とやられたんで一時目を回しただけで、“ドスン”と放り出された時に“ふっ”ってんで息を吹き返した。 と方々触られたりなんかして、と、こう立ちあがった。 この立ち上がった気配が、“ふ~うう、うううぃ~ん(鼻歌)”と行く連中の背中に、何となく感じた! 振り返るてぇと死んだ奴がすーっと立ってる! 『はう、あ~! ああ~!! 怖くない! 怖くない!』・・・

「俺は、どうしちゃったんだろ!・・はー、源兵衛脅かしてヤカンで・・あ! 帷子着てる!・・へ? 死んじゃった・・死んじゃったー! どうしよう、死んじゃったー!・・ここは何処だろう、極楽かしら、地獄か?・・あー、蓮の花が有る、極楽だー、極楽だー!」 ぼちゃぼちゃ入って行くと・・『誰だ!蓮穴へ入る!』 「あーあ! 鬼が居た!」 夢中になって逃げて、あれから楢町(?)の方へ行く路地を・・

「地獄って所は何かシャバによく似てるな。・・暗いな~・・あー、あそこだけ一軒空いてるねー・・怖いけれども行ってみなきゃしょうがねぇな・・こりゃ路地裏だからなー・・ずっとみんな台所だー。」

ひょいっと八が覗きますと、中に痩せーたお婆さん、痩せている癖に色つやがいい、こういうお婆さんが一生懸命肉をこう切っている。

「・・・は・・はは、ふぅ・・思いきって聞こう!・・お婆さん!」 『はい、何ですな?』 「ここは地獄ですか?」

『へへへ、娘のお陰で極楽です!』

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この話は戦時中に時局に合わないという事でもう少しで禁演落語として浅草の本法寺に葬られてしまうところだったそうです。 戦時中は臆病は禁物だったのでしょう。 不謹慎なネタと思われたものも禁演になったとの事で、志ん生さんが良く掛けた『風呂敷(ふるしき)』はその一つでした。 浮気の現場を女房が親方に泣きついて頼んで、酔った亭主を何とかごまかしてもらい間男を風呂敷を使って逃がしてやる話・・

馬生さんは私の小さい頃よくNHKで放送してたのですが、これから円熟味が出てくるっというころで逝かれてしまってとても残念でした。 54歳だったそうです。 弟の志ん朝さんまで早死にしてしまって、二人共志ん生さん譲りで大変な名人だったのに惜しいですね。 落語家は六十を過ぎてから良くなると言われてますから、本とに惜しい方たちでした。 さて次回は金原亭馬の助さんの『粗忽の使者』をお送りします。

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2009/05/21 21:30
毎度です・・このネタはやはり聞いた方がかなりいいですね、馬生さんの話術が中々出せませんでした。 怖い所の震え方とか実にリアルで、文章では限界ですね。
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2009/05/21 19:52
今夜は、臆病な男の話でしたね。あ~面白かった♪
幽霊を怖がってるけども、本物の幽霊は一人もいなかったんですね。
友達を怖がらせようとするときは、相手の強さを考えに入れとか無いと、
はっ倒されますな……危ない危ない;

昔、真夜中に、4歳ぐらいの子が父親がトイレに行った帰りを廊下で待ち伏せして、「わっ!!」と、脅かしたんですよ。びっくりして父親はわが子を足でおもいっきり、蹴っ飛ばしちゃった><;
いや、子供は壁までふっとんで、泣き出してしまいましたが。幸いなことに怪我も無く無事でした。
親戚での実話ですが、危ないので今でも言い伝えられて注意しています。

 さて、今夜も楽しませていただきました。ありがとう~♪



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