Nicotto Town



金原亭馬の助『粗忽の使者』その1

え~、世の中にそそっかしい方てぇのは随分と居ますが、あの~何かそういう風にしようと思ってやった事じゃないんで、自分の意志とは違う事をやってる訳ですからな。 えー、我々噺家でも随分あわて者は大勢居まして、楽屋でもって何かこのー、慌てふためいて行動を起こす人が随分居ます。

え~、3代目の柳家小さんと言う師匠、当代は5代目です。 この3代目の小さん師匠という方、話は名人ですが大の慌て者でね、この講座を済まして楽屋行って・・冬の事で、お茶飲んでて、え、前座さんが外套を着せてくれて、帰りゃあよかったですが楽屋の話が面白そうだってんでまた火鉢の前に座り込んで・・で、いよいよ帰ろうといった時に今度てめぇでもってよその人の外套もう一枚着て帰っちゃたり何かする・・これたくんでやる訳じゃないんですからな、え~!

 お侍でそそっかしい人が有りまして、地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん)という人で、この人はてぇと、う~ん、そそっかしいくらいだから・・けども御主人に大変に愛されてまして・・お殿様同士が城中で家来自慢、や!武芸が優れてるとか何とか・・と、このお殿様、「う~、身共の所にはのー、かような粗忽者(そこつもの)が居るが・・どうじゃ!?・・」 『ん、面白いの、余が家へ一片寄こせ!』 「んん、よかろう、使者だな!」

使者ってのは本とは大役ですが、これはまあ殿様同士の御座興です、ねー、からかってやろう・・承(うけたまわ)った当人は使者という役目ですからなー、ま、当日に成ると支度万端整えて・・

「あ~、えへん、うんこれで出来た。 あーこれから身共は使者に参る、ん~・・あ、あれを呼ぶんだな、あ~弁当! う~、弁・・弁当? 腹が減ってる訳ではないな・・あ~別当(乗馬の口取役)だ。 別当~!」

『へ~い! お声がしてる、お使者、どなたがお出でになんだ? んん、え?地武太さん!・・地武太さん? あの人がお使者? ほ! 大丈夫かねぇー。 いやこないだねー、ふっふっふ、おりゃあ表歩いてたんだよ、向こうから来なすったお侍、ちょいと見たら地武太さん、刀右差して歩いてんだよ、その人がお使者かい、おい! そそっかしいのに大丈夫かな・・』

『へい! あ、お呼びで』 「んん御苦労、あー身共これから使者に参る、ん~、この乗るしたく出来ておるか? あ、そうか、んん、早く牛を引け、んん・・い~や、待て! いや牛ではない、えーこれだ、このツラの長い方だ!」 『馬の支度・・出来ております、どうぞこちらへ。』

「んん、これか! ほ~ほ、いかんなー、もう少し飼い葉をやった方が良いのではないか~! 大層ちっちゃいな~。」 『それは犬ですよーそっちは!』 「馬はこっちか、あーこれか、ん~ん、いや大層似ておる。」 『そりゃ馬ですから・・どうぞお乗りなすって。』・・

「こらー! 何で通うに首の無い物を持って参るか?」 『ププッ!・・(御覧よ、だからやだってんだ)・・恐れながらお馬の首は後ろなんで。』 「後ろ?・・えへん! 分かっておる、分かっておるが一旦乗った以上な、乗り換えるのは残念じゃ、腰を持ち上げてる間に馬を回せ!」 『おんなじですよ、いや駄目ですよ、御乗り換えを!』

この中間(ちゅうげん)が付いておりますから間違いがなく先方へ・・

『これはこれは御遠路の所、お使者の役、御苦労に存じ奉る(たてまつる)。 某(それがし)当家の家臣田中三太夫と申す武骨者、以後宜しく見知りおかれ、ご別懇に願います。』

「は、これはこれは初めて御意を得ます。 あー、某は当家の家臣田中三太夫・・では御座らん、三太夫はご貴殿、あー、某は当家・・いや当家ではない、某は杉でえら(杉平)木目が正が家来・・木目? いや木目ではない、う~柾目だ、柾目正(まさめがしょう)が家来地武太治部太夫、いや治部太夫?・・治部太夫はあれは母、いや母ではない、うー伯母かな?・・あ父だ、その一子地武太治部右衛門と申す粗忽者、以後宜しく見知りおかれ、ご別懇に願います。」

『ご丁寧なるご挨拶、痛み入ります。 で、して、今日のお使者のお口上を承りたく・・』 「は、いや余の議では御座らん、使者の口上・・なんと言われるか? 使者の口上!・・あー、あー、左様で御座る、う~ん、使者の口上御貴殿ご存じか?」

『いや当方が承る。』 「当家に何しに参ったか?・・・・お! いや、これはえらい失態!」 『えー、何ぞお忘れ物でも?』 「使者の口上を忘れ申した!」 『これはまた、えろうお戯れを・・』

(その2へ続く:18分)

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2009/05/28 01:20
あらまw大変だ
御使者の口上忘れちゃったのお~w?



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