Nicotto Town



三遊亭円生『野次郎』その3

「“して汝らの望みというのは?”てぇと、“おうさ! 幾らかくらと言うじゃあねぇ、路銀は元より身ぐるみ大小”、(声変えて)“残らず置いて行きゃあよし”、“やだ、おうだと四の五の言やあ”、“しゃてーな・・”」 『何だ、おい?』 「色んな奴が口をきくから色んな所から声を出す。」 『細かいねどうも。』

「“さあ侍れぇ! 性根を据えてええ拶(挨拶)しろ!”と言ったから一足跡へ飛び下がって、“さては汝らはこの峠に棲まわりなす、一人二人の履物よな!”って言ってね!」 『何だい一人二人の履物てぇのは?』 「へっへ、しめて三足だって!」 『変なとこで謎を掛けるなよ。』

「“おおさ、一丁目が有って二丁目のねぇ、おらぁーが頭の縄張り内だ!四の五の言やぁ為にならねぇ、それでも腕ずくでもって取って見せようか?”と言うと、“取れるものなら取ってみろ”ってぇと、前に居た布団を着た奴が丸太持って打って掛かりましたから、ひらっと体を躱す。空を打ったから前へ四つん這いになった。 布団を着てる奴が四つん這いになったから、お掛けなさいと言わないばかり、こいつに片足かけて向こうをぐっと睨むと、前からくりくり坊主の素っ裸の奴が組んで掛かりましたから、そいつの胸ぐら取ってぐっと締め上げると、“いててててて!!”・・」

『おいおい・・相手は裸だってんじゃないのか、何処を締めたんだ?』 「胸ぐらぐうっと!」 『裸で胸ぐらあんの?』 「えへへへ・・胸ぐらは、えっへへ、有りません。」 『有りませんでってのは無いじゃ・・』 「ん~ん、仕方がないからそいつの髻掴んでグーッと、ひぃ・・」 『坊主だってんじゃ・・』 「あ・・坊主・・弱ったねーどうも、しょうがないから耳を持って持ちゃげた!」 『何だウサギだな丸で。』

「これを差し上げて2つ、3つ弾みを付けてダーンと投げつけると、“その侍は手ごわいから飛び道具、飛び道具!”ってやんの、あっしの周りをぐるーっと遠巻きにして鉄砲を向けたんです。 こりゃあ困ったな、ドーンてばおしまいだ。 仕方がないからピタッと座って、膝へ手を付いてぐっと睨むとね、向こうがあわてて鉄砲をひっこめた!」

『はあ? お前の度胸に恐れて鉄砲を引いたのか?』 「いえ、へ! 向うが狩人でこっちが庄屋ですからね、向こうの負けだ!」 『何だい狐ケンだそれじゃ!』

「“その侍を畳んでしまえ! 畳めー! 畳め、畳め、畳めー!”ってやんの・・大道の古着屋が夕立をくらったように“畳め畳め!”ってやんの・・あーこうなったら刀なんぞを振り回していちゃあ治まりが付かない。 力を見せて驚かしてやろうと、傍ら(かたわら)を見ると高さ3間、幅2間も有ろうかと言う岩が有る。 これへ手を掛けて“あわぁあわぁ!(バ~ン!)”とぶつかるとポキッと根から折れて・・」

『高さが3間幅が2間も有るような岩が根から折れるかい?』 「・・えー、もっとも厚さが1ミリ!」 『なん?・・板だ丸で!』 「これを目よりも高く差し上げて、投げつけようと思ったが、当たる奴も当たらない奴も有っちゃあいけない。 こいつ~を・・小脇に抱え・・」 『おいおい、幅が2間も有るものが小脇にかい込めるのか?』 「えー、もっとも真ん中がくぼんでいましてね・・後で聞いたらひょうたん岩だと・・」 『そんな岩が有るか!』

「この岩をちぎっては投げ、岩をちぎっては・・」 『おい! おい! 岩がちぎれるのかい?』 「もっとも出来たてで柔らかい!」 『何だ餅だな丸で!』 「山賊は頭をコブだらけにして雲の子を散らすが如くに逃げた。 まあやれこれで安心と言うので、木の根へ腰を掛けて煙草をのんでいると、麓の方から、“ボォ~~~”っとね!」 『何?』

「さてはこの山は喘息になったか?」 『山が喘息に成るかい?』 「何だろうてんで小手をかざしてみると驚きましたね、背中の辺りが1丈5,6尺も有ろうと言う獅子!」 『猪?』 「ええ、これがお前さん角を立てて飛んで来たから、こりゃあどうも弱ったね!」 『なんだ、角を立てて? 角なんざは無い!』 「いいえ有りますよ。」

『有りゃあしない、牙有る物は角は無いと言う、獅子は牙だろう!』 「おお、そ、牙、牙、牙がずーっと伸びて角に成る。」 『そんな長い牙が有るか?』

(その4へ続く)




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