Nicotto Town



三遊亭円生『野次郎』その4

「さあー、あいつに引っ掛けられちゃあ大変だから、どっかへ避ける所はと見ると、大きな松の木が有る。 んん、これへは~っとよじ登ってね、天辺まで登って、松安心!」 『変な洒落だなどうも・・』 「ちょいと上から見ると木の周りをぐるぐるぐるぐる廻り始めた。 やがての事に鼻面でこう木の根を掘り始めた。 段々緩んでくるから上でこう揺れますよ、ね!、へへへ。 弱ったねどうも、そんな木(気)のもめる話はないよー、どうしようと傍らを見ると杉の木が有る。 これへ気合もろ共にパッと飛び移った。」

『そこいらが武芸の妙と言う奴だな、んん!』 「上へ登って行くと木の股で、“エヘン!”」 『何だ?』 「何だか分らない。 またこっちへ登ろうとしたらこっちの木の股でも“エヘン”、“ふさがってますか?”」 『何だよ手水場(ちょうずば、トイレ)だよそれじゃあ!』

「聞いてみたら天狗が居るんです。」 『天狗?』 「ええ、烏天狗が卵あっためてやんの、え! “今上がって来ちゃいけない!” “いけませんか?” “いけない! 今上がってくると股引っ裂くぞ!” 股を引っ裂かれちゃ大変で、上は天狗下は獅子、進退ここに極まるてぇ奴で。 身を捨ててこそ浮かぶ瀬の有りと歌が有るから、度胸を据えてパーっと飛び降りるといい塩梅に獅子乗りになってね。」

『獅子乗りてのは可笑しい、馬乗りだろ?』 「馬なら馬乗りだが獅子だから獅子乗りって奴で。 ヒョイと見るてぇとこの獅子首がない。」 『だってお前木の根を掘ったってぇじゃねぇ?』 「ええー、そそっかしいからどっかへ落っことしたのかと思ってね、振り向いたら後ろに首が有った。」 『お前の方がそそっかしいや!』

「前に尻尾がちょこちょこちょこちょこ動いてやん、こいつに手を掛けてグ~っと引っ張ると段々延びてきましたからね、これで襷(たすき)十字のあや取り、余った奴で鉢巻を・・」 『おいおい、おい! 馬鹿な事を言うな、えー! 獅子の尻尾はボンボ尻と言って短いものだ!』 「それが陽気があったかいから伸びてきた。」 『飴だな丸で・・』

「これから小刀を抜いて突き刺そうとしたがどうしても刃物が通らない。」 『どうした?』 「畜生でも利巧なもんですね、松やにを付けて砂っぱを転がって天日で乾かしてあるから、何しろ刃物を受け付けない、ガジガジガジガジ跳ねっ返る。 いやこうなったら仕方がない、運を天に任せようという、獅子の成すままにしていると、山じゅうを荒れ回ったね。 そのうち木の根に躓いてパーっとつんのめるとたんに・・股ぐらに手がいって、グニャッと! へへへ、触った物が有る、何だと思う?」

『いや分からない。』 「獅子てぇ物はどうもぞろっぺぇなもんですねー。」 『どうした?』 「フンドシを絞めてない!」 『馬鹿な事を! 獅子がフンドシを絞めるか!』 「見るとお前さん、これが獅子の金、ええ! “あ~、天より吾に与えし金!”」 『つまらないもの頂くなよ!』

「人間でも畜生でも急所に変わらないだろうと思って、こいつをグーッと握るとそこへばったり倒れた!」 『ようやく仕留めたな!』

(その5へ続く)




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