Nicotto Town



三遊亭円生『野次郎』その5

「ええ、まずこれで安心と一息入れようとすると、また麓の方から、“ボウ、ボ~~”という竹法螺(たけぼら)の音(ね)で、見ると百姓が四、五十人蓑笠、てんでんに鋤鍬持ってぞろぞろ上がって来たから、あーさてはこれは村の守り神を殺したのでその仇討をしにきたに違いない、もうこうなったら仕方がない、目釘の続く限り斬って斬って斬りまくってやろうと柄へ手を掛けてこう身構えていると、やがて百姓が大勢上がってきて、で、中で年かさの奴が蓑笠を脱いで私の前へ、へ~てんで手をついた。 何だろうと聞いてみると、“実はこの麓の百姓で御座いますがこの獅子が田畑を荒らしてまことに困ります、えー、お武家様のお力によりまして獅子を退治る事が出来まして何ともお礼の申し上げようも御座いません。 どうか、どうか、お急ぎでなければ粗酒一献差し上げたいからお立ち寄りを願いたい。”という、ま、こっちもやれ安心て奴で、“しからば雑作に預かろう”と言うと、“さあご案内を“というので連れて行かれましたがね、これがね庄屋の家で御座います。 大きな家でね、門を入って玄関まで3里ぐらい有る!」

『大した大きな家だな?』 「ええ、玄関へ来ると、それお客様だてぇと、はー、女中なんぞが十何人出てきて色々この足を洗ってくれます。 で、12畳の結構な座敷へ通され、煙草本が出る、お茶お茶菓子が出ると色々もてなしをしている。 そこへやがて5人組という者が出てきましてね、三方の上へこう小判を乗せまして、羽織袴で、“このたびは色々有難う存じます。 実は先程お仕留めに成りました獅子を売りに出しました所が良い塩梅に10両に売れました、で、腹を裂いてみると中から子が6匹出ましたので、えー〆て四四の十六両御座います。 えー、どうぞ一つこれをお納めを願いたい。”と言うんで、あたくしの前に金を出した。」

『どうもお前の話は分からないなー!』 「何が?」 『何がってお前、さっき何を絞めて殺したんだ?』 「何を絞めたってねぇ・・金を絞めたんで・・」 『金を絞めりゃあ雄だろう?』 「雄ですよー、雌に金は有りませんよー、ふっふっふふ、お前さんは話が分からない!」 『どっちが分からないんだよ! 雄の腹から子が出たのかい?』 「雄の・・!・・そこが畜生の浅ましさ!」 『いくらなんでもそんな馬鹿な話が有るか!』

「で、そのうち酒肴がきてこいつを飲んでいると、“さて、えー、庭をどうぞ一つ御覧を願いたい”てんで障子を開いた。 なーにたかが田舎の庭だと思って、見ると驚きましたねー! いや、どうもその立派な事と言ったら、天然の山を築山にしてある、片絵を見るてぇと紅梅白梅今咲きかけでね、今を盛りという実に綺麗な事。 その隣には一重から八重までこのねー、桜の花盛りという、向こうを見るてぇと池が有りましてアヤメ菖蒲などが咲いている、そこへ藤棚がこう垂れ下がっておりまして、向うの築山を見るてぇと紅葉(もみじ)が紅葉して、そこへ雪がチラチラ降っている所をホタルが飛んでいる所なんぞは、どうも実に・・」

『おい馬鹿な事を言うな、四季の花が一緒に咲いてお前、雪の降る中へホタルが出るのかい?』 「へへ! そこは田舎はぞろっぺぇで!」 『馬鹿な事を言うな!』

おなじみの野次郎で御座います。

玉置さんの解説から・・
“この話は『奥州武者修行の巻き』と言えるものです。 『北海道』でやる方も御座いまして、寒さの為に火事が凍ってしまったり、お便所行くと小便が凍ってしまって、これを叩く金槌が置いて有るとか、雪の為に隣に行かれない、そこで竹の樋を渡してこれで会話をする。 この言葉も途中で凍ってしまう、これが春になると溶けてうるさいの何のと、こう言う下りが有ります。 この『北海道』編は新版野次郎というもので三代目柳家小さんさんが焼き直したものだそうで、その時代時代で焼き直しされるネタのようですね。”

さて次回は『首提灯』をお送りします。 たった一度だけ講座に掛けたネタだそうです。

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2009/06/03 23:27
野次郎いいですねえ^^うそでも、こんな楽しい嘘は是非ちょくちょく聞かせに来てほしいですね^^
次回の首提灯もめずらしい作品なようで、今から楽しみにしています^^
またきま~す❤



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