Nicotto Town



三遊亭円生『首提灯』その1

えー、相変わらずの落語の事で御座います。 もう罪の御座いません所で、えー、お暇(いとま)を戴きます。

えー、昔はこの士農工商なんと言うやかましい事を申します、えー、まぁこの江戸と申しました時代は妙な名物が有りまして、武士、鰹、大名、麹、生鰯、茶店、紫、火消し、錦絵なんという、まこの、武士という物を名物の一番に歌って御座いますが、こりゃあまあ別に江戸の武士が強かったと言う訳では御座いますまい、260余大名、侍という者が大変・・数が多いので御座いますので、もう子供の内から目に慣れておりますので、お侍にはたいして驚きません。 それに将軍様のお膝元というので大名の行列などが有りましても脇へ寄ればいいというので、これはもう江戸っ子は他の者から見ると幅のききました者で・・「寄れい~~! 寄れい!」なんて来ると・・

「おうおぅ、でぇ名(大名)が通るぜ、でぇ名だ!」 『おお、そうかい・・んじゃおりゃその間小便しようかな。』 「え? しょん便か! 何だなおいおい、待ちなよ一人でやるなよ、今付き合うから。」 つまらねぇ事を付き合う奴があるもんで・・えー、どぶの方へ水管(!)を向けて競争でジャージャーやっておりますが、絵心のある人なんざ練塀へもってってしょん便で富士の山書いたりなんかして、『今日の山は少し出来が悪いなー、あ~あいけねぇやどうも風が吹いて曲がっちゃった。』 下らない事を言ったりなんかして・・・

「今言ったの何処だい、多かったな?」 『ええ、多いやな、あらぁ本郷だよ。』 「え?」 『本郷だよ。』 「あ、あーあなんだい加賀かい(前田家)!」 なんてんで、友達の気でいやがる。 百万石の大大名でももう自分の友達みたいなこと言っている、これはまあ江戸っ子てぇものは誠に無邪気で御座いますが。 しかしあまりこの泰平が続いたために無圧され文弱に流れるというような訳で、まあ旗本の次男三男に成ると剣術などは丸っきり学びませんで、そのかわりに何処の若様は長唄がお上手でいらっしゃるとか声色をよくお使いになるなんと言う、はーどうも大小差して声色なんぞを使っている様な了見ですから、追々にこりゃあどうも徳川の根田が緩んでまいりますから、この眠りを覚ましたのが嘉永の6年に浦賀沖へ黒船が入ります。米国からペロリてぇ人が来ましてね、日本が良い国だからうまく行ったら舐めちまおうてんでね、あー、ペロリが来たペロリが来たてんでね、毎日どうもえらい騒ぎで。 どうしたらよかろうという事に成りましたが、どうも一向に議論がまとまりませんので、水戸様が何でもこりゃあ追っぱらったらよかろうから、釣り鐘を集めろという訳で、大きなお寺から釣り鐘を集めてこいつを海の縁へずーっと寝かしたんです。

えー、ペロリ総督が天気のいい日に甲板へ出ます、「あー、こんな吹けば飛ぶような国は大砲の2,3発もぶっ放したら驚いて渡すだろう!」てんで、双眼鏡を出して陸を見ると驚いた! 釣り鐘が横に寝ているのを大砲の筒先と間違えた。 驚いたそうですね向うでも、「こりゃあどうも日本は軍備が整っていないと思ったがとんでもない事だ、あんなでかい奴で1発喰らった日には軍艦が粉微塵になる。こりゃあうっかりした事は出来ない!」てんで、東人(とうじん、東国の人)が尻尾を巻いて逃げ出したてぇますが、尤もこりゃあ向こうが負ける訳で、こっちが釣り鐘で向こうが東人ですからね、東人に釣り鐘はかなわないなんてね! 昔のお話で御座いますが、あーどうも世の中段々物騒になります。

中には荒身の一刀を求めたから試してやろうなんと言う、ま、試す方はいいが試された方はいい災難でね、大事な命が無くなるという訳で、もう人が斬られるなんてぇのは珍しく御座いません、その時分にごく馬鹿馬鹿しい話というと、胴切りにされた人が別々に奉公をしたてのが有りますが、胴がお湯屋の番台に座って足がこんにゃく屋へ行ってこんにゃくを踏んでいたという、それが為にまた双方とも繁盛したてぇから何が幸いになるか分からないもので・・

「おい、おめぇかい、やられたてぇのは? えー、どうしたい?」 『ひでぇーめに遭いましてねー、いえこっちも少し酔ってましてねー、よしゃあよかったんですがあんまり癪に障るから二言三言毒突いたんです。 向こうが抜いたからそいつはいけねぇから逃げようと思ったが間がねぇんでね、もろにさーっときましてねー!』 「おやおや! 可哀そうな事したなーどうも。 でもいい塩梅に命は助かったなー!」 『おかげさまで命は助かったようなものの、やっぱり足がなくちゃ不自由でしょうがありません。』 「一緒に居ねぇのかい足の方は?」

(その2へ続く:18分)




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.