「なに！　叔父さんとは何かって？　手めぇの方で“おい”ったじゃねぇ、そっちが“おい”ってぇからこっちは“叔父さん”てんだ！　叔父甥の間柄じゃねぇ・・いやにその上下（かみしも）を付けるなよ、丸たん棒！」　『人間を捉えて丸たんぼうとは、甚だ乱言である。』

「何を言ってやんでぇ！　乱言もジャンケンも有るかい！　人間だから夜中にそうやってフラフラ歩いてやんだろ、丸たん棒なら親船の方にとうに引き取られてろ、この帆柱野郎め！　畜生・・何か用があんのかよ、え？　用があんなら早くしろよ！　こっちだって先を急ぐんだ、おー！　寒くてしょうがねぇや、何だおい？」

『某は江戸表へ勤番に相なったもので、こんにち浅草へ用足しにめぇって（参って）、それから麻布の屋敷へけぇろうと思うが、土地不案内で道が相分からん。　麻布へめぇるには町人どうめぇる？』

「チッ！　何だこの野郎道を聞くのかよおい！　いやに糞落ち着きに落ち付きやがって、“麻布にめぇるには町人どうみえる？”てやん、どうにでも見えるでも勝手にめぇっちめぇ！馬鹿！　何を言ってやがんでぇ、手めぇみてぇな田舎侍が道に迷って来るだろうてんで、夜中に手銭で酒飲んでつっ立てる馬鹿が有るかい、畜生め！・・おうお、お、麻布へ行くのかいおい！　いい事おせぇてやらぁ、つま先を先にしてかかとを後にしてな、互い違いに歩いてってみな、方角が知らなきゃ最初東行ってみねぇ、それいけなきゃ西いって南行って北行って、まだ分からなきゃ東西南北の間間探せ！　何を言ってやんでぇ！　領分の百姓に道聞くのと訳が違う、江戸っ子はつむじが曲がってらぁ、べら棒め！　そんな道の訊き方で誰一人おせぇる者はねぇー、な！　道の訊き方知らねぇてんなら俺がおせぇてやるから土下座して聞け、このすりこ木！　すりこ木ったら手めぇの方は並みのすりこ木じゃあねぇ！　馬鹿げた大振りだ、蒲鉾屋のすりこ木だ、ボコすり野郎畜生！」

「“そこをお通りの方、お身足お留申しましては甚だ申し訳も御座いませんが、手前事は何の頭（かみ）の家来で何石頂戴致し何役を務める何のたれと申す者で御座いますが、この度江戸表へ勤番に相成りまして、道中筋は何処そこを通ります、こんにち浅草何が何兵衛方へ用足しに参り、これから麻布の何の頭の何兵衛方へ帰ろうと思うが土地不案内で道が相分かりませんで、どうぞご存じ様ならお教えを頂きとう存じます”と何故下の下まで手を付いてお辞儀をしねぇんだい！　高飛車に脅かしやがって！　“麻布へめぇるにはどうめぇる？”て、どうでも勝手にしやがれ、かんちょうらい！！（寒鳥来）」

『かんちょうれいとは何か？』　「かんちょうらいとは何だ？　そんな事こっちだって知らねぇや！　こんちくしょ、又分からねぇ事だけ聞き直してやがる、やな野郎だな・・」
『おのれ食べ酔うておるから無礼を加えておるが、２本差してるのが目に入らぬか！』

「何を言ってやんだ！　２本差したって、片方は短っけぇ一本半しかねぇじゃねぇ、冗談言っちゃいけねぇ、大小怖がっていた日にゃ柱暦に貼って有るとこが無闇に通れねぇ、なー！　２本差しが怖かったら焼き豆腐は食えねぇよ、煮込みのおでんだって１本差してらぁ、気の効いた鰻をあつらえてみろ、４本も５本も串を刺してらぁ・・そんな鰻を食った事ねぇだろ手めぇは！　俺も久しく食わねぇけど・・ハッ！　どうだいどっかで仲直りに一ぺぇやるかいおい！　そんな元気有るめぇ！」・・・

『ゆけ！！！』　「（ビク！）大きな声出すなよ畜生め・・なんでぇ貧乏人の初の鉄砲みたいに声さえ大きけりゃ立派だと思ってやがる・・何だおい、そんな物振り回して斬ろうてのかいおい！　えー？　おー、面白い、斬れるもんなら斬って貰おうじゃない、おー！　おい、どっから斬るんだい叔父さん、おう！　どうだ、おう、上から斬んのか？　（パン！）肩から斬んのか？　（パタン！）ケツから斬るのかい？　叩きゃ音がすんだこっちは！　叩いたって壊れるような金柑胴じゃねぇんだ、なー！　斬って赤ぇとこ無かったら代は戴かねぇ酔漢野郎てんだ。　白いとこがあったら赤ぇとこと取り替えてやろうじゃない、おー！　斬るなら斬れよ、おー！　おう！　何でぇ斬れねぇんだろ、刀掛！　チッ！長いぇ刀掛だ畜生、へっ、つらあ見やがれこん畜生！　（ペッ！！）」

『（バタバタ）おのれ！　侍の面てぇ（面体）に唾を吐っかけたな！』　「何を言ってやがんでぇ、唾きをかけて怒るツラじゃねぇよ、面目ねぇツラしやがって！　鏡と相談しろ、煤掃き（すすはき）の入り口みてぇなツラじゃねぇ、まごまごしやがるとその首引っこ抜いて胴がらの中へスキガラ叩っ込むぜ畜生め、一度でいけなきゃもう一片やってやるぜ！　（カーッ、ペッ！！）」

（その４へ続く）