Nicotto Town



三遊亭円生『首提灯』その4

『まて!!』 「てやんでぇー、屁もたれやがって大きなこと言うない畜生、はは~のは~だ!」

ひどい奴も有るもんで、さんざ悪口を吐いて、ぐだぐだぐだぐだ・・侍も二度までやられたから勘弁が出来ません、二度目に来た時に生憎にヒョイと体を躱す、殿様から拝領した御紋服、常紋の上へ青たんがベットリ掛かったから・・

『我が面子ばかりなら勘弁もなるが本公より賜わる御常紋を穢す、おのれ不届き奴!! その分には捨て置けん! 待て! 待て待て待て!!』

二声三声かけておきながら、ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ! 雪駄の後金を鳴らして付いて参りましたが、腰をひねった居合を、“ヒュイッ!・・チャリーン!” 一つ鍔鳴りをさして鞘に収めたが、その早業は目にも止まらぬようで、袴の塵をポーンと払う、付き袖をして猩猩(しょうじょう)の歌いかなんかで屋敷町をすーっと流して行く。

「馬鹿! おおう、やっこ! 逃げんのかよ、おー! でけぇ事言いやがって! へへ! 敵に後ろを見せるなんて卑怯な野郎じゃねぇか! なーに言ってやんでぇ、べら棒め、手めぇみてぇな木っ端侍にな、脅かされたって驚くようなおあにいさんとは訳が違うんだ。 嫌でも鉄砲でも・・・こ?・・・!・・嫌でも鉄砲でも持って来やがれてんだ、なー! ふふ、それとも何か一人じゃ所詮かなわねぇてんで屋敷へ帰ぇって先祖伝来のボロ鎧をして痩せ馬に乗っかって錆び槍をぶら下げて友達を頼んで仕けぇしにでも来ようてのか、手めぇたちが何百人来ようたってこっちはビクともしねぇ・・え!(首がひとりでに回る仕草)・・えへへ、憚りながら宿行きゃあ女が待ってるこっちは、えー、“おまはん久しぶりだったよ! 他で浮気をしていたんじゃないの?” “冗談言っちゃあいけねぇな、おめぇが有ってどこで浮気が出来るんだよ、馬鹿な事を言いな・・”あれ?・・やだなー、いやに俺の首は行儀が悪くなって・・“浮気なんか出来ねぇじゃねぇかよ!” “へへん、その口ぶりで方々で騙して歩くんだろ! ま、本とにお前さんくらい罪な人は・・”・・う?・・・へ、へ、罪な人は無いわよってな事を、ゆうか~い、愉快・・(バタ~ン!)・・これはいけねぇな、俺の首はこんなぐらぐらする首じゃねぇんだけどもなー・・・酒~~へ~え~、お?どっかから息が漏るぞ!・・・・・

あー大変だ畜生! やりやがったな畜生! やるんならやると断ってからやるがいいじゃねぇ、あん畜生め! しょうがねぇー、壊れ物にしちまいやがったよこれは、今の内に膠(にかわ)でくっ付けたら少し持つか知らんかな・・お雛様じゃねぇから膠では持たねぇだろうなー、ひでぇ事しやがる・・あっとっと、あー、いけね、いけねー、あー道わり道わり、おやおやアンヨも頭も泥だらけと来やがったこらー、情けねぇ事になっちゃったなー、ふうん、ふ~~!」

頭抱えて唸っている。 真正面へジャンジャンジャンジャンジャンジャンと水番のお偉方、「こりゃあいけねぇな、悪い時に火事が始ったなどうも」・・・

『おらーい、おうらーい、おうどうでぇやるのかー・・油断も隙もなりません・・・おいおいおい、邪魔だ邪魔だ、つっ立ってて!』 「おっとっと・・押しちゃあいけねぇ、押しちゃあいけねぇ、押しちゃあ! こっちは壊れもんだな、冗談じゃ・・いけねぇ混んで来やがった、落っことすといけねぇ!」 自分の首をひょいと差し上げて、「はい御免よ、はい御免よ!・・・」
---------
この6代目円生さんの『首提灯』は芸術祭文部大臣章受章した話ですが、その後全く講座に掛けないので関係者が尋ねた所、「今度やって、“何だこんなもんで賞を取ったのか”と言われるのが嫌でやらなくなった」との事ですが、実は裏話で、弟子の円楽さんが語ってました。

“その前年に「文七元結(もっとい)」をやった。 「これはお前も聞いてなさい!」なんて言うから聞いてましたよ、袖でね、実に見事な出来だった! 「今年の芸術祭大賞は私のもんですよ!」なんてね、降りて来た。 そんな事言った事がない! その人が言うんですから自信が有ったんですよ、いい出来だったんですよ。 そしたら見送りに・・・で「何だいこんな物か?」てんでね、明くる年は何をと言われ、「んじゃあ首提灯でもやりましょうか」てんで、急いでいたから確か10何分かでやってね、そそくさと他のとこ行っちゃったんですよ。 したらその「首提灯」で賞を貰った。 だから「私はね、こんなせこい首提灯でね、賞を貰って…!! もうこの首提灯はやりません!!」 そう言ったんですよ。”

(ちょっと中途半端なので、コメントコーナーに続き書きます。)

アバター
2009/06/11 01:16
ぱちぱちぱちぱちぱち…!
江戸っ子の酔っ払いの威勢のいい啖呵が、充分に堪能できますね^^さすが名作ですね♪

落語で軽~くやるからそれほど気にせず笑って聞けますけど、これ自分の首を差し上げて歩くんでしょ、想像したら怖い話なんですよね。私は感じませんがね。こういう武士のいる町の様子を聞きなれちゃったんでしょうね^^
今夜も面白かったです~❤次回も期待しています^^
アバター
2009/06/10 12:27
大変失礼しました、実はこのネタはたった一度しか講座に掛けてないと言いましたがこれは誤りで、この賞を取った後は掛けて無いという事でした。 今回の話は実は賞を取った話より前に演じた物のようです、賞を取った時のも有りますがちょっとこっちの方がいいと思います。 実を言うと林家正蔵さんの方が数段いいと感じるのですが(前に書いた『胴斬り』、云々です:45分)、講座でじかに聞いたらテンポといい間といい円生さんの「首提灯」は真に賞に値する芸かも知れません!

さて次回は『永代橋』で御座います。 ちょっと長いか・・次週から2席裁き物で御座います。 円生さんは演技がうま過ぎて落語というよりドラマか映画のような感じの話が多い方です。 実際にNHKの番組に俳優として出てらっしゃったくらいで(天下御免など)、水神、名月八幡祭、権十郎の芝居、水叩き、牡丹灯籠、下よ狸(絶品!)、小判一両など、どう見ても落語ではなく芝居か映画、ドラマの世界・・しかし以上の話は長すぎて紹介できません。 機会があったら小出しにするかも知れませんが・・とにかく6代目円生さんという方は志ん生さんの愛弟子という方(弟子では無かったのですが、満州で志ん生さんと暮らした日々で強烈に変わった方です)で、芸の虫といえる方です。 お長くなりました。



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.