Nicotto Town



三遊亭円生『永代橋』その3

「おいおい、お前の内ではどうしたい松さん? え、変わりはないかい?・・みんな居るかい、あー、ああ、家内の者はみんな揃ってる、いい塩梅だ。・・六さんとこはどうしたい? みんな居るかい?」 『ええ、あいにくみんな居ります。』 「あいにくを付けなくたっていい、余計な事を言いなさんな。・・あのー、留さんのとこは、みんな居るね?」

『いえ一人居ません!』 「え? 居ないの?」 『ええ、今手水場(ちょうずば、トイレ)へへぇってるんで・・』 「下らない事を言っちゃあいけねぇ、憚りへぇっている者を調べてるんじゃあねぇ! 馬鹿馬鹿しい。・・あのー、お絹さんとこは、どうしたい・・え? あー、みんな居る、あー、それはいい塩梅だ。・・それから亀さんのとこもみんな居るね。・・あのー六さんや、お前の家は何だな、祭りに行った者なんざ無いな?」

『いえ、行きました。』 「え? 行った?」 『ええ、去年行きました。』 「去年の話をしてるんじゃないんだよ。 えー、誰か居ない者は・・・え、みんな居る、あーそうか、それはいい塩梅だ! こんな時に間違いが有った日にゃあこっちは大迷惑だどうも・・・」

「おばあさん、今行ってきたよ、あーいい塩べぇだ、調べた所がみんなな、あー、居るんだよ無事で、あー、有難てぇー、有難てぇー・・ま、こんな事に係り合いならねぇ方がいいやま、後で祝いに蕎麦の一杯でも食おう!」

話をしている所へ・・指し紙が着きました、見ると神田大工町家主多兵衛棚、武兵衛水死に付き死体を引き取りに来いという・・

「あら! 武兵衛! あの野郎死にやがった、しょうがねぇなー。 そうだ・・あいつの家の前を通った時閉まってたんでうっかりしちまった。 おいおばあさん駄目だよ、武兵衛が死んだよ。 あー困ったなー! おまけに家賃が三つ溜まってるんだー、これだから独り者置くのはやだと思うんだよ。 しょうがねぇ頼まれたから置いてやったが、死骸を引き取ってくりゃあそのまんま打っちゃっとく訳にもいかねぇ、えー、弔いも出さなくちゃならない。 盗人に追い銭とはこのこった。 まあしょうがねぇ、だれか長屋のな若いもんで手の空いてる者があったら、こう言う訳ですいませんが一つ手伝って頂きたいからと頼んできな。 え、誰でもいいから、手の空いてるもんでいいんだよ、えー、すぐ行ってきな、後で蕎麦の一っぺぇも食わせると言ってな。 おばあさん早く行くんだよ、何をしてるんだな? お前は早くしろと言うと、どういう訳で落ち着くんだよ! 早くしろてぇのは急ぐ事なんだ、すぐ行くんだよ! ・・おばあさん、おい、早くしねぇかよ!」

『うるさいねーこの人はまあ、言い出すとのべつにしゃべってんだから・・分かってますよ! 早く行け行けったってあたしだって年を取ってるんだよ、そうちょっくらとは動けませんよ。』 「何言ってやん・・何だってぇと年をとった年を取ったってやがる。 人が頼んで取ってもらった訳じゃねぇんだ、手めぇでかってに年を取っときやがって・・えー! 年を取ったもねぇもんだ、食いもんだけは二人めぇ食うじゃねぇ、えー、する事は半人めぇもで来やしねぇ、早くしなってんだよ!」 『うるさいねーこの人は・・今行きますよ!』 「行くんなら早く・・」

「あー、ああ! あ、おいおい、ばあさん待ちな! 待ちなったら待ちなよ!・・向うからこっちへフラフラ・・歩いて来るのはありゃ・・武兵衛じゃねぇかおい!・・あー、そうだ、野郎だ! 食らい酔ってやがる、えー、ひょろひょろしてやがる、どうもしょうがねぇ・・」

「おい、おい! 武兵衛じゃねぇのかい?」 『や! これはこれは、はっはっは、どうも大家さんですかい。 どうも、あー、いい塩梅に天気になりましたね。』 「何を言ってやがる、天気はどうだっていいんだ! あきれけぇって物が言えねぇー、手めぇ何か、家賃が三つ溜まったのを忘れたのか?」 『えー、家賃ね、えー覚えてますで・・』 「覚えてる?」 『え!』 「祭り行ったろ!?」

『何だい、そんなお前さん怒鳴らなくたっていいじゃありませんか・・祭り行きましたよー、家賃が三つ溜まると何すか、祭り見に行っちゃあいけねぇんすか?』 「口の減らねぇこと言うなよ! 見ていけないてぇ事は無いが、人に不義理をしておきながら物見遊山をしようなんてぇそんな料簡だから落っこって死ぬんだ!」 『落っこって死んだ? だ、誰が?』 「誰がって、手めぇだ!」

(その4へ続く)

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2009/06/17 21:38
いつもの落語 見に来ましたよ~♪
続きは明日ですね。楽しみにしてますね^^



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