Nicotto Town



三遊亭円生『永代橋』その6

「えー、祭りを見ようてんでねー出たんでござんすよ、暫く来ると向こうから来たやつが“バーン!”とあっしにつき当たった。 “気を付けろよ、この野郎!”てぇゆうとね、そん畜生はずーっと人ゴミん中へへぇっちゃったんで、で、暫く行くとヒョイと気が付いたら紙入れがねぇんで、えー! あー、どうもねー、いくらいい祭りだって一文なしで見に行ったって面白くはねぇし、それから友達のとこ行きましてね、今これこれだってんで話をした所が、“じゃあまあ、厄落としだと思って我慢しろ、俺んとこで一ぺぇ飲め”ってんでね、えーゴチになりましてね、酔っちゃったからそこへ泊まったんですよ。 で、今朝になるとまた飲み直そうじゃねぇかてんで、いい心持ちに酔って帰ぇって来ると大家さんが何でも死んだ死んだてんですがねー・・(スーッ!)どうも死んだような気がしねぇんですがねー。」

『あー、左様か、しからば察する所其の方の懐中物を抜き取った賊が川へ落ちて死に、んー名札が入っておったのー、んー、ほーほーほー! あー、入っておる、んん、ん、ん! あー、これにて武兵衛水死と思い指し紙が着いたものに相違あるまい。 これは何が入っておるか其の方覚えておるか?』 「えーえーえー、それはちゃんと覚えてます。 えー、金が一応1両1分、えー1両1分・・それから細けぇのが確か200ちょいと有りました。 えー、名札とセエッ粒(サイコロ)が2つ、小せぇやつだ、へへ、魔除けに成るってますからねー、へへへ、えー、セエコロがへぇってるんで。」 『おお、其の方の申し立てに相違ない、これは其の方の品に相違ないによって戻してつかわす。』 「ああ、そうすか、どうも有難う御在・・」

『これ、多兵衛! 其の方町役を務める者でありながら、何処の国に武兵衛を連れて武兵衛の死骸を引き取りに参るたわけが有るか! かような場合であるから咎めは致さんが、この後かような事が無きようによく心付けい!』 「はは~!」 『これにて相分かった、両名とも引き取れー!』

『へぇ、有難うございます。 へへへ、だからこの大家さん、あっしがそう言ったでしょ・・知らねぇってのにお前さん何でもかんでも死んだ死んだてんだ。 えー死んでこうしてりゃあ幽霊でしょ、幽霊にゃあ足はねぇってけどもねぇ、えー立派に足は有ります、下駄を履いてらぁ、へへ! へへ、でぇち何ですねー、人間てものは正直にしなくちゃいけねぇてのはここですね! あっしなんざ正直もんだから、ねー!向こうから来た野郎にこう紙入れ取られて、それが為に命が助かった。 取った奴は川へ落っこってくたばっちまいやがって、その紙入れがまたあっしの所へそっくりけぇって来るなんてぇのはどうも・・“正直のこうべ(頭)に神宿るとは、はっはっはは、あ、ようゆうたものじゃ!!”』

「馬鹿野郎! 何を言ってやがる! 何が正直もんだ!」 『何をってお前さん、正直だからこうして・・』 「1両1分あって何だって家賃を3っつも滞(とどこ)うらせたんだ?」 『こりゃあまずかった!』 「何だまずかったとは! 何を言ってやがる、長屋へけぇったら直ぐに店賃は取り立てるからそう思え!・・ちょっ!! あんとき黙って死骸を引き取っておきゃあ俺が小言を食わずに済んだんだ! 手めぇのお陰でこっちは恥をかいた! 手めぇぐらい図々しい奴は・・(バカッ!)」 『何をするんです・・ぶたなくったって・・』 「ぶったがどう・・(バカッ!)」 『あ~ん、とうう、いてぇなー・・とほほ・・お役人様、大家さんがいじめていけません!』

『これこれ! 静に致せ! はっはっはっは、困った奴だ、武兵衛、かような家主を持ったのは其方の不運だ、諦めろ! いかに無理を言われても其の方には所詮勝てんのだ!』 「んな、どういう訳で?」 『其の方は武兵衛、家主は多兵衛、多兵衛に武兵衛はかなわん!』

お長くなりました。 この事故は奉行所の記録では死者440人という事になってるそうですが、実際には1500人を超えていたろうと物の本には書いて有るそうです。

さて次回は『おかふい』でございます。

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2009/06/19 21:37
多兵衛さん無事でよかったです。
昔からお祭りが好きな人はいっぱいいるんですね。
私もおまつり、大好きですよ♪
今夜も楽しい時間でした ありがと~❤



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