Nicotto Town



三遊亭円生『おかふい』その1

えー、ご要望の中を、御ひいきで御座いまして有り難く御礼を申し上げます。 相変わらずで御座いますが、何事によらず物が進んだと言う事をよく申しますが、えー、医学という、これはもう昔は今とは違いましてね、だいち怪しい先生がいい塩梅(あんばい)に無くなりましたが、以前はこの“でも医者”というものがよく有ったそうです。 別にやる事もないから医者でもやってみようかなんと言って、えーフラフラと医者になったりなにかする。 こういう先生に掛かる患者は可哀そうで・・

「あの人もねー、医者に掛からなきゃあ助かったのに、惜しい事をしました。」てんで、全くその危ない先生が有ったもんで。

「こんちはー! あー、先生! あのー、すいませんがねー、手の空いたときでいいけどもねー、ちょいと家へ来て診てやってもらえるかねー?」 『あー、宜しい。 診て進ぜるが、あー、どういう何か、容体は? 熱は無いのか?』

「へぇ? 何が? 熱が? えいえ、へー、いいや熱は有りません、いいえ人間じゃあねぇんで。 内の竹がね、この頃花が咲いてしょうがねぇんで、竹は花の咲く頃は枯れるなんて聞いたからねー、先生に一辺見て頂いた方がいいと・・」 『おい! 何を戸惑いをしてくるんだ! 竹は植木屋へ頼みなさい、私は医者だ!』 「う~ん? え、こちらは藪医者だと伺って上がりました!」

下手な先生を藪医者とゆう悪口を言う。 中にはタケノコ医者、「あー、あの先生危ないから止した方がいい、竹の子だから!」なんてんで、聞いてみたらまだ藪にならない方で、追い追いこれから藪に近づこうなんと言う。

「何だい、何をお前怒ってるんだよ?」 『何を怒ってるったって、腹が立とうじゃありませんか! えー、いえ、このおコブの藪医者ですよ。 あそこにねー、患者なんてぇもの来た事ねぇんですよー、尤も折も有りません、えー、命を捨てに来るようなもんだから誰もこねぇー。 ところが何処をまごついた野郎だか、“急病人で御座いますから先生にすぐお見舞いを頂きたい”てんですぐ飛び込んだ。 あー医者の奴は久しぶりの餌だってんでね、はー、薬箱抱えて顔色変えて飛び出して行きやがる。 それはいいが内の子供がここで遊んでいたんだ。 いくら忙しいったってお前さん、手でどかしゃーいいじゃありませんか! 足で蹴飛ばして出て行きやがる! はー、それ見たんで、あっしゃあ無性に癪に障ったからね、帰ぇってきたら野郎をツラの曲がる程ひん殴ってやろうと思ってね!』

「そんなにお前怒るもんじゃあないよ、蹴飛ばされたんなら幸せだ!」 『冗談言っちゃあいけねぇ、何が幸せなん・・?』 「何がってお前、あの人の手に掛かってみな、助からないから!」 成る程まあ下手な先生には、手に掛からない方がよろしい訳で。

ま尤もこうお医者様には、“手遅れ”という大変都合のいい言葉が有りましてね、患者を診ていきなり、「あー、こりゃあ手遅れです!」で、手遅れならばもう死んでも自分に責任が無し、治れば病人も医者も共に良好という、何でもその無闇に手遅れに致しまして。

「先生、どうぞこちらへ・・」 『病人は?』 「あちらで御座います。」 『あー、これはいかんなー、ちと手遅れになった! 残念な事を致した、もうちょっと早いとよいが・・』 「えー、只今二階から落っこってすぐお迎えに上がりましたんですが?」 『・・・落ちる前に来るとよろしい!』 それじゃあ何も医者を呼んでどうなるもんじゃあ有りませんで。

昔はこの不治の病と言いまして、まあーお気の毒だがあの病気にかかったんじゃあ所詮助かるまいと言う病が有ったもので、私共御幼少の折などはこの、えー、鼻の無い方というのをよくお見受けをした事が有りまして。 この真ん中の鼻が落ちる病気が有る、ウメの毒と言う・・ウメ毒病てぇ奴で・・これが無くなりましてね(鼻を指で摘まむ仕草)、障子を取っ払って夏向きの顔に成るという、どうもこりゃあ具合が悪いもんで。

麹町(こうじまち)三丁目に萬屋(よろずや)右兵衛と言う質屋が有る。 番頭の金兵衛と言う、こりゃあもう大変堅い人で・・ところがどうも若い時は失敗が有るもので、友達に誘われて新宿の廓へ遊びに行くと土産を頂いて帰りましたが、あんまりいい土産じゃない。 金兵衛さんの鼻が無くなったんで、いや当人も驚いた。 「女はもう怖い!」と言うので、堅い番頭が一層堅くなると言う訳で。

(その2へ続く:20分)




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