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三遊亭円生『おかふい』その4

『麹町三丁目質渡世、萬屋右兵衛、表を上げい! 其の方去る二月大病を致したる折り、女房りえの器量良き為忍従なりかねると申し、髪を切り鼻を削げと申したという・・しかとそれに相違ないか? どうじゃ?』 「恐れながらそれに相違御座りませんで。」

『りえは貞女なるによって髪を切り鼻を削いで其の方へ遣わした。 其方ゃ(そちゃ)その鼻を食ろおたそうであるな!』 「誠に、えへへ・・へー、恐れ入りました事で。」

『それが為病気全快を致したとあらば、女房は命の恩人と申すべき者! 恩有る女房を粗略に致し放埓なる身持ち、重きお咎めも有るべきなれど、願い人が妻なるによってこのたびは許し遣わす。 以後はきっと相ならん! よいか!・・喧嘩両成敗と申す喩えも有る、こんにち其の方の鼻をこれにて削ぐによって、左様心得ろ!!』

「ど、どうぞそれだけは御勘弁の程を願いまして!」 『ならん! それ!』 両方から役人が来て嫌がる右兵衛を抑え、カミソリを持って来るとスカッと鼻を削がれちまって、「ふが、ふが、ふが、ふが、ふが・・」 『下がれー!!』 下がってくると医者が来ているから手当をしてお宅へお帰りになる。

傷の治ったところで鏡を出した右兵衛が驚いた! 「ほや、ほや!(おや、おや!) んにゃ(こりゃ)また酷い顔だねこりゃあ! 鼻がないとだらしがないよこれ・・これじゃ遊びに行ったってもてやしないやこれ! うっふふふふ! 情けない事に!」 涙をこぼしてる。 さあ見栄坊な人だけに表へも出ません所からまた以前のように、「りえや、りえや!」とおかみさんを可愛がる。

元より御貞女で御座いますから、『旦那様、旦那様』と良く仕えるんで、先よりも一層夫婦仲がいい。 これはそうでしょう、以前にはあなたお互いに顔をくっ付けたって鼻が出っ張って邪魔になるのに、こんだはお互いに障害物が無くなったから、塩煎餅を二枚合したようで、誠に具合がいい。

金兵衛も喜んで、『ありがたい、近頃は大変御夫婦仲も良し、これでお家は万々歳だが、あんまりまた良すぎて・・ゴマで飯を食うことに成ってもいけないが・・いったい夫婦でどんな話をしているのか?』 好奇心で有る日の事、部屋の外からそっと・・中の様子を聞いていると知らない夫婦が・・

「あの、りえや! りえや!」 『ほ(お)呼びで御じゃいますか?』 「ちょっとここへほ(お)いでなさいまし・・まあまあまあまあ、そこにほ(お)座り・・このたびはほ前にはもう一方ならない世話になった。しょの(その)恩を忘れて私がお前を粗末にし、それを愛想もつかさずよく辛抱してくれました。 私ゃお前が本当~~に、かわふいよ!」 こりゃ、“可愛いよ”てんですが鼻へ抜けるから“かわふい”になる。

『もう、そのお話はなしゃいませんように、わたくしの心からでは御じゃいません、旦那様のお顔をそんなに致しましたのもみんなわたくしから・・思えば旦那様がおいとふい!』 こりゃ、“おいとしい(愛しい)”てんで、鼻へ抜けるからこれも“おいとふい”になる。

「私も身から出たさびで鼻がない、お前の器量をしょんなに(そんなに)したのは私が悪い・・私ゃお前がかわふいよ!」 『わたくしは旦那様がいとふい!』 「お前がかわふい!」 『旦那がいとふい!』

表で聞いた番頭が思わず吹き出した! 『あっはっはっはっは、いや~こいつぁーおかふい!!』

お時間で御座います。 この講座ではお客さんから上がる時にリクエストが有って演じた物のようですね。 円生さんには大ネタが多いのですがこういう馬鹿っ話しも一級品ですね。 円生さん特集これにてお終いで御座います。 来週からはこれまでかけて無い師匠方を紹介します。 来週は古今亭今助師匠の『置いてけ堀』でございます。 今、宮部みゆきさん著『本所深川ふしぎ草紙』と言う短編もの読んでるのですがこれにも載ってます。 江戸の本所の七不思議の一つですね。 次回もお時間の許す限りお付き合いをお願い致します。

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2009/06/26 00:23
番頭さんも、だんな様も、おりえさんも みんな鼻がなくなっちゃった!
しかし、すごい話ですね。鼻を削いじゃうのをネタにしちゃうなんてね。

今夜もありがとうございました~♪



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