Nicotto Town



ひょうきん小僧とお爺さん その1


 辺り一面稲穂が実り、もうそろそろ稲刈りと言うとある田舎の田園のはずれに鄙びた一軒家が有った。  六十半ば過ぎの白髪に白く長い髭を生やした人品のいいお爺さんが一人で住んでいた。 小間物屋を(せがれ)に任して楽隠居してるのである。 この爺さん日頃の食糧など一切を近くの雑貨屋に頼んで届けて貰う事になっていた。 盆栽いじりや釣りなどをして実にのんびりした生活をしている。 雑貨屋からは毎日昼頃になると七歳ぐらいになる小僧さんが御用聞きにやってくる。 紙で書いたメモを渡すだけなのだがいつも縁側に廻って肩を揉んでくれるのだった。 そのためさんは小僧さんに小遣いとしてビタ銭を1枚あげるのである。 注文した物は夕方別の者が運んでくる。

「お爺さーん、来ただよー」

と言って縁側のほうへ、

「やー来たか来たか、ささ今日はこれだけじゃ。」

と言って書付を渡すと、いつものように小僧さんは肩を揉んでくれるのだった。 お爺さんはにこにこしながら目をすぼめて気持ちよさそうにうーんと唸ってる。 秋が近いとはいえまだまだ暑い、お爺さんは団扇でお爺さんと小僧さんに風を当てている。 お爺さんにとってこの小僧さんは実の孫のようだった。 可愛くてしょうがないらしい。

「さ、小僧さんいつものお駄賃だよ。」

「有り難うごぜぇますだ!」

元気のいい声でにこにこ嬉しそうにお辞儀をするとトコトコとことこと門を出て行く。

ふとその愛らしい後ろ姿に見とれてると、小僧さん、来た方向と逆の方へと歩いて行くのであった。 おや? 左の方は山の中でお稲荷さんしかないのにいったい何処へ? そう思いながらもお茶をすすって盆栽を眺め出した。

 あくる日いつものように小僧さんが来て、いつものように駄賃を渡すと小僧さんを眺めていたらまた左の方へ、気になったお爺さんはこっそり後を付けた。 小僧さんはお稲荷さんの祠の左側の所にちょこんと座り込んで盛んに何かしてるようだった。 林の陰でその様子をうかがうお爺さん。 すると小僧さんは竹べらの様な物で土を掘ってるのだった。 中から小僧さんの頭ほどの大きさの壺が出てくるとフタを開けてビタ銭をチャリーンと入れた。 フタをして壺を抱きしめると、

「おらの銭っこ、おらの銭っこ、人が見たらバッタになあれ! おらの時だけ銭でいろ! 銭っこ銭っこ、人が見たらばバッタになって逃げて行け! おらの時だけ銭でいろ!」

壺を抱えて左右に揺らしながら、そのかわいらしさったらない。 思わずお爺さんくすくす笑ってしまった。 小僧さんはまた元の所に壺を埋めると、お稲荷さんに手を合わせて軽く拝むと、塵を払ってトコトコ山を降りて行った。 お爺さんはにこにこしながらその様子を見ていて、ふと悪戯心が出てしまった。 いそいそと自分の庵に向かうと網と虫籠を出してきてイナゴ捕りである。 イナゴは山ほど捕れた。 それを持っていそいそと山の方へ・・

(その2へ続く) 




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.