３年生みんな喜んで肩を叩いたり背中叩いたりして、送り出す・

　◎◎くん、ゆっくりＰＫのボールに向って走り、主審とアイコンタクトして、うなづく。主審が笛を吹く。ゆっくり走っていた◎◎くんが、そのまま止まらず、無造作にインサイドでシュート。相手キーパー反応出来ず、ゴール。「おぉ！(ウチのみんな)」。相手のＰＫ・・・ゴールポストに当たってボールが斜め内側に跳ね返りグランドに、テンテンと・・・
　勝ったのでは？・・・主審を見ると、笛を吹きながらウチのゴール側に手を振り下ろす。・・・やっぱり、勝ったんだ。
　でも、やっと、Ｂブロック１回戦突破だよ・・・
　試合の帰り、先生が「今日のＭＶＰは三蔵だな・・うんうん。」って、とうとう先生、壊れてきてるし・・

　その後、次の試合が始まって、気付いたんですが、相手が引き気味で、攻めて来ないんです。0対0で前半が終わり、ハーフタイムに、ウチのキャプテンが言うには、あの学校に延長ＰＫとはいえ、勝ったのは相当効いてて、強いと思われてるから、位攻めで後ろでボール回して、向こうが出てきたらスルーパスとか、縦パスで攻めて
みようか・・・と。みんな「う～ん・・・？」と返事なく、後半戦のグランドへ。
　やっぱり、そうだった。かなりビビッテる感じで・・・
　簡単にパスが通って加点出来て、守備の負担の減った私でさえ、来たパスに合わせただけで２点得点できた。その試合は6対0で勝ち上がって・・・
　その後、準決勝まで6試合、前半に3対0になれば、ほとんど1・2年生に変えて、練習の様に簡単に勝ちあがって行く。

　そして決勝戦。このチームは1回戦で当たった学校と同じ感じの全国大会常連校で、選手が皆大きくて如何にも強そうでしたが、我々はリラックスムードで緊張もなにもしていなかだった。
　なぜかと言うと、まず、１試合でも多く試合がしたい。という。願いはもう此処に進んだだけで満願だったし、昨日から止まず、夜中土砂降りになった、グランドは、あっちこっちに水溜りが出来て、スパイクが脱げてしまう程グッチョングッチョンだった。ウチのチームは、いつも練習してる学校のグランドが水はけが悪く、少しでも雨が振るといつもこんな状態で、慣れてるし、実際、グランドの状態が悪い時は、相手に関わらず、一度も負けた事が無かったんです。

　向こうは全校応援で、選手達はガチガチに張り詰めた緊張した雰囲気で。　対照的に、応援の生徒が相変わらずゼロのこちら側は、緊張のカケラも無くて・・・

　試合が始まって、すぐ、向こうがスパイク脱げたり、パスが、水溜りで止まってしまったりで、悪戦苦闘してる時に、ウチのチームは普段通りで、こういうコンデションの時はつま先で蹴らないとパスが届かなかったり、水溜りを狙ってロングパスを止めたり、エースは必殺水切りシュートとか、水溜りでボールを奪う時、両足でジャンプして泥水を浴びせ掛けて目潰しをしてボールを奪ったり、普段、全く役に立たない多彩な小技を持っていて、やる前から勝負にならないほど有利でした。
　それでも、後半は慣れてきて、ウチは２点しか取れず、１点返してきた彼らは相当強いチームでした。実力は３倍も上回っていたと思うのですが・・・試合終了間際、彼らの悔しさも、骨身に染みて分かって、複雑な気持のまま、Ｂブロック最終戦は２体１で、ウチの学校が勝ちあがり、来期は地区予選免除で都大会のシード校に・・・

ですが、このままじゃ泥まみれで、電車に乗れないどころか、着替えも出来ないので。どうにか銭湯を探して、歩道で水道の水をホースから勢い良く出して、泥を流してから、風呂に入って、それから帰りました。銭湯のおばさんが、鬼の様な顔で監視して、最後まで目を合わせませんでしたが･･･

　部設立以来初の、トロフィーと盾・賞状を貰い何気に泣きそうな感じですっかり無口になった先生に、みんな、どうしたのかと聞いたら、ウチのサッカー部は名門じゃないが、都大会に行けなかった事は、先生が監督になって１度も無かったらしくて、不動の地区ＮＯ,２のチームだったのがこの学校のサッカー部の誇りだったと。落胆は相当大きかったらしく、こいつらはダメだと思ってた世代が、何故か、部創立以来初めてのトロフィーを貰って、初の都大会のシード校になって・・・
　先生は混乱して、すっかり壊れてしまったらしく、帰りの電車で突然泣き出して、周囲をドン引きにさせていました。

　これで、高校での公式試合は総て終了して、この日を境に、次の日から、一切部室にも練習にも出ない・・・これがウチの部の慣わしで我々もそうました。

　今想うと、夢のような日々でした。
　私にとって、記憶は永遠なのだから。
　　　　　　　　　ーfinー