はじめての一人暮らし-其の六-

　明るい未来は見えなくても、日長一日はダラダラささやかな欲望を満たして過ぎて行ってしまう。
　外食して、古本屋さんからコミック本や文庫本を段ボール箱一杯に買ってきて、布団でゴロゴロしながら読みふけり、風呂を沸かして入ったり・・・
　風呂・・・洋画で見た泡を一杯にした風呂に入ってみたいと、入浴剤を駅ビルで見つけてきて、入ってみたものの・・・全然さっぱりしない・・・結局シャワーで流さんとイカンし、日本人の体質に会わないっす・・・
　で、洗濯物が溜まってきて・・・コインランドリーは見つけておいたものの、面倒くさいし小銭が勿体無いんで、残り湯で洗ってみる・・・な・なんか・・・異様なにおいが・・・俺のパンツってこんなに汚れてる訳ぇ？・・・もみ洗いててたら、指の第二関節のあたりがチクチクしてきて・・・指を見ると、皮が擦れてズル向けになってて血が・・・なっか・・痛ぇぇぇ・・お湯で洗濯ってこんなデメリットがぁ！・・・絆創膏買ってきて指の関節に貼って、とりあえず洗濯を終える・・・
　も、洗濯を干す吊り具みたいのが必要だし、洗濯バサミがないとビルの隙間風が凄くて、洗濯物が吸い込まれそう・・・買わんと・・・また買ってくる・・・ようやく終えたけど・・・洗濯機って必要だよなぁぁぁ
　もう、全部お金だよ・・・

　だいぶ落ち着いた頃、風呂に入ってると、換気扇から聞こえる、風と街のざわめきの音が・・・うめき声に聞こえて、恐い・・・
　風呂を上がって、寝ようとすると、なにやら恐くなってくる・・・気のせい、気のせい・・と、自分に言い聞かせて寝ようとしてると・・・
　玄関で「グワッシャーン！」・・・
　・・・心臓止まるってば・・・恐ぇぇぇ・・・・・・何、いまの??
　恐る恐る玄関に行くと・・・粘着テープ式のフックが取れて、鏡が落下して床に・・・なんでこんなにタイミングイイ訳？・・・役者かぁ
　その後、静まり返った部屋で、なにやら木の裂けるようなラップ音もしてきて・・・
　なんだ・・・いつもの聞き慣れた音じゃん・・・却って安堵感が広まり、街のざわめきも気にならなくなって、その後は良く眠れる様になる。

　ある日、朝、ゴミを出そうとエレベーターを待ってると、隣の部屋から彪柄のスパッツ？にTシャツの茶髪のおばさんが出てくる。
　「おはようございます（俺）」「あぁ、おはよう」
　同じくゴミ袋を持ってて、エレベーターを一緒に待つハメに・・・
　エレベーターがやっと来て、乗り込み１階のボタンを押す・・・
　「若いから、大変でしょう」「何がですか？」「アレよ、アレ」
　おばさんが、手で仕種をしてみせる（たぶん○ナニーだと？）
　「えぇ？・・・。だ・大丈夫です（何が？）」「フフン（鼻で笑われた？）」
　重苦しい沈黙のまま、１階に着いて、一緒にゴミを捨てる。
　帰りも同じエレベーターじゃ、かなわんと思い、「じゃあ・・・」とか言って、隣のコンビニに避難して、やり過ごす・・・普段買わない週刊ビッグコミック・スペリオールだかを買って、エレベーターホールに帰ってくると、さっきのおばさんが郵便物を見てて、まだ居るし・・・
　また、嫌な沈黙のまま。９階まで一緒のエレネーターで上がる。
　「買い物？」「はい。」「隣だねぇ」「はい。」
　エレベーターが９階に着き、おばさんが「じゃあ。また。」とか言って部屋に帰る・・・なんか・・恐ぇぇ。幽霊より恐いかも・・・
　
　このおばさん。たぶんお水だと思うけど、朝とか日中だと化粧してないので、顔が腫れてる様に見えて、凄い・・・
　反対に出勤時に、合うとなぜかイイ女に見えて・・・再び凄い。
　帰って来たらしく、夜中４時過ぎに風呂に入って、音がうるさいんですよ。
　しかも、俺、寝てる部屋の壁向こうが、隣の風呂で、俺んちの窓から見える隣のビジネスホテルの外壁（ベランダから５０cmくらい）に、スクリーンの様に、四角い窓明かりと、人影が写って・・・なんとも・・・
　お風呂の音は、我慢するしかない・・・けど、結構、熟睡してても起きちゃうくらい響くんで・・・
　環境・・・悪ぃ・・・青少年の精神安定上よくないっすよ。
　気にしなければイイんだと、やり過ごし。
　家から、学校の教科書も届き、入学式その他の資料も手にして、
　ようやく、私立○橋大学の入学式を迎える。

　所持金５万３千円・・・洗濯機、冷蔵庫・・・これらは買わないと・・・
　それより。生活費。
　とにかく、学生課でアルバイトを、見つけないと・・・破滅が近いっす。

　ささやかな希望と果てしない不安を抱えつつ・・・
　なんの落ちも無いまま、次回につづく