３年前でした。
　新宿のとある建築事務所に少しずつでも、取引出来ないかとウチの営業所で話が持ち上がりました。
　仕方なく、行くだけ行って来ようと…
　自社ビルのオーナー兼建築事務所の社長にアポを取って、会いに行きました。
　実際会ったら、結構若くて感じのイイ方でした。
　一般的に良くある、完成後の施主さんの要望に対応出来る営業の人に担当して欲しいと言うことは、その場で約束事項として言われました。
　これから少しずつ、付き合って行こうと言う事で、話はまとまり、帰り際に、ごく軽ぅ～く頼まれたんです。
　この社長の１４階建の自社ビルは３階部分の面積が大きくて。テラス風になってる３階の屋上部分がテニスコート２面付いていて、４階のスポーツジムの施設の一部になっているんです。その周りを、10Mくらいの高さのフェンスで囲ってあって、それに強力な外灯を付けたいと、投光機は試しに１個買ってあるんだけど、1個だけフ
ェンスの天辺の鉄骨に取り付けてくれないか？今すぐ・・・良かったら８個付けたいんだけど、施工後のテニスコートの明るさの尺度が分からなくて…と、言うんです。確かにそうなんだけど。
　この際、やってみる事に・・・

　で、フェンスの天辺の鉄骨は厚いので、私の充電式のハンドドリルじゃ穴が開かないと思うと話したら、ゴッツイ電動ドリルを貸してくれて。
　スッゴイ重い本格的なドリルで、これ持って、デカイ投光機も持って、２連梯子を昇る？・・・オレ、死ぬかな・・・

　心配した通り、２連梯子じゃあフェンスの天辺まで届かないんですよ。
　フェンス際にテニスのネットやらボールをしまうイナバの物置があって、あの上から梯子を掛けたら天辺まで間違いなく届くなと、社長に物置の上に梯子を掛けてもいいか聞いたら、それでしか届かないだろうと。

　イナバの物置の屋根からフェンスに２連梯子を掛けて、工具は腰回りのを持ってるので使って、この重い電動ドリルを片手で持って、投光機が大きいので脱落防止のチェーンが付いてあったので、そのチェーンを繋げて首から下げて、梯子を昇ってフェンスの天辺に登りました。
　スッゲェェェ怖い・・・半端じゃない!!　３階屋上に付いてる10Mのフェンスの上なのでビルの外を見ると約５階の高さがあるっすよぉー!!　しかもこのどデカイ投光機、この重いドリル。
　とりあえず、投光機をフェンスにチェーンで括り付けて、鉄骨に台座の止め具の穴をドリルで開ける。
　さすがに本格的なドリルだけあって、簡単に止め具のボルトの穴はスンナリ開きました。
　台座をボルト締めして投光機をセットして、後、電源ケーブルを降ろすだけで・・・終わったぁー!!
　全部終了して、２連梯子に戻り、電動ドリルを右手に持ち替えようとした刹那!・・・「んっ」・・・
　なにか「ふっ」と体が軽くなった様な、変な感じ・・・
　物置の上の梯子がズレて吹っ飛び、ドォーン!!と、一瞬にして電動ドリルを持ったままイナバの物置の上に直立状態で突っ込んだらしい・私・・・　イナバの物置は一瞬で完璧に潰れていて、足の裏がジィ～ンっとしていて、なにがあったのか全然把握出来ない・・・
　んっ電動ドリルは、ちゃんと持ったままだし・・アレッ梯子は??
　梯子はテニスコートの端っこに転がってて・・あぁ・・梯子がズレて吹っ飛んだんだ。
　で、あそこから落ちて、なんでちゃんと立ってんだ・・・おれ・・・物置はぺちゃんこだけど・・・
　そうなんです。かすり傷一つ負っていなくて、投光機は、ちゃんと上に付いてるし・・・でも、物置が・・
　社長を呼んできて、「あの～梯子がズレて、私、いなばの物置に落ちたんですけど、この物置弁償しますので、値段を教えて下さい。投光機はちゃんと付けました。点灯試験もすんでます。」
　「えっ。あそこから落ちたぁ？ケ・ケガはぁ!?どうした!!」「いえ。全然」「まさかぁ～！」「真っ直ぐ、物置に！ドリル持ったままで」「そんな重いドリル・・・どっかケガしただろ??」「いえ、大丈夫です。ドリルも壊れてないですよ。ですので、物置の代金を・・・」
　「そんなものは、いらんちゅーの!!どうせ見えるところだから、見栄えのイイ物置を作ろうと思ってたからさぁー」「えっ！ホントに体、大丈夫なの？」「はい。幸運にも・・・」
　「すっげーな、あそこから落ちて、あの物置が潰れるくらいの勢いで・・・立ったまま？足から着地したんだ？」「たぶん」
　物置は弁償せずに済んで、定価28万円の投光機を新しく８台注文を頂き、足場を組んでから投光機を取り付ける事になりました。
　なんか、めでたしめでたし・・・みたいな。