半身浴と全身浴、健康効果が高いのは結局どっち?
- カテゴリ:美容/健康
- 2020/04/26 16:44:35
半身浴と全身浴、健康効果が高いのは結局どっち?
( All About 2020/04/09 21:50 早坂 信哉(医師))
半身浴と全身浴、医学的に健康効果が高いのはどちら?
半身浴と全身浴は、結局どちらが健康によいのでしょうか?
メディアでも今なおしばしば議論されているこのテーマですが、温泉療法専門医としての見地から見ても、実は答えは一つではありません。
半身浴と全身浴にはそれぞれ特徴があり、メリット・デメリットが異なります。
どのような年齢のどのような体調・悩みを持つ人が、どのような目的で入浴するのかによって、正解が変わるのです。
こう聞くと少しややこしく感じられるかもしれませんが、それぞれの入浴法が心身に及ぼす効果を考えれば、目的や状況に合わせて使い分けをうまく判断することはさほど難しいことではありません。
半身浴と全身浴の違いは、とてもシンプルな話です。
入浴時間や水分補給のタイミングなど、細かく解説されているものもありますが、一番の違いは文字通り、「身体のどこまでお湯に浸かるか」の違いだけです。
半身浴の場合は、身体に対する水位は浅く、せいぜいみぞおち程度までの入浴。
全身浴の場合は、肩まで湯に浸かります。
お湯に浸かることが身体にどのように影響を与えるかを考え、その効果の大きさ、負担の大きさを考えて、それぞれのメリット・デメリットを考えてみましょう。
入浴の効果:身体が影響を受ける「温熱作用」「水圧作用」「浮力作用」
お湯に浸かる作用は、身体が温まることだけではありません。
入浴の身体への影響は、医学的には「温熱作用」「水圧作用」「浮力作用」に分けて考えることができます。
それぞれの作用について見てみましょう。
▼温熱作用:体温上昇、血流改善効果につながる
まずは温熱作用です。お湯に浸かると、温かいお湯によって身体が温められます。
状況によっても異なりますが、1回の入浴で全身浴なら0.5~1.0℃程度体温が上昇します。
身体が温められることで血管が広がり、血流が良くなります。
血液は全身に37兆個あるといわれる1つ1つの細胞へ酸素や栄養分を運び、要らなくなった老廃物や疲労物質、二酸化炭素を回収してくれます。
これが、湯船に浸かると疲れが取れたり、すっきりした感じになる理由の1つです。
単純な話ですが、半身浴は身体の半分しか湯に浸かっていないため、同じ時間であれば体温の上がり方も、全身浴の約半分です。
当然、同じ時間をかけるならば、血流の改善作用も半身浴は全身浴の約半分ほどということになります。
▼水圧作用:下肢のむくみ改善効果
水圧作用も考えてみましょう。
湯船にためた湯であっても、その水深に比例して身体は水圧を受けます。
25cmの深さにある部分には1cm四方の皮膚に25g重の力が加わります。50cmの深さなら50g重の力が加わります。
水圧は身体を締め付けるので、特に下肢にたまった血液やリンパ液を身体の中心へ押し戻し、むくみを改善させます。下肢のむくみは女性に多い悩みの1つです。
半身浴は湯の深さが全身浴より浅いのでそれだけ引き締め効果も弱くなります。
湯の深さが半分ならこの水圧効果も半分です。
▼浮力作用:筋肉のリラックス度に影響
浮力は水面下に沈む体積に比例して浮かぶ力を水から受けます。
ぷかぷか浮かぶとその分身体の筋肉は自分の体重を支える必要がなくなるため、緊張がゆるみ、リラックスできます。
半身浴はみぞおち程度までしか水面下に沈んでいないので、浮力も全身浴の半分程度と考えて良いでしょう。
半身浴の健康効果は、全身浴の「半分」なのか?
以上のように、単純に考えると、半身浴は全身浴と比較して入浴の作用である温熱作用、水圧作用、浮力作用がほぼ半分です。
つまり、半身浴は全身浴と比べて入浴作用が半分、ともいえるでしょう。
もちろん、入浴時間の長さも考えるべきだという声もあるでしょう。
「半身浴にすれば長く入ることができ、その分じっくりと効果が得られる」という説明をよく聞きますが、入浴作用が全身浴の半分なので、同じ作用を得るためには全身浴の概ね2倍の入浴時間が必要になるだけと考えてよいでしょう。
これはいくつかの実験結果で明らかにされていることです。
結果的に同じ効果でも、なるべく長い時間を湯船で過ごし、読書などのリフレッシュの時間に充てたいという方もいるかもしれませんが、同じ入浴時間ならカロリー消費や発汗量も全身浴の方が多いこと、同じ効果を半身浴で得たい場合は、単純に倍の時間が必要であるということは覚えておいてください。
半身浴の効果・メリット:身体への負荷を軽減できる
では同じ時間での効果が半分なら、結局全身浴の方が入浴効果が高いのかというと、一概にそうともいえません。半身浴にもメリットがあります。
特に乳幼児や高齢者、心臓や肺などの呼吸器の悪い方には、私も以前から半身浴をお勧めしています。
上で解説した入浴による温熱、水圧、浮力のいずれの作用も、身体に対しては「負荷」であることには変わりません。人によってはそれが身体に過剰な負担となることがあります。
例えば温熱作用を受けやすい乳幼児や高齢者は全身浴では温熱作用が強過ぎることがあります。
また、肩まで浸かると、胸の周りまでお湯から水圧を受けて締め付けられるので、呼吸がしにくくなり息苦しく感じる人もいます。
また、下半身の血液が心臓のある上半身に押し戻されるため、心臓の機能の悪い人にとっては心臓への負担が大きくなり、これも胸の苦しさの原因になります。
全身浴では負荷が高過ぎる場合、身体への負担が軽減できる半身浴にはメリットがあるといえるでしょう。
半身浴・全身浴は、目的や状況を考えて使い分けるのが理想
以上のように、半身浴、全身浴にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
目的や状況に合わせて使い分ければいいだけの話であり、万人に対してどちらかが絶対に優れている、というようなものではありません。
なお、理想的な入浴時間の目安としては、半身浴の場合は40℃なら20分、全身浴の場合は40℃なら10分程度です。
私は体調に問題のない方に対しては原則全身浴をお勧めしていますが、心臓や呼吸機能が低下している人、全身浴だと息苦しく感じる人、長く湯船を楽しみたい人へは半身浴を勧めています。
体調や目的に合わせて半身浴、全身浴を使い分けて、入浴の健康効果をそれぞれに合った形で楽しんでください。
▼早坂 信哉プロフィール
お風呂・温泉の正しい情報を伝える 温泉療法専門医。浜松医科大学准教授、大東文化大学教授 などを経て、2015年より東京都市大学人間科学部教授(現職)。
一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長も兼任。