ある歌の物語 第四章 「京の琵琶法師」
- カテゴリ:30代以上
- 2013/11/15 22:21:06
乱 終わりし京の町
荒んだままの京の町
荒んだままの京の町
広小路には埃舞い 並ぶ屋台は粟やヒエ 雑炊売りし店ばかり
草花もなき道ばたを琵琶法師が歩みゆく
鼻緒の切れた草履はき杖つきて
ひたひたと ただ 歩みゆく
ひたひたと ただ 歩みゆく
花街の瀟洒な 屋敷のまえ
歩みを止めて 杖に寄り
ひとり自らを嘆く
歩みを止めて 杖に寄り
ひとり自らを嘆く
乱れし時代に 声だけで渡る
世間に風は吹く
毎日が同じ同じに繰り返す
語り歌いて金もらう
諸行無常と言うなれど
家族なし
愛も無し
色も無し
わが身の盲いた世界には
闇のなかに光なし
門に入りし琵琶法師
下女の小声の案内に
小柄な姿 心に浮かぶ
小柄な姿 心に浮かぶ
音と香りから察するに
一人の旦那と遊女一人
座敷の旦那は 法師に言う
「いつものとおり 歌っとくれ」
琵琶をつま弾き 曲奏で
「いつものとおり 歌っとくれ」
琵琶をつま弾き 曲奏で
誰もが涙する平家の語り
師匠の語りを耳で聞き
覚えた世界を魅せる芸
平家を語る歌の中
人々行き交い
想い死ぬ
想い死ぬ
人に情けを伝えしが
自らの仕事と理解しも
琵琶片手に歌うなか
自らも悲しくなる
この気持ち
十分泣かせた時のあと
この気持ち
十分泣かせた時のあと
優しい旦那の声がする
「他のはなしも歌っとくれ」
「他のはなしも歌っとくれ」
他に習いし歌ならば
「くずれ」と呼ばれる語りもの
自分が好きなその歌を
心を込めて歌いきる
男の気持ちをせつせつと
うつくしき琵琶の音に乗せる
愛する女と別れても
遠くの土地に離れても
女を思うその気持ち
その気持ちを歌いきる
芸子がよよと泣きじゃくる
「私の 何ものか
求めるの
狂おしくて
愛しくて」
涙はとまらず流れ出る
語り終わりて琵琶法師
求めるの
狂おしくて
愛しくて」
涙はとまらず流れ出る
語り終わりて琵琶法師
汗を拭きつつ
ゆっくりと
袈裟直しながら立ちあがる
泣きっぱなしの旦那から
金を受け取り部屋を出る
戸の外には下女座り
涙を裾で拭いている
「ありがとふ
あたいも夢が
みれました
愛など感じる時の無い
この生活が続くのか
そんな絶望感じてた
そこに光が射した気が
そんな気持ちになれました」
琵琶法師は家を出る
後ろで下女がお辞儀した
そんな気がして振り返る
手を伸ばすと下女の顔
その肌には涙のあと
残される寂しさを感じ
下女の手を取り家を出る
驚く下女を連れたまま
法師は道を歩いてく
京のまちを
歩いてく
京を出ても歩いてく
二人の道を
歩いてく
静かに暮らす地を求め
どこまでもどこまでも
歩いてく