隣席の悪魔
- カテゴリ:自作小説
- 2014/08/08 12:26:54
立場上(*1)、人の秘密を知ることが時としてある。
ある小さな会合で、ある若い男性から、極めて深刻で繊細な内容の告白を聞いた。それは、処置を誤ればいのちの危険も伴うものだった。
私は彼の指導者ではない。
しかし、重い気持ちでこう考えた。
『自分の棺桶まで持っていかなければならない話がまたひとつ増えたか』
そして私は、記憶の蓋の上を、守秘義務の四文字で覆った。
数日後。
その会合に参加した、私よりやや年長の女性と偶然会った。
その女性は、どちらかと言えば、人間の善意で人間は救える、と考えているタイプのようだ。
しかし、やはり指導的立場にはない。
「私たちにできることはないかしら?」
と切り出された瞬間、私は、ある外国のことわざを思い起こした。
『当事者のいない場所で、第三者同士が当事者の秘密について語り出すと、隣席に悪魔も着席する』
自分ならいざ知らず、秘密を知ってしまった他の人のいのちに関して、悪魔に機会を与えるわけにはいかない。
私は覚悟を決め、とぼけた。
「は?何のことですか?」
「ふざけないで!決まっているでしょう」
女性は、ややきついまなざしで私を見、数日前の話の概略を語った。
「何の事だか、まったくわかりませんね」
「どこまで人を馬鹿にするの?まさか記憶にないとは言わせないわ」
私は詰め寄られた。譲歩しなければ、何を失うかも予想がついた。
『今、ふたりで知恵を絞り出し合えば、彼のいのちは救われるかもしれませんよ』
とうとう、隣席の悪魔が尻尾を出した。
そこで。
私は確信犯的に、とんちんかんなことを言った。
「記憶ですか?私の記憶は、まったくあてになりませんよ」
すると。
その女性は、唖然とした表情で言い捨てた。
「ふつうじゃない。あなた、おかしい。あなたのような人が、ああいう集まりに出る資格ない」
案の定、私は、その女性から絶縁され、何人かの知人もなくしたけれど、秘密を告白した男性の指導的立場にいた人が絶妙のさじ加減を知っていたので、結局、いのちを落とした人がひとりも出ず、なによりだったのではないかと、私は思っている。
了
*1:刑法第134条条文より
私だったら、悪く思われたくないというだけで話に乗ってしまうかもしれません。。。
後で後悔するのは分かっているのに。
その集まりに出る資格がないのはその女性の方です。
守秘義務のある場所で話された話は、その話を他の場所で話すのはルール違反ですね。
その男性から「どうしたらいいか?」と相談されたのなら話は別ですが、そうでない場合、
たとえ親切心であっても第三者が勝手に手助けするのは余計なお世話というものです。
情がない訳ではない。
けれど人生経験が豊富だからこそできる決断なのではないでしょうか?
それは守秘義務があるんだよとかプライバシー保護の問題があるんだよとか言うと
引かれちゃうときあります^^;
推理小説ではまったく守秘義務が無視されて刑事さんに話してたりするしww
カテゴリが自作小説なんだね~