「でもさあ、アキバのメイドさんって大変だよね。いろんなお客さん相手にしなくちゃでしょ」
「メイドじゃなくて、アイドルなんです」
　出ました。
　アキバ、なりきりの鉄則。
「じゃあ、オレは、ご主人様じゃないんだ」
「そうです、私たちアイドルの、プロデューサーさまです」
　というわけで、4年ぶりに入ったアキバの喫茶は、アイドル系,であった。マジで偶然。
　オレは東北の田舎者だから、東京なんて年に2，3回、会議で行けるぐらい。しかも、トンボ返りで遊ぶ暇なんかない。しかし、今回は4時間の自由時間がもらえた。
　そしたらもう、アキバしかないじゃん！
「コースは、ソフトドリンク30分飲み放題1000円からとなっていますが・・・」
　メイドさん、いや、アイドルちゃんに営業をかけられる前に、オレは敵の術にハマりに出た。
「初めてコース、これ、いいじゃん、2600円、プラス消費税だおね」
「いいえ。税込み2600円です」
「決めた！」
　60分ソフトドリンク飲み放題＋お絵かきオムライス＋チェキ（2ショット写真）でこの値段は、高くはない。メイドさん、じゃなくて、アイドルSちゅわんも、かなりかわゆすだし。
「ありがとうございます。それでは、アイドルプロデュースの時間の始まりです」
　アキバの喫茶は時間に厳しい。それは他のビズネスとて同じか。
　フリードリンクのせいか、先に頼んだアイスコーヒーに、おいしくなあれ、のおまじないコールはなく、数分後、レンジでチンしたオムライスがカウンターに。
「何の絵を描いてくれるの？」
「○イメロディーです！」
「おおっ！ツボだね。でも、オレの求めはクロミなんだけどお」
「いいですけどお、うまく描けないかもお」
「冗談冗談、○イメロ大歓迎だお」
　アイドルSちゅわんがケチャップで描いた○イメロは、マジに上手だった。オレは今までに10皿ほどお絵かきオムライスを食しているが、こんなに上手い絵は初めて見たぞ。
「料理は写メOKなんだおね」
「プロデューサー様、通いなれているようなので、敢えて言いませんでした」
　ここはアイドル系喫茶である。おいしくなれのおまじないはない。
　そのかわり。
　いただきますの代わりに。
　Sちゅわんが源氏名を言って、オレは。
「アイドルフラッーシュ！」
　と答えたのであった（アホ全開）
　エへへ。
　ここまででまだ10分経過。しかし、他に誰も客は入って来ない。
　オレはメイドさんと長時間会話を期待してメイド喫茶に入るわけはないので（アメリカ人のメイドさんにアホ彼のことを長時間愚痴られたことはあったが）、少々戸惑った。
　しかし、根が卑しいオレは、投資以上の回収を図ろうと、トーク全開作戦に出た。
　まず、○イメロからはじまって○ンリオトーク。
「オレなんか、○キララの水筒まで持ってるさ」
「すんごおい。○キララカフェに一人で行く男性で、○ンリオグッズで身を固めてる人、いますよ」
「おおおおっ！オレはそこまではムリだなあ」
「プロデューサー様（つまり、オレのこと）は、コスプレしないんですかあ？」
「え？？」
「30分前までいらした方は、コスプレでしたよ」
「何の？」
「メイドさんの」
「女性のプロデューサーさん（つまり、客）だおね、それ」
「いいえ、男子です」
「そ・・・それって、執事服着たコスプレだおね」
「いいえ、メイド服です」
「えええええっ」
「とってもお似合いでしたよ」
　マジでオレは、30分前に来ればよかったと思った。
　みんなあ、よく聞いてくれお。
　オレなんか、ニコタ内だけだぜ。かわいいもんじゃんｗｗ
　その後もマシンガントークは続いた。さすがのSちゅわんも話疲れた様子で、Mちゅわんというアイドルも来たが、客がひとりのためか、挨拶だけして外へ行ってしまった。
　そして、おなじみのチェキタイム。
「生産中止になりかけたチェキを、富士フィルムが製造をやめないのは、アキバのおかげだって知ってる？（口から出まかせ）」
「知りません（知るわけないよね）」
　こうしてオレのアイドルプロデュースタイムは終わった。
　田舎に住んでいて、つくづく良かったと思うのは、アキバなんかめったに行けないから、ハマって通い、散財する恐れがないということ。
　しかし、世の中にはディープな男子やオヤジが存在するらしいことを知り、オレなんかまったく平凡な人間だと思う岩太郎であった。