Nicotto Town


てらもっちの あれもっち、これもっち


すっきりんクロニクル第5章 「境目」

あ、はいはい。

ごめんなさい。
よくわからないからゆっくりしゃべってくださいな。入国管理官さん。

はい。そうです。コロンビアに来るのは初めてです。

 

はい。名前はすっきりんです。

 

パスポートはこの赤いの。

赤、好きだから。

ふふふ。

うん、これ。日本の正式なパスポート。

なかなかお洒落なデザインで素敵な色でしょ?

 

え、「日本」知らない?

そうねー。最近はだいぶ弱い国になっちゃったから。

ほら「KARAOKE」とか「SUSHI」とか「GEISHA」が有名な国。

「Haruki Murakami」って日本の作家もいたでしょ?


あら。あなたも「KARAOKE」好き?
わたしも歌うわよ~。
「Haruki Murakami」も好きなの?本当?
それ。とっても嬉しいわ。

 

 しごと?もちろん旅人です。
 それじゃ、だめ。あっ、そう。

その前?

ある国の女王様だったの。
もう。そんな目で見ないでよ。

居酒屋チェーンの経営者だったこともある。

本当よ。本当のこと。


証明しろって?

 

そんなこと言ったってね。

ごめんなさい。給与明細は取っておかないタイプなの。

他に仕事はしてないか。って。

「仕事」の欄が「旅人」じゃまずい。

へー。そうなの。
 

そうね。「舞子さん」になったことはあるわ。

うん。名古屋っていう街に住んでいたころ、37、38ぐらいだったかな。ふと京都に行きたくなって。冬。


あのころは平和だったから電車もちゃんと走ってたの。
京都まで電車に乗って。近いからすぐよ。すぐ。

ファンタスティックな街。


え?京都知ってるの?
ああ、写真で見たんだ。


「中国にある」と思ってたって。
はぁ。ダメダメね。日本よ日本。

 
それでね。京都に着いて3条から錦市場をぶらぶらして、そうそう、胡麻団子なんかをつまみながら歩いてね。

お茶屋さんの前では煎りたてのほうじ茶の香りとか。

いいわよね。ポワ~ン。

それで、祇園に着いたら、祇園の狭い横町に入ったところの権兵衛というお店に入ったの。そのお店、にしんそばも美味しいんだけど。

その日は寒かったし「鴨なんば」を注文したの。

 

ほっかほかにあったまったわ―。

でね。食べてる途中で、向かいのおっさん。スーツびしっと来た、小太りのおっさんが「ねぇちゃん。かわいいなぁ。一緒に遊んでいかないか。」って声かけてきて。


 私、好奇心強かったし、ほら、ぽっちゃり美人としての魅力がどこまで通じるかって興味あるじゃない。それに「無料」っぽかったし。


ほら。なによりも「若かった」し!

「はい!はーーい!」

て感じ。


で、表に止めてあったおっさんの黒塗りのセルシオに乗って料亭に直行。

そしたら、芸子さんをたくさん呼んで、私とオッチャンとで芸者遊びしたの。

あれは、楽しかったわ。そう、それがGEISHA。

そのうち、私に舞子さんの衣装を着せようってことになって、芸子さんたちに着せてもらったの。

みんな、似合うって言ってくれたもん。
もう。あったりまえじゃない!


それで、袖とか振り回しながら、AKB58を熱唱!
アン・ルイスもばっちし決めて。


おっさんは、嬉しそうに、でも、ただじっと見ていた。


そして、お勘定。

玄関で芸子さん総出でお見送りしてもらって。

おっさんは「おかみ。つけといて。」と一言言って車に乗ったの。

そう。車の中は二人きり。
口説いてくるのかな。とも思ったんだけど。

でも、違ったわ。

ポツリポツリと苦しそうに話し始めた。

彼は昔、貧乏で、とても苦しい思いをしていて、ある女の人が助けてくれて。
でも、彼はそのときは苦しくて女の人の優しい気持ちにこたえられなかった。
それで、わがままばかり言って。

でも、その女の人も自分のことをわがままと思っていたらしくて。

気持ちの擦れ違いがあって。
本当は、一緒に住もうと言ってくれて。本当にうれしかったって。

でも「ありがとう」が言えなかった。

結局は彼女とは別れた。違う人生になったけれど、最後まで彼女に「ありがとう」という言葉をかけられなかったのが本当に心残りで。

 

私と会ったときに、ちょっと彼女のことを思い出して、それで、一緒に芸者遊びでもしようと思ってくれたらしいの。


うん。私そういうの聴くの得意。
その人の身になったつもりで考えながら聴くの。


そのときは、「あ、私もありがとう。って言えなかったこと沢山あるな。」って思っていたわ。それが心に「とげ」になってて。たくさん、たくさんとげが刺さっているの。

刺さったまま。


ほんとはね。もっと、いろんな人にたくさん「ありがとう。」って言いたかったな。

でも気持ちを言葉にするって難しいものよね。みんなそうじゃないの?

そんなことを話したら、オッチャンは少しだけ黙って「ありがとう。少し楽になった。」って言ってくれた。私も少し楽になったから、「ありがとう。」と言って、二人で笑ったわ。


あ、そう。こんな話は飽きた?

そうね。仕事の話じゃなかったわね。


え、いいの?じゃ、わたしコロンビアに入れるの?
嬉しい。

メキシコとコロンビアの国境って結構、入国管理が厳しいって聞いていたから。


ええ。じゃ、もう行くわ。

 

どこまでかって?
もちろん、世界の果て。


私は、そこで私が私自身であることを確かめる。

でも、それって結構難しいことなのよね。

うん。ありがとう。

聴いてくれてありがとう。

 

また会いましょ。

あんまり無理しないでね。


そうなの?ここから先はまだ戦闘が続いている場所もあるの?
わかった。気を付けるわ。

うん。わたしは大丈夫。

前に向かって歩いている。

 

ありがとう。
そうね。いつか、また。

 

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2013/04/15 21:55
saeckoさん。

 最初の頃は村上春樹っぽくないんですけどね。モデルが村上春樹のファンなもので、途中あたりからその色が濃くなってきました。
 僕自身は村上春樹はむかしは好きじゃなかったです。saekoさんと同じように彼の言葉の表面に描いているものから、なんか深いものが見えそうで見えないのが気になって仕方ありませんでした。見えないことになんかむかついてました。
 今は、なんとなくその深みを少し感じているだけでいいんだな。と思うようになりました。好きになって来てます。まだ新刊を追っかける余裕はありません。

ちなみにこの話の懐かしの第一話は以下です。

http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=691319&aid=45940364
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2013/04/15 21:35
村上春樹おすきですか?わたしも、ついつい読んでしまうのですが、何を伝えたいのか、どう感じたらいいのか、わからないまま、いつも、心の中にもやもやしたものが残ります。自分には、見えないのだなと、思います。彼の世界に少しでも、近づきたいと願っているのに。それとも、読み手にすべて委ねてしまっているのでしょうか?村上春樹さんの作品と同じような、読後感を持ちました。 追記:ああ、でも、新刊がでるたびに読んでしまうということは、やはり好きなのでしょうね?



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