Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 外伝 ~村雨蛍~

一番、古い記憶は何だろう?
思い出そうとしても、濃い霧がかかったように、小学校に上がる
以前の記憶は曖昧だ。

それでも、強く印象に残っている事が一つ。

照りつける日差し。どこまでも続く空に立ち上がる入道雲。急に
振り出した雨。
友人と見た蛍の光――。



 


その日は、朝から騒がしかった。

黒ずくめの大人達は、忙しそうに走り回っていて、誰も僕の相手
をしてくれない。

いつもは遊んでくれるお姉ちゃんも、怖い顔で地面を睨んでいる。

僕は僕で、目が覚めてから ずっと、眉間に皺を寄せて、怒ったフ
リをしていた。

昨日は僕の誕生日だったのに、パパもママ出掛けたっきり帰って
こない。ケーキを買ってくるって言ってたのに……嘘つき。

でも、このままパパとママが戻らなかったら、どうしよう。

いいや、そんなはずはない。きっと、道が混んでいるんだ。
それとも、僕がいい子にしているか、隠れて見ているのかな?

もしかして、僕が怒って(勿論、フリだけど)誰とも挨拶をしなかっ
たから、こんな悪い子なんていらないって思ったのかも。

怒ったフリをしてしまった事を後悔したけど、大人達は相変わらず
忙しそうだ。

僕は、こっそり その場を抜け出すと、いつも遊びに行く公園に一
人で向かった。

肌をジリジリと焦がす太陽が、僕の心もジリジリと焼いて、涙が溢
れそうになる。

三人で隠れん坊した時みたいに、僕は公園の土管トンネルに逃
げ込んだ。

パパとママなら、僕の居場所が分かる。
絶対に迎えに来てくれる……はず。

トンネルの天井に頭をぶつけないように、中腰で進むと、真ん中
で腰を下ろした。

風が吹き抜けるので、トンネルの中は外ほど暑くはない。
丁度いい温度に気が緩んで、僕は、そのまま目を閉じた。

……どれくらい経ったんだろう。
気付くと咽喉がカラカラに渇いていた。

どこかで水の音が……ああ、外か。
いつの間にか雨が降り出したようだ。

僕は、トンネルの出入り口に這っていき、そこから手を出してみた。
考えていたよりも、雨が冷たくて、僕は慌てて手を引っ込めた。

どうしよう。無人島に取り残された人の気分だ。

と、トンネルの反対側の出入り口から、誰かが入ってきた。
パパでもママでもない。僕と同じくらいの子だ。

女の子みたいな顔をしているけど、その子は「オレも雨宿りして
いい?」と僕に話しかけてきた。

「いいよ」と僕が返すと、その子は、ズカズカと中間地点まで入っ
て来た。

自分の陣地を盗られたみたいで、何だか気分が悪い。
僕は急いで真ん中へ戻り、男の子の隣に座った。

「蛍を追ってきたんだけど、見失っちゃなった。見なかった?」

「蛍? こんな場所にいるの?」

「いるよ。でも、普通の蛍じゃないんだ。この世にミレンがある魂
 だよ」

「ミレンって何?」

「オレも よく分かんない。でも、こうすれば よかったとか、あれは
 どうなったかなとか 後悔する事だって、ばあちゃんが言ってた」

「ふぅん」

と、か細い光が二つ、鼻先をかすめる。
僕達は、同時に「あ!」と声を上げた。

「触っちゃ駄目だ! 火傷するよ!」

纏わり着くように飛び回る 小さな光に触れようとしていた僕は、
手を引っ込めた。

「蛍の光って火傷するの?」

「だから、普通の蛍じゃないんだって」

「でも、綺麗だ」

「うん。……あのね。蛍、サトルを心配してるよ」

「蛍が? 僕を? あれ、何で名前が……」

僕の疑問が形になる前に「大丈夫だよ」と、男の子が言った。

「オレがサトルの友達になるから、心配しなくてもいいよ」

男の子が“僕に”ではなく“蛍に”友達宣言をすると、蛍は一度
だけ明るく輝き、空気に溶けた。

……夢を見ているみたいだった。

呆然としていると、外から声がした。
いつの間にか、外に出た男の子が、僕を呼んでいるようだ。

「オレ、もう行かなきゃ。またな、サトル」

「え、ちょっと……」

友達になると言ったくせに、名前を聞く間もなく、男の子は走り去っ
ていった。

でも、そいつとは直ぐに再会する事になる。
まさか、幼稚園も小学校も中学も高校も大学も、ずっ~と一緒に
いる事になるとは……。



 


「ロク、今年の夏休みのプラン、考えてるのか?」

「勿論! やっぱ、海は外せないよな。夏は、水着女子の観察か
 ら始まる! ってね」

「浴衣も捨てがたいよな」

「裾から見える足首? 足フェチだねぇ~」

「煩い! あ……蛍、見たいな。あの時みたいにさ」

悪友は それには答えず、困ったような顔で空を見上げた。

あの頃よりも、少しだけ低くなってしまったように感じる青空には、
雲一つなかった。
 
  ~END~

 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

こっそり、テーマ『夏休み』w

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2010/07/02 20:16
>紫草さん
 こちらこそ、ありがとうございます ^^
 活字が好きで好きで、でも、ネットのつながったPCの使用時間が限られているので、
 ネット小説は、ニコで読む事が多いです。
 紫草さんも外部に本店をお持ちなんですね。時間が取れる時に読みにいきたいです ^^

 わぉっ、重ね重ねありがとうございます ^^
 本作の本編の発表は、ニコが初でした。
 連載(と言ってもいいのかな?)形式で、一日一ブログ書いていった物をまとめた物が
 『彷徨う語り鬼たちの杜』に掲載されています ^^
 スイーツマンさんの『シナモン』シリーズは、私はニコで全部 読みましたw
 シリーズ物は、話が進めば進むほど、キャラクターに深みが出ていいですよねぇ~^^
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2010/07/02 09:21
 コメント、ありがとうございました。
 ニコのなかでの作品発表は、サークルに絡んだものが多くなりますが、基本は外部のホームページとブログですね。

『彷徨う語り鬼たちの杜』
 駆け足で覗いてきました。
 ここに本編があるんですね(^^)
 なかなか時間がとれなくて、長いお話を読むのが大変なんですが(スイーツマンさんのシナモンさんをシリーズ1から読んでるのですが、まだまだ先は長いです)、少しずつ読ませて戴きます。
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2010/07/01 22:12
>紫草さん
 ありがとうございます (◡‿◡✿)
 みなさんが課題をしているのを知って、こっそり挑戦しました ^^
 どこから読んでも話が分かるようにと言うのは、最大の課題です ^^;

 字数の制限から、収拾をつける為に しっとりした作品になってしまうのでしょうか。
 って、これは私の場合でしたぁ ^^;
 この長さで 2000字ギリギリです。
 『夏休み~子供の頃の夏の記憶と 現在の夏の風景~』みたいな ^^

 もしかして、紫草さんも書いておられるのでしょうか。
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2010/07/01 21:48
 スイーツマンさんが、こっそりお知らせしているのを見て、こっそり拝読しました。
 外伝というからには本編がある筈なのに、これだけ読んじゃった^^;

 面白かったです。
 タイトルからして、彼には力があるのですね。
 子供の頃の蛍と青空が綺麗。

『夏休み』は思っていたよりも落ち着いた感じの作品が多かったです。
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2010/06/29 21:09
>ゴキブンさん
 そうそう、その いっちゃんw
 イヌガミで、アッキー達とトリプルデートした いっちゃんです ^^

 いっちゃんは、はっきりと憶えていません。
 自分が“姉ちゃん”と呼んでいる人が、実は、従姉弟同士で、今の両親が
 伯母夫婦だと言う事も。。。
 まだ、幼稚園に上がる前のお話です。
 親と言うのは、子供がどこにいても見つけ出すものなのでしょうか。
 でも、秘密の隠れ場所は、欲しいですよねぇ~^^
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2010/06/29 17:43
おう、いっちゃんのお話ですか
でも、いっちゃんて誰でした
犬のおまわりさんのお話で誰かにおんぶされたorした

そんな小さい時に親と死に別れするなんて悲しいお話ですね
ゴキは親に怒られた時、お風呂にかくれて蓋をした湯船の中の
暗闇にいたことがあります
寝てしまって、発見されたてしまいました
親は場所を覚え、二度とかくれることの出来ない場所になってしまいました
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2010/06/28 19:57
>スイーツマンさん
 字数の関係で、細かい部分が書けませんでした ^^;
 もともと400字詰め10枚程度で書く事が多かったので ^^;;

 ロクといっちゃんの出会いのお話です。
 補足すると、いっちゃんは 幼い時に両親を喪い、従姉の家に引き取られています。
 両親を亡くした記憶は 彼の中にないのですが、お葬式の日に ロクに会った印象は
 残っていたようです ^^
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2010/06/27 20:49
こっそり、テーマ『夏休み』w

ありがとうございます。
運命の出会い(──恋?)ここに始まるですね。
(ひそひそ)




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