退魔除霊師 外伝 ~日輪草~
- カテゴリ:自作小説
- 2010/07/27 12:18:57
「ケンにぃたん、ライオンしゃん」
算数のドリルを解いていたら、6つ年下の弟、六郎太《ロクロウタ》
が庭を指差した。
「ロク、今、何て?」
「ライオンしゃん、おしょとにおいでって」
当たり前だが、我が家の庭でライオンを飼っている訳ではない。
多分、絵本に飽きたのだろう。
「いいかい、ロク。ライオンさんがいるのは動物園だよ」
「おしょとにいるぅ~」
ライオン……に似た野良猫か何かが庭に入り込んだのかな。
僕は、六郎太の頭を撫でながら「小さなライオンさん?」と、話を
合わせた。
「ん~とね、おっきい!」
「どれくらい?」
「コウにぃたんよりも、おっきい!」
六郎太は、両手を上げて飛び跳ねた。
康二郎《コウジロウ》は、僕の双子の弟で、僕よりも少し背が高い。
「もしかして……妖かし?」
僕は、目を凝らしながら庭を見回した。
妖かしは、普通の人には見えなくて、声も聞こえない 違う世界の
住人だ。
昼間は普通に会社に通う 父さんは、実は、人に悪さをする妖か
しの退治屋もしていて、六郎太が生まれるまでは、母さんも一緒
に その仕事をしていたから、弟達にも少しだけ力がある。
康二郎は悪い気配を感じ取り、正三郎《ショウザブロウ》と義四郎《ヨシロウ》
は二人で一緒にいる時だけ声を聞き、末五郎《マツゴロウ》は薄っすら
と姿が見える。
なぜか、僕には何の力もないけれど……。
僕達六人兄弟の中で、この末っ子だけが、見えないモノを はっき
り見る目を持っている。
六郎太は、僕の質問に考え込んだ。
ちゃんと見えるので、妖かしと本物の区別がつかないのだ。
庭に動物の姿はないし、どうしたものか……。
「ケン兄ぃ、ロク、何してんの?」
今年 小学校に上がったばかりの義四郎が、夏休みの宿題を抱
えてやってきた。
「ヨシロー、変な声とか聞こえる?」
「え、聞こえないけど」
「ロクが、庭にライオンがいるって」
「ライオン? ロクぅ~、庭には二羽、ニワトリがいるんだぞ」
「ニワトリしゃん?」
「そうだよ。庭にいるのはニワトリだ」
「ロクに嘘を教えるなよ。ショウは?」
「ショウは、コウ兄ぃと出掛けたっきり」
「自由研究で使うペットボトル拾い?」
「うん、ケン兄ぃの分も拾ってくるってさ」
「僕は一個でいいんだけど。そっか、困ったな。マツは昼寝中だ
し……」
義四郎も、正三郎がいないと何も出来ないのだ。
まあ、家から出なければ大丈夫、かな?
僕は、ロクに「お庭には、ライオンさんもニワトリさんもいないよ」と
優しく諭した。
「母さんが買い物から帰ってくる前に、お部屋をお片付けしてお
こうね」
「う~、ライオンしゃん」
六郎太は、悲しそうに 何もいない庭を見た後、読んでいた絵本
を本棚にしまった。
「よく出来たね。えらい、えらい」
と、頭を撫でてやると、六郎太は 直ぐに嬉しそうに笑った。
「ねえ、妖かしは? どこにいるって?」
義四郎は、大きなサンダルを引っ掛けると、縁側から庭に飛び
出した。
「バカ、本当にいたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。お~い、らいお~ん!」
そこに、康二郎と正三郎が戻ってきた。
「ただいまぁ~。ヨシロー、庭で何してんのぉ?」
「お帰り、コウ兄ぃ、ショウも。ロクが、庭にライオンがいるってさ」
「ライオン? 庭にぃ?」
正三郎が「あ、もしかして」と、部屋から一枚の絵を持ってきた。
遠足で動物園に行った時に、僕が描いた絵だ。
「ショウ、それがどうしたんだ?」
「ロク、ライオンさんは?」
「これぇ~」
六郎太が、小さな手で絵の中のライオンを指差した。
「いや、これはライオンじゃないだろぉ~」
「ケン兄ぃ、絵、下手すぎだし」
康二郎と義四郎が、ゲラゲラ笑いながら絵をけなす。
庭に下りた正三郎が「ロク、これは?」と 黄色い大輪の花を示す
と、六郎太はピョンピョン飛び跳ねながら答えた。
「ライオンしゃ~ん」
「ロク、今年は植えないのか、ライオン」
「義兄ちゃん、ライオンは動物園だろう?」
早めの夏休みを取って実家に帰省すると、義四郎と六郎太が縁
側に座って涼んでいた。
「義四郎、お前と言うヤツは……」
「あ、健兄ちゃん、お帰り」
15年以上前の事だ。
六郎太は全く覚えていないのか、屈託なく笑っている。
「ただいま、ロク。元気にしてたか?」
「うん」
「そうだ。健兄ぃに 土産があるんだった」
義四郎が、意地悪い笑みを浮かべながら「はい、これ」と、ヒマワ
リの種を出した。
調子に乗りすぎっ!
義四郎の頭に空手チョップを打ち込んだのは 言うまでもない。
~END~
・・・☆・・・☆・・・☆・・・
こっそりw
副題は『夏のライオン』かな^^
字数ギリギリ^^;
本当にこっそりで ^^;
本編の昔の話は、漢字三文字の副題でと言う形が成立しそうです ^^
佐藤さんは、ネコさんでしたねぇ~^^
まさに、小さな らいおんしゃ~んw
おしょとのライオン~♪
連れてきましたのは佐藤氏ですけれどね