Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 外伝 ~日輪草~

「ケンにぃたん、ライオンしゃん」

算数のドリルを解いていたら、6つ年下の弟、六郎太《ロクロウタ》
が庭を指差した。

「ロク、今、何て?」

「ライオンしゃん、おしょとにおいでって」

当たり前だが、我が家の庭でライオンを飼っている訳ではない。
多分、絵本に飽きたのだろう。

「いいかい、ロク。ライオンさんがいるのは動物園だよ」

「おしょとにいるぅ~」

ライオン……に似た野良猫か何かが庭に入り込んだのかな。
僕は、六郎太の頭を撫でながら「小さなライオンさん?」と、話を
合わせた。

「ん~とね、おっきい!」

「どれくらい?」

「コウにぃたんよりも、おっきい!」

六郎太は、両手を上げて飛び跳ねた。

康二郎《コウジロウ》は、僕の双子の弟で、僕よりも少し背が高い。

「もしかして……妖かし?」

僕は、目を凝らしながら庭を見回した。

妖かしは、普通の人には見えなくて、声も聞こえない 違う世界の
住人だ。

昼間は普通に会社に通う 父さんは、実は、人に悪さをする妖か
しの退治屋もしていて、六郎太が生まれるまでは、母さんも一緒
に その仕事をしていたから、弟達にも少しだけ力がある。

康二郎は悪い気配を感じ取り、正三郎《ショウザブロウ》と義四郎《ヨシロウ》
は二人で一緒にいる時だけ声を聞き、末五郎《マツゴロウ》は薄っすら
と姿が見える。

なぜか、僕には何の力もないけれど……。

僕達六人兄弟の中で、この末っ子だけが、見えないモノを はっき
り見る目を持っている。

六郎太は、僕の質問に考え込んだ。
ちゃんと見えるので、妖かしと本物の区別がつかないのだ。

庭に動物の姿はないし、どうしたものか……。

「ケン兄ぃ、ロク、何してんの?」

今年 小学校に上がったばかりの義四郎が、夏休みの宿題を抱
えてやってきた。

「ヨシロー、変な声とか聞こえる?」

「え、聞こえないけど」

「ロクが、庭にライオンがいるって」

「ライオン? ロクぅ~、庭には二羽、ニワトリがいるんだぞ」

「ニワトリしゃん?」

「そうだよ。庭にいるのはニワトリだ」

「ロクに嘘を教えるなよ。ショウは?」

「ショウは、コウ兄ぃと出掛けたっきり」

「自由研究で使うペットボトル拾い?」

「うん、ケン兄ぃの分も拾ってくるってさ」

「僕は一個でいいんだけど。そっか、困ったな。マツは昼寝中だ
 し……」

義四郎も、正三郎がいないと何も出来ないのだ。

まあ、家から出なければ大丈夫、かな?
僕は、ロクに「お庭には、ライオンさんもニワトリさんもいないよ」と
優しく諭した。

「母さんが買い物から帰ってくる前に、お部屋をお片付けしてお
 こうね」

「う~、ライオンしゃん」

六郎太は、悲しそうに 何もいない庭を見た後、読んでいた絵本
を本棚にしまった。

「よく出来たね。えらい、えらい」

と、頭を撫でてやると、六郎太は 直ぐに嬉しそうに笑った。

「ねえ、妖かしは? どこにいるって?」

義四郎は、大きなサンダルを引っ掛けると、縁側から庭に飛び
出した。

「バカ、本当にいたらどうするんだよ」

「大丈夫だよ。お~い、らいお~ん!」

そこに、康二郎と正三郎が戻ってきた。

「ただいまぁ~。ヨシロー、庭で何してんのぉ?」

「お帰り、コウ兄ぃ、ショウも。ロクが、庭にライオンがいるってさ」

「ライオン? 庭にぃ?」

正三郎が「あ、もしかして」と、部屋から一枚の絵を持ってきた。
遠足で動物園に行った時に、僕が描いた絵だ。

「ショウ、それがどうしたんだ?」

「ロク、ライオンさんは?」

「これぇ~」

六郎太が、小さな手で絵の中のライオンを指差した。

「いや、これはライオンじゃないだろぉ~」

「ケン兄ぃ、絵、下手すぎだし」

康二郎と義四郎が、ゲラゲラ笑いながら絵をけなす。

庭に下りた正三郎が「ロク、これは?」と 黄色い大輪の花を示す
と、六郎太はピョンピョン飛び跳ねながら答えた。

「ライオンしゃ~ん」




 

「ロク、今年は植えないのか、ライオン」

「義兄ちゃん、ライオンは動物園だろう?」

早めの夏休みを取って実家に帰省すると、義四郎と六郎太が縁
側に座って涼んでいた。

「義四郎、お前と言うヤツは……」

「あ、健兄ちゃん、お帰り」

15年以上前の事だ。
六郎太は全く覚えていないのか、屈託なく笑っている。

「ただいま、ロク。元気にしてたか?」

「うん」

「そうだ。健兄ぃに 土産があるんだった」

義四郎が、意地悪い笑みを浮かべながら「はい、これ」と、ヒマワ
リの種を出した。

調子に乗りすぎっ!
義四郎の頭に空手チョップを打ち込んだのは 言うまでもない。
 
  ~END~

 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・

こっそりw

副題は『夏のライオン』かな^^

字数ギリギリ^^;

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2010/07/28 22:51
>スイーツマンさん
 本当にこっそりで ^^;
 本編の昔の話は、漢字三文字の副題でと言う形が成立しそうです ^^

 佐藤さんは、ネコさんでしたねぇ~^^
 まさに、小さな らいおんしゃ~んw
アバター
2010/07/28 22:19
ご協力ありがとうございます。楽しいお話を堪能させていただきました。
おしょとのライオン~♪
連れてきましたのは佐藤氏ですけれどね




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