Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 外伝 ~一番星~

「ショーにぃたぁん」

一番下の弟、六郎太《ロクロウタ》が、ボクを呼びながら、駆け寄っ
てきた。

今年三つになる六郎太は、この家以外の世界をあまり知らない。

なぜなら、六郎太は、特別な子――犬神憑きだから。

大昔から、密かに 妖かし退治をしてきた父の家系の男子には、
犬神憑きと呼ばれる子供が生まれる事がある。

犬神は、見えないモノをみせてくれたり、超人的な力を与えてく
れたりと、退治屋をするならいいけれど、普通に生活するなら、
これが結構 厄介なのだ。

例えば、妖かしの力を上手く抑える事が出来なければ、突然、
道端で犬に変身したりしてしまう。

おまけに、その力を利用しようとする悪いモノもいて、六郎太は、
家という結界から出ると危険なのだとか。

好奇心旺盛な六郎太には、この家は狭すぎて、可哀想な気もす
るが仕方ない。

「どうしたの、ロク」

「マツにぃたん、とりしゃん、しゃわらしぇてくれないの」

鳥?
末五郎《マツゴロウ》のヤツ、また何か拾ってきたのか。

ボクにとっては二つ下の弟で、六郎太にとっては二つ上の兄で
ある末五郎は、よく生き物を拾ってくる。

これが犬や猫なら まだ可愛いが、時折、異世界の住人を連れて
きてしまうのだ。

つい最近も、地霊《チレイ》 と呼ばれる 土地に憑く妖かしを 家に
招き入れ、庭が占拠されると言う事件を起こしたばかりだ。

「マツはどこ?」

「えっとね、こっちぃ」

六郎太に手を引かれ、着いた先は縁の下だった。

懐中電灯の光を目指して這って進むと、末五郎がゴソゴソと何か
している。

「マツ、こんな所で何してるの?」

「ショウ兄ちゃん?!」

末五郎の前の段ボール箱にはタオルが敷かれ、そこに……あ
れ、何もいない?

「マツ、鳥は?」

「え。ああ、やっぱり」

「やっぱり?」

「妖かし、かも」

「えっ?!」

ボクには、妖かしの姿は見えない。
双子の弟、義四郎《ヨシロウ》や、上の兄達もそうだ。
でも、六郎太や末五郎には、ちゃんと見えているらしい。

「とりしゃ~ん」

「ロクは近づいちゃダメぇ!!」

末五郎が強い口調で言ったので、六郎太は驚いてボクの後ろ
に隠れた。

昔、父と一緒に退治屋をしていた母は、六郎太が妖かしと接触
するのを極端に嫌う。

末五郎も、地霊の占拠事件で、それを痛感したのだろう。

「ロク。マツは、意地悪してるんじゃないんだよ。あれは妖かしだ。
 ロクは触っちゃダメなんだよ」

六郎太が「どーして?」と不思議そうにボクを見上げる。

「ロクに意地悪するかもしれないからだよ」

「いじわる? でも、にぃたん……」

六郎太が、箱の中に視線を落とす。
つられて目を向けたが、やはりボクには何も見えない。

「とりしゃん、いたい、いたいって」

「怪我してるみたい。苦しそうなんだよ」

言葉足らずな六郎太を、すかさず末五郎が補足する。

怪我?
参ったな。捨てて来いとは言えなくなってしまったぞ。

でも、弟達はボクが守らないと!

どうしようか悩んでいると、六郎太と末五郎が「あ」と同時に声を
上げた。

その時、確かにボクにも見えた。
白く半透明の小鳥が光の粒になって、空気に溶けるのが。

「マツにぃたん、とりしゃんは?」

「消えちゃった……」

それは、おそらく、妖かしの最期だったのだろう。

目に涙を浮かべた幼い弟達は、消えた妖かしを探してキョロキョ
ロしている。

「二人とも、ここを出よう」

「とりしゃんは?」

「いいから、おいで。ほら、マツも」

二人を強引に縁の下から連れ出すと、僕は空を指差した。

「見てごらん。妖かしは星になったんだよ」

「おほししゃま?」

「本当?」

「本当だよ。体が光っていただろう?」

小さな弟達は、瞬きするのも忘れて、仄かな光が灯り始めた夕
焼け空を いつまでも見上げていた。




 

「そんな所で何してるの、正兄ちゃん」

「ロクか。星、見てたんだ」

「えぇ~? ここ、あんまり見えないじゃん」

「まあ、そうなんだけどな。そう言えば、末は?」

「今年の夏は帰れないから、みんなによろしくって」

「あいつ、仕事が忙しいのか?」

「違う、違う。彼女が出来たらしいよ」

六郎太は、携帯電話のディスプレイを こちらに向ける。
写っていたのは、末五郎と黒い猫だった。

「この子、猫又《ネコマタ》だと思う」

「猫又って……妖かし?!」

「うん。大丈夫だと思うけど、オレ、もう夏休みだから、末兄ちゃん
 の様子 見に行ってくるよ」

「気をつけろよ」

あれから十五年。
すっかり頼もしくなった末っ子が「任せとけって」と笑った。
 
~END~


 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・

こっそり『星』w

副題は『妖かし星』かな。

また字数ギリギリ^^;

アバター
2010/07/28 22:56
>スイーツマンさん
 星は たくさんあるので、創作でも いろいろな話が出来そうですね ^^
 妖かしも、いろいろいますので、今回はそれほど悪いモノではなかったのかなぁと ^^;

 火星の赤は、血や炎を連想します。だから、軍神マルスの星なのでしょうね。
 泥棒は、侵略者が略奪すると言うイメージなのでしょうか ^^;
 どちらにしても、怖い星ですぅ。
アバター
2010/07/28 22:28
火星はいつも悪者。妖かし星といえば火星でしょうか。
  凶鳥が天帝と戦う物語。凶鳥の巣は火星。火星の運河が鳥の足というわけです。
  ほかにも軍神マルスの星は火星でしたね。マルスは泥棒の神でもあります。




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