「じゃあねぇ、セイジ先輩に伝えて。お誕生日、祝えなくてごめんね。
　先輩と出会えて幸せだったよって。……それとね、時々でいいか
　ら、私の事、思い出してって」

「そんなの自分で伝えなきゃ駄目だ！」

「無理言わないでよ。先輩、鈍いんだから」

「でもさ！」

泣き笑いしながら、カイちゃんがオレの手を握った。

「お節介！　でも……」

　“あ り が と う”

光がモロに目に飛び込んでくる。後ろに弾かれるような衝撃に、
オレは目を回した。
激しい光と言うのは凶器だ。眼球から直接叩き込まれた力で、頭
の中が真っ白になる。

その後、襲ってきたのは、前にも感じた、体が引き伸ばされるよう
な感覚。これは、現実と夢を渡った時の……。




次第に頭がガンガンしてきた。
無事（？）に、現実に戻ってきたのだろう。

「ロク……ロク」

あ、瑞希の声が聞こえる。
流石に瑞希は、大丈夫だったみたいだ。

「み、みず……きぃ～」

「分かりましたわ。お水ですわね」

は？
甲高い声と共に、ドバァーっと豪雨が振ってきた。鼻から大量の
水が入り込み、オレはちょっとだけ死を意識した。

「六郎太兄さま？　もっとお水がご入用ですか？」

「アァキィラァ～、よぉく見ろ。一瞬、三途の河で溺れかけただろう
　が！　お前はオレを殺す気かぁー！！」

「まあ、お元気になられましたね」

ミニチュア版の瑞希……を、もっと小生意気な小悪魔風にした美
少女が、胸の前でポンと手を打った。
まだ、小学生なので、いたいけな感じにも見えてしまうのが怖い。

「六郎太兄さまが、ちっとも目をお覚ましにならないから、わたくし、
　心配致しましたわ」

屈託のない笑顔に、オレは言葉を詰まらせた。オレがこの世で逆
らえない女の子の一人---瑞希の妹---晶だ。

「ロク、大丈夫か？」

申し訳なさそうな瑞希に「これが大丈夫そうに見える？」と聞くと、
「見えない」と即答された。

「それもこれも、全て六郎太兄さまの日頃の行いの悪さから生じた
　因縁。お諦めくださいな」

「アッキー。可愛くない事、言うなよ」

「六郎太兄さまに“可愛い”と思われなくても結構でございます」

「ほぉ～、広道さんに言いつけるぞ？」

牽制のつもりで、晶の---かなり年の離れた---婚約者、郷 広道
の名を出すと、晶の顔色が変わった。

「！ そんな事をしたら “薄暗い井戸の底で一生、待て” の刑です
　わよ？」

牽制失敗。
晶の後ろにどす黒いオーラが見える。こいつならマジでやりかね
ない。想像して鳥肌が立った。

「冗談だよ。オレが可愛いアッキーと弘道さんの仲を邪魔する訳
　ないじゃないか♪」

「うふっ、そうですわよね、六郎太兄さま♪」

可哀想な広道さん……そう言えば、あの人もオレ達と同じ学校の
はずなのに見かけないな。まさか、高校の同級生とお泊り会合？

「ロク、お風呂を沸かしてある。早く温まって来い」

「ほぉ～い」

正直、疲れてそれどころではないが。

「あ、そう言えば、ライムちゃんは？」

「來夢さまなら、寝室でお休みです」

いや、あいつは、ずっと寝てたから！
そうでなく、カイちゃんの世界から解放されたかって事を聞きたかっ
たんだけど……わざとか？　わざとなのか？

子供相手に、大人気なく疑心暗鬼になっているオレに、瑞希は苦
笑した。

「亘理なら、一度 目を覚まして、今は本当に就寝しているよ」

「ひとまず安心か。でも、あの夢のどこに、ライムちゃんがいたん
　だろう？」

「ロクがちゃんと取ってきただろう」

「え、オレが取ってきたのは、制服の……リボン？！」

來夢……どんだけイロイロなモノになれるんだよ。
人どころか、生物ですらないし。

げんなりしていると、晶が、オレを覗き込んできた。

「アッキー？　どした？？」

「六郎太兄さまの手から妙な力を感じます。何を持っていらっしゃ
　るのですか？」

ずっと握っていた手をゆっくりと開く。
オレの手の中にあったのは、小さな四葉のクローバーだった。

　“あ り が と う”

カイちゃんの声が聞こえたような気がして、目頭が熱くなった。

　・・・☆・・・☆・・・☆・・・

ずっと名前だけ出ていた、アキラ登場です。

現在小学５年生。力だけなら、ミズキを上回るスーパー小学生ｗ

大学三年の婚約者がいますｗｗ

ロクは、彼女にも頭が上がりません ＾＾；