＜遠島 愛美＞
　
「ご免なさい。うるさくして」

私は、湯船の段差に腰掛けて半身浴する黒髪の美人に頭を
下げた。

「いいのよ。気にしないで」

年上なのに、クスクスと笑う仕草が可愛らしい。

元はと言えば、私が この人を幽霊と勘違いして、悲鳴を上げ
たのが悪いのだ。

宇佐くんにも心配をかけてしまった。……反省。

「でも、びっくりです。ユウ子さんが急に現れたように見えたか
　ら」

「そう？　湯気で見えなかったのかしらね」

「今日の泊り客は、私達だけだって思ってたし」

「ここに来るのは常連ばかりよ。みんな、夜遅くに来るから、
　今日は まだ着いてないのね」

「ユウ子さんも常連さん？」

「ええ、そうよ」

ユウ子さんの青白かった肌が、ほんのりとピンク色に変わって
いた。

……ユウ子さん、色っぽいな。
ここって“美人の湯”なのかも。

急いで体を洗うと、生まれたままの姿で広い湯船に肩まで浸
かった。

手足がピリピリと痺れたような感覚。
少しだけお湯が熱いようだ。

でも、すぐに慣れてくる。

「極楽、極楽」と言う言葉が、喉の奥まで出かかった。
ちょっと、おやじくさいな、私。

「さっきの二人はお友達？」

「ええ。温泉研究会の……まあ、仲間になるのかなぁ」

「温泉、研究してるの？　楽しそうね。もしかして、どちらかが
　彼氏、とか」

「とっ、とんでもない。宇佐くんが彼氏なんて。私達、まだ、そ
　んな関係じゃありません」

「うふふ。宇佐くんって言うんだ、彼」

ユウ子さんが楽しそうに笑う。

うう、いけない。
のぼせてきたのかな。

私もユウ子さんに倣って半身浴に切り替える。

「若いっていいわね」

ユウ子さんが遠い目をして、寂しげな笑みを浮かべた。

「何、言ってるんですか。ユウ子さんだって若いですよ」

「わたしは、もう……」

ユウ子さんは、そこで言葉を切った。

物憂げな表情がまた魅力的だ。
私には、まだまだ出来そうもない。

「ねえ、愛美ちゃん」

うって変わって晴れやかな笑顔のユウ子さんは、悪戯っ子の
ように声を弾ませていた。

「実はね、この近くに穴場の露天風呂があるの。混浴だけど、
　覗きに来ないように常連連中には脅しかけておくから、後で
　一緒に行かない？」

　


＜槙村 虎太郎＞
　
「やっと目が覚めたか」

聞き覚えのある無愛想な声がした。

見慣れない天井。青い畳。
眉間に皺を寄せた男が、背筋をピンと伸ばして緑茶をすすっ
ていた。

ここ、どこだっけ？

息苦しいと思ったら、鼻にティッシュが詰まっていた。

ああ、そうだ。
風呂場で遠島ちゃんに洗面器をぶつけられて……あれ？

「かいひょぉ！」

「他のやつらはどうした？」

一瞬、西野宮会長の言葉が理解できなくなった。

他のやつら？

部屋には、俺と会長しかいない。

そう言えば、雅宏はどこだ？
俺に浴衣を着せ、ここに運んだのは雅宏だと思うが……。

「野長瀬と朝倉は いつもの事だとしても、宇佐と遠島まで い
　ないのは、どうしてだ？」

「ふへ？」

「部屋にも風呂にもいないようだが？」

「！！」

鼻のティッシュが勢いよく、会長の湯呑みの中に飛んだ。

　・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

西野宮会長は、見えないモノが見える人です ＾＾

でも、自分の親族の姿は見えないみたいですけど ＾＾；





今日は、時間がたっぷり……でもないですが、予告通り、じっくり

ニコブログを読みに行きます ＾＾

楽しみです。嬉しいです。とか、言っている間にも時間は過ぎて

いくので、これから出発です （●＾ ＾●）ゞ