Nicotto Town


藍姫の本棚♪


夢日記57 『NAMIDA』 (後)

その頃、私を家に送ってくれた自称・少年探偵団は、事件の
真相を追って、町外れの工事現場に来ていた。

なぜか打ち捨てられた そのビルの地下に行方不明になった
人達が、傀儡人形のように座り込んでいた。
声をかけても、誰も反応しない。

その内にユキの様子がおかしくなってきた。
他の行方不明者のように空ろになっていったのだ。

みんなは必死に声をかけたけれど、ユキは力なく座り込んで
しまった。

そこへ男が現れた。

私と同じ飛行能力を持つ男。人間でありながら、永遠を手に
入れる為に、人である事を捨てた男。

それが、この行方不明事件の犯人だった。

あの黒い猫に傷つけられ、毒を注入された者を自分の操り人
形に変えて、この場所に隠していたのだ。

その男は、人形になっていない私の友達を「殺せ」と命じた。
ゆっくりと、傀儡人形のようになった人達が動き出す。

出来の悪い操り人形にような動きで、彼らは、子供達に襲い
掛かった。

普通にしていれば、逃げ切れたかもしれない。

が、少女が転んで他の二人が立たせようとしている内に追つ
かれてしまった。

その時、ユキが みんなを助けた。

まだ、それほど呪縛にかかっていないユキは、みんなを逃が
す為に一人残ると言ったのだ。
呪縛にかかっている者は動きが鈍いから大丈夫だ、と。

言葉通り、ユキは、なんとか持ちこたえていた。

でも、傀儡人形のようになった人達は、倒れても何度も立ち
上がり襲い掛かってきた。
痛みも、疲れも、悲しみも、何も感じていないように……。

そんな場面へ、私がたどり着いた。
 
 
 

男は、高らかに笑うと、私に「あいつらを殺せ」と命じた。
私の力を知っている子供達が青ざめる。

私は、ユキの所まで行くと、素手でユキの武器(と言っても、
それは ただの棒切れだったが)を跳ね飛ばした。

ユキの手には、私を黒猫から助けようとした際にできた傷が
残っていた。

ユキは……もう限界だった。

いつもは穏やかに私に微笑む目が、既に傀儡人形達と同じ
ように虚ろだった。

ユキを支えていたのは、友人を想う心と気力だけだったのだ。

私は、ユキの胸倉をつかむと、雨が溜まってできた池のような
大きな水溜りへ放り込んだ。

子供達の悲痛な叫び声が響いた。

男は、狂ったように笑うと、私を近くに呼び寄せて「お前がい
れば他のクズどもはいらない」と傀儡人形達の呪縛を解いた。

哀れな“人形”“人間”に戻り、直ぐに二度と物言わぬ“物
体”
になった。

男の呪縛にかかった時点で、或いは、ユキに何度も殴られ
た時点で、物”だった者達は、死んでいたのかもしれない。
彼らは、黒猫のように煙を上げ消滅した。

男が歓喜の雄たけびを上げ、子供達が絶望で立ち尽くす。

「私の可愛い人形よ。さあ、殺せ。手始めは あのガキどもだ。
 世界を我が手に!」

子供達が見ている中、私は、手を男の胸につきたてた。

「?! ……な……ぜだ?」

一瞬、信じられないと言う顔をして、男は絶命した。

私は、始めから呪縛に捕らわれてはいなかったのだ。

私は自分の意志を持った人形。
僅かでも人の部分を残した男とは違う、人間では無い物。

私は、怯える子供達に「もう、大丈夫」と声をかけた。

「ユキは絶対に私が助けるから」

子供達に外に出るように促す。
まずは、黒猫によって体内に注入された ユキの毒を消し去ら
なくては……。

まだ間に合うだろうか?

ユキは、水の中に浮かんでいた。
私は水に飛び込むと、ユキをつかまえた。

体は冷たいが、息はしているようだ。

私は両親が作ってくれた薬を口に含み、気を失っているユキ
に口移しで飲ませた。

目を開けたユキが、私の首元で輝くクロスを――或いは傷口
を――見つめた。

「ユキ? 私が分かる?」

「スズ、僕は……みんなを助ける為に人を殺してしまった。彼
 らも被害者だったのに」

「私もよ。あの男を……悪いヤツだったかもしれないけど、人
 を殺してしまったわ」

私が、真っ直ぐにユキを見て そう言うと、ユキは一度 水の中
に沈んだ。

ユキは、泣いているのを 私に悟られまいとしたようだが、涙は
直ぐには消えなかった。手だって、震えている。

ユキは私に背を向けた。
私も水に潜ると、ユキを優しく背中から抱きしめた。

「それでも、貴方が生きていてくれてよかった」

私の方を振り返ったユキは「ありがとう、スズ」と、小さな声で
言い、今度は私を抱きしめてくれた。
 
 ~ END ~
 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・
 
2001/2/25 に見た夢です。





先々週から『退魔除霊師』 を書いていました。

視点に選んだオケが住む島で、春に起こった災害から書き始めたの

ですが、やっとロクと島を出た所で、あの大地震が!

全部、書き直しです。

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2011/03/28 22:16
>スイーツマンさん
 ユキが ギュッとしてくれた時点で、夢は薄れつつあったので、
 夢主としては、あの後 どうなったのか気になる所です ^^;

 無から生み出された“私”と、有を作り変えた男。
 どちらも、自然には ありえない存在です。
 本当は、人間が踏み込んではいけない領域なのかもしれませんねぇ。
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2011/03/28 22:12
>カトリーヌさん
 確かに、スズは純粋かもしれませんね。
 両親と呼ぶ二人とユキは、特に大切な人間のようです。
 融通が効かない所もあるのですが、案外 ファジーに行動 出来ます。
 でも、特別だと認識している人以外には、向けられない純粋さで、
 黒幕の男のように敵だとみなすと、対応は非情です ^^;
 被害者である行方不明者にすら、情を持たないかもしれません。
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2011/03/28 00:01
ちゃんと物語として収束した夢ですね
少女の鉱物的なピュアなところは
有機的な悪人の甘さを砕きましたね
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2011/03/27 23:30
この人形こと、アンドロイドのスズ姐さんは、
人間以上に人間を愛せる心(というかプログラム?)を持っているのね。
ユキたちを助けるために、
わざと悪玉の言う事を聞くふりをするなんて、
タダのの機械じゃありません・・。





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