Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 ~シニガミノカマ~ (26)

『オケ、一つ聞いてもいいですか?』

遠慮がちな木母の問いかけに、私は足を止めました。
女性を蔑ろに出来ないのは、私の本分なのです。

『どうかしましたか?』

『みなが働いている間、貴方は、どうするのですか?』

『私は、ロクと行動を供にします』

『六郎太さまと ご一緒されるのですか?』

月明かりで照らされた彼女の顔には“私も一緒に行きたい”
と書いてあるようです。

なるほど、木母にとっては、それが一番 聞きたかった事なの
でしょう。

種族は違いますが、誰かを想う気持ちは、猫又も木母も変わ
らないのです。

『この町には不慣れですし、私に出来る事はありませんから、
 ロクに憑いて社会勉強をしようと思います』

『ですが、オケ。貴方は、エコと言う娘を捜しに来たのでしょう?』

『ええ、でも、本当の所は少し違います。私も、エコノリアナン
 同様、広い世界を見たかったのですよ。月は、どこも変わり
 ませんが……』

私は月の明るい空を見上げ、遠い故郷を思い出していました。

猫が大事にされ、生活に困る事のない平和な島。
猫又の数が多いのも、長生きする猫が多いからです。

島で生まれた私は、モノ心ついた時から、島の外の世界を見
てみたいと、ずっと夢見てきました。

ですが、それは仲間達には理解されない夢だったのです。

いつしか、島では二番目の古株になり、責任や自由にならな
い事に追われて、私は夢を忘れていました。

ですから、今朝まで、自分が こんな遠い地にいる事など、考
えてもみなかったのです。
おそらくは、エコノリアナンも……。

『八重さんを』

『え』

『八重さんを襲った猫又、名前を“タマノオ”と言うらしいの
 ですが、私には、その娘がエコノリアナンのような気がして
 ならないのです』

『それは……』

『ロクには否定されてしまいましたが』

『当たり前です。第一、名が違うではないですか』

――名前。
そうなのです。タマノオは、猫又の名前ではありません。
おそらく偽名でしょう。

名前の持つ重要度が全く違う種族には上手く説明できない
のですが、その名前は心に響かないのです。

『私達は、生まれた時に名前を与えられます。その名前は
 絶対であり、誇りなのです。ですから、悪さをする時に そ
 れは名乗りませんよ』

おどけたように言いましたが、私の心は深く沈んでいました。

もしも、八重を あのような酷い目にあわせたのが、エコノリア
ナンだったら、私は、この手で彼女を粛清しなくてはなりませ
ん。

彼女一人の為に、猫又族全体が退魔除霊の対象になるよう
な事は、あってはならないのです。

仲間達には“必ず連れて帰る”と約束したのですが……。

ふわりと、季節外れの梅の香がしました。
どこからだろうと顔を上げると、木母が傍らに座り、私の頭を
そっと撫でていました。

慰めてくれているのでしょうか。

『有難うございます』

木母は何も言わず静かに笑っていましたが、庭の梅枝が風も
ないのに揺れています。

木母の見た目に合わぬ聖母の微笑みに、私は報いる術を思
いつきました。

『そうそう、ロクに夜這いをかけるなら、私は眠っておりますか
 ら、ご自由にどうぞ』

『まあ! それはご親切に』

『お、お主ら……』

縁側に座って、足をブラブラさせていた守宮が、引きつった
顔で『巫女姫に喧嘩を売る気か……』と呟きました。

『人間は狭量です。ロクが別の女性に目を向けている間なら、
 私も瑞希さんの心に入り込めるかもしれません』

『あら、オケは、瑞希殿を好いているのですか?』

『世の全ての女性は、私の心の恋人です』

守宮は頭を抱えながら『猫又はこれだから……』と 立ち上が
りました。

『止めておけ。あの二人は……まあ、あれだ』

『あれ、とは?』

『何者も切れぬ絆で結ばれていると言うやつよ』

『それは聞き捨てなりませんね。瑞希さんは女神。人の物に
 なってはいけません』

『犬神は只の人では……いや、人が駄目ならば、猫又も駄目
 では?』

『猫又はいいのです!』

『わらわは気にしません。六郎太さまに何人 妻がいようと、本
 妻は わらわですから』

『小梅まで、そのような……』

守宮は『何かするなら外でして欲しいものだな』と わざとらし
く溜息をつきました。

『外で……野外プレイですか』

『言葉の意味はよく分からぬが、この御山にいる間は不埒な
 事はするな。慣れた住処を失いたくはないからな』

守宮が本気で言っているようなので、忠告に従う事を約束し
て、私は部屋に下がりました。

問題はありません。
どうせ、明日からエコノリアナン探しで町に出るのですから……。

 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

『アヤカシノヤマ』の章が終了です ^^





おっ、時間がw

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2011/05/22 23:06
>スイーツマンさん
 小梅は、本気で そう思っているようです ^^;
 どこへ遊びに行っても、最後には自分の所に戻る、と。
 瑞希や他の子とも進展はないので、一気に畳み掛ければ、
 小梅の思い込みにはならないでしょうね ^^
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2011/05/22 09:39
木母の小梅ちゃんは本妻だったのですね。瑞希嬢とロク君は不祥の中(アヤカシ視点で)、あ、違った。
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2011/05/02 00:38
>Beliver さん
 オケにしたら、少しだけ真剣に、少しだけ おふざけで言ったのですが、
 プレイが、通じませんでした ^^;
 ニュアンスは感じ取ったみたいですけど ^^;;

 小梅は強気ですよぉ~^^
 しかも、気長ですから、ロクがフラフラしていてもドンと構えている
 でしょうね ^^

 お呪い《オマジナイ》と呪い《ノロイ》と書くと分かりますが、二つは
 本来 同じものですから ^^
 西洋の悪魔召喚なんかでも、正しい名前を知る事は必須みたいですね。
 名前が持つ“呪”の力は、万国共通の真理なのかもしれません。
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2011/05/01 13:25
え、オケ何言ってるの?
なんか、オケは変態大魔王のような気がしてきました。ある意味大魔王だよ…

こうやってみると、確かに小梅は大胆ですね。
う~ん、恋する乙女は怖いw でも応援しますよ~♪

名前は、大切ですよね。名前をつける事で、契約することでもあるそうです。
そう考えると、確かに名前は“呪”ですね
でも、逆に大好きな人の名前をきくだけでも、何故かほっとしたり心が軽くなったりします。
ある意味名前は、呪いという毒であり、薬でもあるのですね
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2011/04/29 23:33
>咲雪さん
 普通に考えたら、猫なので野外……はっ!
 いやはや、オケのセクハラには困ったものですぅ ^^;
 でも、カタカナ言葉は、山の妖かしには通じないので、
 流されたもよう。。。

 そう言えば、名前は もっとも短い呪だと、書いていた
 作家さんもいらっしゃいました。
 だから、私は、名前をつけるのが苦手で ^^;
 創造主としては、変な名前をつけると、彼らが苦労する
 だろうなぁと、変に意識してしまいます。

 でも、その こだわり、いいですよね ^^
 一生懸命 考えて付けた名前ですが、ロクは、特に男性の
 名前を ちゃんと憶えてくれません ^^;
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2011/04/29 12:00
や…?!
オケ様はそれがお好きなのですか…?!
わたしは床の方が…て、わたしは一体何を…!

名前に対する誇りは、人間も同じだと思います。
生まれた時に名を与えられ、
それは言霊となって運命を束縛する…。
束縛の苦しさはその人の考え方によって様々…。

あああ、名前にこだわりがあるため、つい長々と…。
失礼いたしました!
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2011/04/28 22:14
>☨AKI☨ さん
 人間と日常的な会話が出来る猫又族。
 神社にいる妖かしは、基本的に外来語を解しません ^^;

 オケの問題は、シリアスが持続しない所かとw
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2011/04/28 22:12
>カトリーヌさん
 そう言わないと、島の猫又の代表として、島を出してもらえませんから ^^
 猫の気ままさと、モノ心ついた妖かしとしての性質のようなものを持っては
 いるのかなぁと思いますが ^^;
 自覚はあっても、自分の欲望を前にしたら、どこまで お行儀よく出来るか
 心配なやつです ^^;
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2011/04/28 17:39
オケ氏が変態っぽくなってきたwww

オケ氏もまじめになったようじゃなw
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2011/04/28 02:30
”エコノリアナン、必ず連れ帰る・・・”なんちゃって、
珍しくも、オケ氏が使命感を表明するなんて、
意外な感じ~。
でも~猫又族のNo.2だしね、エロ魂だけでは務まらないわ。
それなりに自覚があるのかな???




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