「六郎太兄さま？」

心配げな晶の声がする。瑞希の予想通り、まだ起きていたようだ。

「アッ……キー？」

「よかった。お戻りになったのですね。みなさま､ずっと同じ体勢の
　まま全く動かないものですから、心配しておりましたわ」

それで、体中が痛いのか。オレは少しずつ体を動かして、何とか
周りを見回せるようになった。

瑞希と來夢は、術に入った時の格好で、目を瞑っている。
息はしているが、確かに全然動いていない。
心なしか、顔色も悪い気がする。

もしかして、あれは夢の世界ではなく､死後の世界？ そんでもっ
て、この痛みは死後硬直の……って、そんな訳ないか。

「六郎太兄さま、姉さまと來夢さまは？」

「カイちゃんを見届けるってさ。オレは、瑞希の言いつけで、アッ
　キーを寝かしつける為に戻ってきたんだ。すぐに寝るようにっ
　て言われてたんだろう？」

「それは……姉さまが心配でしたから」

「瑞希がヘマするはずないだろう。それよりも、今ならまだ間に合
　うぞぉ？」

何の事か分からないのか、晶が小首を傾げた。
形のいい眉を顰めた愁い顔が、幼い女の子にも、妙齢の女性に
も見えて、オレは、正直な話、かなりショックを受けた。
晶は、まだまだ子供と言っていい年齢なのだが、女は男よりも早
熟だって事だろうか。
兄貴分としては、何とも寂しいかぎりだ。

と、その姿に昔の瑞希が重なった。
もっとも、月神子時代の瑞希は、近寄りがたい存在だったけど、
オレは当時から彼女を……。

「兄さま？」

「！　瑞希には、アッキーは言いつけを守って、ちゃんと寝てたっ
　て報告してやるよ」

「うん。兄さま、ありがとう」

小悪魔……ではない晶の微笑みに、オレも強張った顔の筋肉を
動かして笑みを作る。

あの頃の瑞希と違い､晶が年相応に笑っているのは､瑞希が全身
全霊で晶を守っているからなんだろうな。
姉妹愛っていいねぇ。

「わたし、もう休むね」

「ああ、お休み」

「そうだ。姉さま達を横にしてあげてね」

「動かしていいのか？」

「平気。いつもは、横になって練習してたんだよ。多分、今日は兄
　さまが一緒だから、いろいろと気を使ったんだと思う。ほら、ずっ
　と、そのままだと体が痛くなっちゃうから、急いで！ あ、でも、來
　夢さまの手印は解かないでね」

「了解」






後ろ髪引かれているのか､なかなか本堂から離れない晶を寝所に
追い払い、オレは溜め息をついた。

そうしていた間も、二人が目を覚ます様子はない。
オレは晶の言う通り､正座したまま固まっている二人を体位変換す
る事にした。

が、床に描かれた結界は、直径２メートル強。
二人をあまり離すと、はみ出てしまう恐れがある。

とりあえず、來夢の手印が外れないように呪布でグルグルに巻い
て、ゆっくりと体を倒した。

來夢は、オレや瑞希よりも小さいが、螢都や静花よりは大きい。
160ｃｍあるかないかだ。
だから、なるべく円の中心に寄せてから､足を伸ばしてやる。あくま
で優しくゆっくり、痛くないように……。

夢を渡ると体温が低くなるのか､よく出来た等身大の人形のようだ。
思えば、この來夢に大学の廊下で押し倒された(？)のが、この事
件の発端だったのだ。
この体が、倒れたオレの上にボィ～ン……と、急に胸元の開け具
合が気になった。明らかにサイズが合ってないんだよな。

これじゃあ、目の保養……じゃなくて、目の毒だよ。
オレは咳払いをしてから､來夢に上着をかけた。……オレのバカ。

オレは、自分の頬を思い切り叩いて喝を入れた。こんな濁り曇っ
た心で、瑞希に触れる訳にはいかない。

「はぁ～。よし、じゃあ……失礼しまぁす」

って、何言ってるんだ、オレ。
気を落ち着けて、瑞希をお姫様抱っこしようと出した手が、細かく
震えていた。うっ、情けないぞ。何も考えるな。

オレは、無心になって瑞希を抱えると、來夢の隣に横たえた。
たった、それだけなのに息が切れる。

まだだ。落ち着け。瑞希の足を伸ばしてやらないと……。

晶じゃないけど、オレの溜まりに溜まった邪念は、本当に､清水に
一時間浸かる程度では落とせないらしい。

あとで、また水をかぶる必要があるかも。

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今の所、ロクが異性として意識しているのはミズキだけですね＾＾

いきおいで告白まがいな事をしてしまったのでが、大きいかなｗ

そう、告白まがい。それが問題 ＾＾；；