Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 ~ツチノコ~ (5)

『ですが、ロク……』

「オッケェ~、お前さぁ、怪我してる時くらい、女の事は忘れ
 ろよ」

『そうだぞ、猫又! 犬神の言う通りだ!』

『私は、何も女性の事ばかり考えている訳では……』

「えぇ~、そうだっけぇ~?」

『ロク!』

「はいはい、もう寝ような」

尚も不服そうな猫又を、犬神はさっと抱え上げた。
そして、我に微笑む。

「ツッチー、今夜の仕事は?」

犬神は、この世に生を受けてから、まだ18年ほどしか経って
いないのだが、その気になれば、この御山の誰よりも力は上
だ。

が、当人に“その気”と言うモノはないらしく、かと言って、年
長の我らを敬うでもない。

力の制御が出来ていないのもあるかもしれないが、あくまで、
友人のように振舞うのだ。

妖かしの中には、犬神になら仕えたいと思うモノも多いのだ
が……。

あの御方の起した事件以降、神子殿が、犬神と妖かしが親し
くなるのを好まないのである。

神子殿を怒らせる事は、死活問題……なのだが、新参者の
猫又や木母は、あまり気にしてはいないようだ。

そんな訳で、今の所、犬神と我は対等なのである。

『うむ、我の担当は終わりだ!』

「じゃあ、ゆっくり休めよ」

『うむ、分かっている!』

そう答えはしたが、もし、今、あの御方が攻め込んできたら、
結界など無意味だ。

やはり、監視対象を妖かしだけでなく、人間にも広げるべき
だろう。

「じゃあ、お休み」と踵を返した犬神の背中に、我は『犬神!』
と声をかけていた。

「ん? どうした」

『警備を強化するぞ!』

「ツッチー、張り切ってるな。でも、今夜は休めよ。それとも、
 何か他に気になることがあるの?」

『それは、あの御……否、つまり、あれだっ!』

どれなのかは、我にも分からない。
が、本当の事を言えば、猫又と何を話していたのか、追求さ
れてしまうと、直ぐに思い直したのだ。

咄嗟に辺りを見回し、目に入った木精の童女に名案を思い
つく。

『木母と、その猫又と、エノキ? とか言う猫娘の歓迎会は、
 明日の夜で、どうだ?!』

「おっ、いいねぇ~。明日の夜は、オレも何も入ってないし、
 食い物、用意しておくよ」

よし! またもや上手く誤魔化し、明日の宴会も設定したぞ!
今夜の我は、怖ろしいくらい切れている。

『御山のモノ達に声をかけておく!』

「よろしくぅ~。みんな、オッケー達の事、知りたがってたから、
 丁度いいかもな」

『私達は見世物ではありません』

「しばらく、ここにいるんだから、顔見世はしないと」

『……気が重いです』

「そう言うなって」

『犬神』

「ん?」

『では、明日の夜な!』

我は体を膨らませると、一気に山を転がり降りた。
蛇と言う生き物に似た我の姿で、御山を降りる時は、この方
法が速い。

仲間達への伝令は、二つ。

一つは、明日の夜の宴。
もう一つは、今回の騒動に、あの御方が係わっている可能性
がある為、警備を強化する事。





 


新たに加わった決定事項に、仲間は沸き立ち、そして、緊張
した。これで外からの侵入者への警戒は完璧だ。

『兄者! 変わりはなかったぞ!』

『ご苦労!』

『先程、御山の北側を回っていたやつが、辻堂の娘を見たと
 言っていた!』

『散歩でもしていたのか?!』

『種を植えておったそうだ!』

『種?! そんな事より、配置を考え直さねばなるまい!』

忙しくなりそうだ!
 
 ~END~
 
 -----------------------------
 
<登場人物>
  
☆ツッチー  …… 槌の子《ツチのコ》
  蛇のような姿の妖かし。体を木槌のように膨らませる。
  名前はなかったのだが、幼い六郎太と初めて会った時に、
  ツッチーと言う名を付けられる。
 
☆城野下 六郎太《キノシタ ロクロウタ》
  地の退魔除霊師で、妖かし 犬神を体に宿す。
  女性ばかりの退魔除霊師の中にあって、唯一の男性。
 
★榊 瑞希 《サカキ ミズキ》
  水の退魔除霊師。退魔除霊師の実質のリーダー。
 
☆モリヤン  …… 守宮《ヤモリ》
  家に憑く子鬼。無口な神社の守り。
  やはり、名前はなかったが、偶然、六郎太の秘密を知り、
  それ以降、よく六郎太と話すようになる。
 
★小梅 …… 木霊《コダマ》
  梅の木の精霊。梅の木霊は特に木母《モクボ》と呼ばれる。
  六郎太の先祖に任されていた仕事を終え、今は神社に身
  を寄せている。自称・六郎太の本妻。
 
☆オケノニミモオ …… 猫又《ネコマタ》
  仲間を捜して、猫又ばかりの島からやって来た。
  頭には、女性と食べ物の事しかないと、御山の妖かし達に
  思われているのが不本意のようだ。
 
★エコノリアナン …… 猫又
  オケの探していた猫又の少女。
  怪我を負い、神社で療養中。

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2011/07/02 23:58
>スイーツマンさん
 怖ろしいまでに、視点には向かないヤツでした ^^;
 それでも、妖かし達が蝶子の話をしたがらない事やロク達を
 大事に思っている事は伝わったかなぁと……^^;

 視点を重要人物に設定しないと、見えてこない物は多いです。
 脇キャラ視点は、難しいなぁと つくづく思いました ^^;
 長編になると迷いがある分、筆(打ち込み)が遅くなってしまう
 のが難点です。
 只でさえ、打つのが遅くて時間が掛かるのに……^^;
 何事も練習あるのみ! で、頑張ります。
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2011/07/02 23:52
>Beliver さん
 名前を呼ばない妖かし達。
 辻堂の娘とは、退魔除霊師の後処理班、通称・掃除屋の夏香です。
 『シニガミノカマ』から怪しい動きをしていた夏香。
 種って何? と作者も頭をひねっています ^^;

 明日の飲み会は、次回で ^^
 次回の始まりでは、今回のラスト辺りの場面がダブって出てきます。

 一度、噂が立つと、それが更に可笑しな噂に変わる事も……^^;
 普段から気をつけないといけませんねぇ~^^
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2011/07/02 18:33
今回は地味キャラのツッチーにスポットを当てつつ
蝶子にまつわる
背景説明に終始したエピソード

蝶子とロクとの過去
エコとオケとの過去
晶子・瑞希・ロクの恋模様および過去

もっと知りたいところ
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2011/07/02 15:00
種が気になった今日この頃ですw

ツッチーは馬鹿だけど、誤魔化しが上手いなぁw
それに、なんか明日が楽しそう♪

オケは可愛そうに…女好きと言う癖は、少し改善しようね
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2011/06/30 23:43
>咲雪さん
 その通りです ^^
 弟に押し付けてきました。悪い兄貴ですよぉw
 でも、みんな、ツッチーのそんな所には慣れているようです。

 最初の内は「私が人型でも同じ事を?」と悩んでいたみたい ^^
 でも、今は……慣れたのかなぁ~^^;
 相手が女性か、ロクだと大人しいですねぇ^^
 不意打ちで抱えられると「あ! ……ま、いっか」ってw

 歓迎会は自由参加ですから ^^
 どうぞ、参加していってください ^^v
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2011/06/29 22:50
ツッチー…我の仕事は終わりだって、
他の槌の子に任せてきたのでは…?
それでいいのでしょうか…いいんですね^^←

オケ様は人間に抱えられても何も言わないのですねぇ…。
それとも、ロク様は別にいい、という感じでしょうか?

歓迎会、いいなぁ…。
わたしも参加したいです^^
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2011/06/28 23:50
>カトリーヌさん
 それなりには、優秀なんですけどねぇ~^^;
 自分で考えて動くと、メチャクチャになります。
 結局、指示する人間の力が大きいでしょうね。
 予定の半分で、ツッチーが逃走(?)したので、急遽、ロクが
 視点になりました ^^;
 やはり、見切り発車です。しかも、駆け込み乗車かも ^^;;

 お互いに「あいつは単純だなぁ」と思っているようです ^^
 誰が一番分かりやすいか投票させたら、一番はツッチーだと
 思いますが ^^;
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2011/06/28 01:04
う~ん、これから御山のアヤカシたちは、
どうなるのでしょう? 彼らには、あまり良い知恵がでそうにないし・・、
蝶子やその配下のカマイタチが来れば、まったく歯が立たないでしょうしね。

あいかわらず、
ツッチーは、ロクをうまく抱きこんだと思っているらしいけど、
どうかしらね(笑)。続編期待します。
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2011/06/27 23:45
作者が10話前後と言っていたのに、勝手に幕を引いてしまいました^^;
ツッチー、セッカチすぎるよぉ~^^;;
字数がギリギリなので、後書きも入らず... orz
慌てて、人物紹介も作ったので、誤字脱字が心配です ^^;




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