Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 ~ヘビガミ~ (1)

夢を……。

そう、夢を見ているのだと思った。どこかセピア色がかってい
るのに、表現するなら白黒の夢を。

見慣れたはずの景色が、やけに大きく見える。
何の事はない。オレの体が小さく縮んでいるのだ。

おそらく、これは、オレが忘れていると言う 子供の頃の記憶
なのだろう。
オレの頭からスッポリ抜け落ちたのは、5つの頃の記憶だ。

忘れている……はずなのに、オレは不自由を感じた事はな
かった。

まあ、忘れていると言う自覚もないのだから、最初からないの
と同じだし、大体、そんなに幼い頃の記憶など、憶えていた
所で何になる訳ではない。

オレは足の赴くまま、長い廊下を進んだ。

初めて母の実家である月黄泉《ツキヨミ》神社を訪ねた時、オ
レは、まだ4つだった。

それまで、ほとんど家の外に出た事のなかったオレは、母が
ほんの少し目を離した隙に迷子になったのだ。
もっとも、オレにはそんな自覚はなく、探検隊気分だったのだ
が。

小高い丘の上にある神社の敷地は広く、大人の足で回って
も大変なのだが、オレは 当時から少し変わった子供で体力
だけは無駄にあったので、過保護な母は神社の関係者を総
動員してオレを探したらしい。

ここは表向き、安産祈願で有名な神社なのだが、誰も知らな
い裏の顔を持っていたのだ。

常人の目には見えず、しかし、重なり合う世界に住む“妖かし”
と呼ばれる魔のモノを屠る技術者集団。

“退魔除霊師《タイマジョレイシ

そのトップは、代々、神社を守護してきた“月神子《ツキミコ》
と呼ばれる榊《サカキ》家の女性で、母もその資格を有する……
と言う事は、後々 知る事になる。

当のオレは、何も知らず“聖域”と呼ばれる場所に入り込ん
でいた。

この頃、月神子と呼ばれていたのは、オレの叔母にあたる人
で、この人には、オレと同じ年の娘がいた。

従妹の榊 瑞希《ミズキ》
初めて会った時、オレは……いいや、この話はやめよう。

兎に角、オレは、夢の中の聖域に向かっていた。

この神社には、巨大な蛇の妖かしが封じられているとかで、
月神子を引退し、大月神子となった女性は、それを封じる為
に神気を放ち続けなくてはいけないらしい。

オレは、そこに迷い込んで以来、よく祖母に会いに、この廊
下を歩いたのだと思う。

憶えてはいないが、そう感じるのだ。

懐かしさを覚えながら、障子の前に立ち、「ばあちゃん」と声
をかけた。

いつもなら、優しい声で「お入り」と返ってくるのだが、その日
は返事がなかった。

しばらく待っても何もなくて、焦れたオレは障子を開けたのだ。
でも、そこに祖母はいなかった。

オレは勝手に部屋に上がり込み、殺風景な室内を歩き回った。

花が生けられている訳でもなく、軸が掛かっている訳でもない
和室は、主の不在で寒々しく感じられた。

と、襖の向こうから、全身を締め付けられるような重苦しい気
配が漂ってきた。

オレは、襖を少しだけ開けて、奥の部屋を覗いた。
が、襖の向こうには部屋なんてなかった。

ゴツゴツした岩壁と淡い蝋燭の光。
その真ん中で鎖に繋がれたモノが、顔を上げた。

最初は、人がいるのだと思った。
でも、そいつは人ではなかった。

オレを見つめて『我の声が聞こえるのか、姿が見えるのか、
小僧』と聞いたのだ。

オレは、何と答えたのだろう?

思い出せないのだが、それは『汝も魔のモノならば、我と共
にこの世界を取り戻そうぞ』とか、なんとかオレに言ったんだ。

オレは、襖を完全に開け放って、部屋に踏み入ろうとした。
が、後ろから誰かに抱きとめられたのだ。

「駄目よ、六郎太。その部屋は立ち入り禁止なのだから。蛇
 神《ヘビガミ》、この子に取り入ろうとしても無駄よ」

『ほぉ、その小童が件の犬神《イヌガミ》か。惜しい事をした。あ
 と少しで、この印を破り、お主の肌に触れられたものを……』

「ふざけないで。寝言は寝てから言いなさい」

『ふふっ、相変わらず、可愛い事を言う』

蛇神と呼ばれたモノが、再び力なく頭を下げる。

オレを抱えたまま、後ろから手が伸びてきて、襖が完全に閉
じられた。安堵の溜息が、後ろで聞こえる。

頭だけ動かして振り返ると、そこには……誰?
この人は、誰なんだ?

頭に靄が掛かったように、意識が遠のく。
夢が終わろうとしているのだ。

駄目だ。オレは思い出さなければいけないんだ。
あの日、何があったのか。オレは……オレは……。

意識が完全にクリアになる前に「いいの。まだ思い出さなくて
もいいのよ」と、あの人の声が聞こえた気がした。
 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

結局、ロク視点にしてしまった ^^;

ツッチーが〆ちゃったので、急遽 ^^;





明日、一泊で温泉療養に行ってきます ^^

なぜ平日に行くかって?

それは料金が安いからw

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2011/07/03 00:12
>スイーツマンさん
 行けるなら、そこまで目指して行きたいものです ^^
 日本人が書くのだから、日本の伝承を使って ^^v
 ロクが、道を踏み外さず真っ直ぐ進んでいくかどうかは、
 今後次第ですねぇ。
 子育てのようです ^^;(勿論、いませんがw
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2011/07/03 00:08
>Beliver さん
 ロクは、忘れる前の方が とんでもない子供でした ^^
 生まれて直ぐに……っと、その話はまだ駄目か ^^;
 でも、誰に語らせよう。やはり、ロク母か、ロク父でしょうか。

 蛇は、不老不死の象徴だったり、神や悪魔の使いだったり。
 ポジションは国によっても違いますし、宗教によっても変わります ^^;
 日本ではどうだろうと考えて……神さまそのもの かなぁ~って ^^
 ただ、人に害を為せば、それは神として認められないと言うのは、
 人間の立場では仕方がないと思います。
 神社の山に封印されている この蛇の妖かしが、蝶子の物語には深く
 係わってきます。
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2011/07/02 23:30
ハリーポッターとの違いは幼い主人公が半殺しになるところですね。
瑞希のナイトとして成長してゆくのでしょうねえ。救世主ロク伝説ここに始まる。
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2011/07/02 15:14
ロクの回想か
無駄に体力があるっていうのは、そのときからもうってことか

蛇神…またまた初めて聞きました! うわぁ、想像力って無限だなぁ
蛇神も蛇神で、その女性が好きなようなのでしょうか?
この物語は、あやかしとひとの恋の物語にも見えますね
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2011/07/01 00:24
>咲雪さん
 ロクの過去を掘り起こす為に、ロクの視点が必要になりました ^^;
 ロクは、同タイトルを通しての主役の一人ですが、視点になったのは
 過去に一度だけなんです。
 誰しも自分の物語の主役……と言うのが、持論なもので ^^;
 スイーツマンさんが ご指摘されている通り、ロクの過去に上手く決着を
 つけて、オケから始まっている蝶子編が解決出来るといいのですが ^^;
 ラストをまとめるのがどうにも苦手で ^^;;
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2011/07/01 00:16
>ゴキブンさん
 現在、この部屋は月子が使用しています ^^
 この頃は、月子の先代で、瑞希やロクの祖母が封印していたようです。
 鎖に繋がれた蛇神は、現物がそこにいる訳ではないのですが……。
 主である祖母が、少し席を外した隙に出てきたみたい。油断なりません。
 女性との会話でも分かるように、蛇神は男性です。
 力の程は……まだ秘密と言う事で ^^

 杉本 彩さん主演の『花と蛇』と言う映画には、蛇の視点? と思われる
 映像表現が出てきますねぇ。
 え、この映画を観たのかって? 観ましたよ、DVDで。1だけですが ^^;
 必要とあれば、好き嫌いを問わず、いろいろなジャンルを研究しないと
 いけないだろうなぁと言うスタンスですから。
 何気に、SMの世界は奥深いなぁと思いましたが、私がよく書くジャンル
 のお話には不要な表現だったりします ^^;
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2011/07/01 00:05
>カトリーヌさん
 まだ完全に固まっていないロクの過去話です ^^;
 一度 書いてしまえば、そこから発展させていくのですが……。
 と言う訳で、ロクの過去に係わる話は、ロクの視点じゃないと無理が
 出るなぁと思い、見切り発車しています。
 ロクが拒否しない限り、最後まで書けると思います ^^
 いえ、作者としては拒否させないようにしないといけないのですが ^^;

 先日、北海道でも ついに30度を越える地域が出てきました ^^
 ですが、この度の旅行先は、山奥の避暑地w
 この時季に、なんと20度前後の気温でしたよ。
 暑くもなく寒くもなく、露天風呂が最高でした ^^v
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2011/06/30 23:57
>スイーツマンさん
 最初は気合が入っているのですが、書いて行く内にどこで終わらせようかと
 悩みます。大筋は決まっているのですが ^^;
 物語のラストは、体操の着地の難しさと似ていますね。
 終わりっぽい終わりにして、話がそこで終わってしまうのも寂しいし……と
 言うのもあったりして ^^;
 短編でも長編でも、全部 解決して終わると、読む方はスッキリなのでしょう
 ね。でも、フィクションを よりリアルに近づけたいと思うと、ENDマーク
 をつけた所で、何もかも解決しないだろうなぁと、毎回 悩むのです。
 結果、視点者に直接 係わってこない重要エピソードを先送りして、ラストは
 あっさりになってしまうのです ^^;
 こればかりは、書いて書いて、自分で感覚を掴むしかないのでしょうね。
 精進したいと思います。
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2011/06/29 22:58
わあ。新章突入ですね^^
ロク様の隠されし過去には、更に隠されたことが…?
後ろから伸びてきた腕は誰のものなのか。
思い出さなくていいと言った声に混じるのは、
優しさなのか。それとも冷たい微笑なのか…。

二話に走ります^^
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2011/06/29 13:43
神社に秘密の岩穴、そして十字架に鎖で繋がれた蛇女?
なんか拷問とかSMを連想してしまいました
蛇神は男性のようですね。残念
蛇神がどんな魔力を持っているのか楽しみです

蛇といえば、緊縛された女性と蛇が合います
自由を奪われた女性の体を這う蛇(虫でもいいのですが)
想像すると興奮します
なんでといわれて困りますが、
犯す側の心の底の動きなのでしょうか
サメが海に浮かんでいる女性を狙って近づいていく
その目線と似てるかもなんて考えます
蛇の目線で近づいてみたいです


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2011/06/29 02:29
ロクの幼いころの思い出ですね。
後ろから抱きとめた人は、いったい誰でしょうね。
もしかして・・蝶子?
ロクの夢は、封じられた記憶が蘇っているのかしら?
色々と推理しながら読んでます。

温泉っていいな・・でも、東京は昨日は猛暑だったので、
都内で温泉で温まると、かえって汗かいちゃって困るぅ~。
アバター
2011/06/29 01:26
新しい物語に入りましたね
毎回のエピドードで感じるのは
起承転結のうち承部がとても丁寧な割に、転がやたらとあっさりしている感があり拍子抜けしてしまうところがあります。死傷者を出す必要はありませんが、物語が長い場合は少し長めにされるといいかなあと感じました。




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