オケが先に障壁の領域に踏み込んだ。

何もない所から突如 現れた障壁は、直ぐにオケを敵と判断し
て、水を集め始める。

小さな水玉同士がくっつき、徐々に大きな水塊が増えていく。
でも、向こうの準備が整うまで、悠長に待つ必要はない。

オケは、水の第一刃が来る前に、地面を抉るように“風の傷”
を飛ばした。

空を裂く凶暴な気流を防ぐ為に、幼い瑞希の姿をした障壁は、
集めていた水を動かした。

今だ！

障壁の視界が水の幕で遮られたのを確認して、オレは 死角
から距離を詰める。

障壁がオレに気づかないように、オケは、左右に動きながら
第二波、第三波と、間髪入れずに放っていく。

が、防戦一方に見えた障壁は、尚も水を集め続けており、オ
ケの攻撃を支えられるほどの厚さになった水の壁の一部が、
幾本もの水の矢となり、オケへ殺到した。

振り返る余裕はない。
オケなら大丈夫と信じるしかないのだ。

走る、走る。
短い子犬の足が、今はもどかしい。

でも、小さい分、感知される危険も少ないのだと自分に言い
聞かせて、オレは、水の壁のない障壁の真横に出た。

オケへの攻撃の手を緩める事なく、障壁がオレの方を見た。
が、もう遅い。

オレは、障壁に向けて“咆哮”を……。

『ロク？』

障壁が、瑞希と同じ声、何より同じ顔で、オレの心を乱す。

「瑞……くっ！」

一瞬、怯んだオレに、水壁の一部が崩れて襲い掛かってき
た。

『ロクさん、下がって！』

來夢の声に、オレは後方へ飛ぶ。

上から落ちてきた水と障壁の水がぶつかり合い、オレが、さっ
きまでいた場所で渦を巻いた。

ライムのフォローもあり、障壁は標的を変え、オレに水の矢を
打ち込んでくる。

瑞希なら、こんな下手な戦い方はしない。
そう思うのに、オレは攻撃に出られずにいる。

でも、何とか障壁の隙は作れたようだ。
水が薄くなった所をついて、オケが障壁の懐まで飛び込んだ
のだ。

タイミングは最高。
オケのスピードに障壁も、水を動かす時間はない。

……はずだった。オケが躊躇しなければ。

オケの振り上げた手は、童女の姿をした障壁には下ろされな
かった。

鞭のように長く伸ばされた水の帯が、オケをかすめる。

状況は不利と判断した來夢が、オレとオケを水で覆い、障壁
の領域の外へと押し流した。

オレもオケも、すっかり濡れ鼠だ。
犬（神）と猫（又）なのに……。

『ロク、何をしているんですか！ “咆哮”はどうしたんです？』

「そっちこそ、なんで寸止めするんだよ！　あそこは決めない
　と駄目だろう！」

『あのような いたいけな少女に、例え、本物ではないとしても、
　手を上げるなんて、私のポリシーに反します！』

「オレだって、女や子供を痛めつける趣味はないよ！　それ
　に、あれは、どう見ても瑞希と同じ顔だし……」

『……そう、ですね。あれは瑞希さんです、ね』

「……うん、瑞希なんだよ、な」

オレ達は顔を見合わせて、溜息をついた。

あれは、オレ達の予想以上に厳しいセキュリティだ。
蝶子は、余程、オレに過去の記憶を取り戻させたくないらし
い。

『お二人とも、しっかりして下さい。あれは、榊さんご本人で
　はないんですよ？』

呆れたような來夢の声に、情けなさが倍増する。
分かってはいるのに、心のどこかで、納得してないんだよな。

「でもさ、ライムちゃ……」

『デモじゃありません！』

あ、今、何気にスイッチ入った？

「ライムちゃん、少し落ち着こう……」

『榊さんだからですか？　榊さんは特別なんですか？！』

そりゃあ、オレにとって瑞希は特別だけど、それだけじゃない。

あれが妖かしだとしても、オレは人の形をしたものに攻撃する
事に抵抗があるのだ。

「そんな事はないよ。あれが、例え誰の姿でも、オレもオケも、
　やっぱり傷つける事が出来ないと思う」

『あれが……螢都さんでも？』

「ああ」

『兼光さんや葛城さんでも？』

「そうだね」

『ワタシでも？』

「も、勿論！」

『……』

うわっ、沈黙が怖い。

『……分かりました』

「はい？」

『先程と同じフォーメーションで行きましょう』

「え？」

『ワタシに考えがあります』

静かに断言した來夢に、オレもオケも従うしかなかった。
そして……。
　
　・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

時間がギリギリです ＾＾；

しかも、案の定な展開で すみません ＾＾；；

次回には、突破しますので ｍ（＿ ＿；）ｍ

いつもと違う何かが起こる時には、必要な要素が集まっている

ものだと言う お話ですねぇ。






今日は少し余裕なので、ちょっと回ってから休みます ＾＾