Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 ~ヘビガミ~ (27)

オケと來夢に何と言われても、こうなってしまったものは 仕方
がない。
夢をコントロールする術は、オレには備わっていないのだから。

オレは、幼い瑞希に手を引かれながら……本堂を、そう、本
堂を目指していた。

こうしていると、確かに、昔、こんな事があったような気がして
くる。

訓練を抜け出して、山の妖かし達と遊んでいたオレを、瑞希
は、いつも探し出して、こうやって手を……。

「ロク」

「え、あ、何?」

「最近、ねぇねが……」

「ねぇね?」

誰の事だ?

「変だと思いませんか?」

立ち止まって俯いた瑞希が、ぽつりと言った。

この当時、長かった瑞希の髪が、顔を隠してしまい、表情は
分からない。

が、消え入りそうな声に、オレは根拠なく「大丈夫だよ」と 即
答していた。

「本当?」

顔を上げた瑞希が、縋るようにオレを見つめる。
不安なのか、繋がれた手に力が入ったのが分かる。

昔は、こんな風に瑞希に頼られた事もあったんだな。

「うん、本当!」

オレの横に座っていたオケが『適当ですね』と呆れた。

異論はあったが 反論する訳にはいかないので、砂を蹴って
飛ばすと、オケが仕返しに尻尾でオレの足を叩いた。

「ロク、ありがとう。行きましょう。ねぇねが待っています」

「うん」

再び歩き出したオレの横で、オケが『あ』と小さく声を発した。
オケの声は、瑞希には聞こえていない。

オレの代わりに、來夢が『どうしましたか?』と、オケに尋ねた。

『ねぇねと言うのは、もしや、蝶子さんの事ではないですか?』

『その……蝶子さんと言う方は、どのような女性ですか?』

『その方は……』

オケが、オレを窺う気配がする。

ここまで来たのだから、來夢に隠す事は無意味だ。
來夢は、月神子になる晶の補佐役で、情報を共有する義務
と権利を持っているのだから。

前を向いたまま、オレは微かに頷いた。

『蝶子さんは、月子さんのお姉さんです』

『え、月子さまの?』

『ロクの母君、風子さんのお姉さんでもあります。そして、花子
 さんの双子の妹だと言う話ですよ』

『つまり、ロクさんの伯母さんなんですね』

『そうなります』

少しの間、來夢の声が途切れる。
その間、オケは、ただ黙ってオレの横を歩いていた。

……静かだ。
風もなく、鳥の声も聞こえない。

優しい日差しの中、オレよりも、ほんの少し前を歩く幼い瑞希
の横顔に、思わず笑みが零れる。

オレは、夢の中に来た理由を一時、忘れていた。

杜の中にある“本堂”と呼ばれる場所は、退魔除霊師の関係
者以外、立ち入る事はない。

その板張りの道場のような場所で、退魔除霊や日頃の修練
などを行ったりするのだ。

そこへ向かっているのだから、修行の時間なのだろう。

このまま 瑞希の手を引いて、神社から飛び出したい衝動が
湧き上がる。

今のオレは、ただ瑞希に手を引かれているだけの子供では
ないのだ。

と、急に、オレは息が苦しくなった。
足が付くか付かないかくらいの深さの沼で、浮かんだり沈ん
だりしているような感覚だ。

足が重くなったオレに、瑞希が「ロク、一緒に謝ってあげるか
ら」と微笑んだ。

違う。そうじゃないんだ。
その先に“何か”がいる。

でも、そう感じているのは、オレだけのようだ。

『ロク? どうかしましたか?』

オレが変だと気付いたのは、近くで見ていたオケだった。

行きたくない。
行きたくはないが、その理由がハッキリ説明できそうもない。

酸欠金魚みたいに口をパクパクさせたオレに、オケは首を傾
げていたが、本堂の裏手から誰かがやってくるのに気づいて、
身構えた。

「ねぇね!」

瑞希が嬉しそうに声を上げる。

ああ、そうだ。この人が……。
思わず「蝶子さん」と呟いたオレに、その人が口角を上げた。

「風ちゃんの教育も考えものね。まあ、子供もいないのに、オ
 バさんって呼ばれるよりはいいけど」
 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

時間が ^^;

そろそろ学習してもいいですよねぇ^^;;

明日は、午前中に外出予定なので、今日はここまでです ^^

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2011/08/02 00:13
>カトリーヌさん
 かつての瑞希が、懐いていたくらいですから ^^
 彼女を変える出来事が、この後、起こります。
 世界を滅ぼしても貫きたい想いと、守りたい人達との間で、
 蝶子は葛藤したのだと思います。
 結局、彼女が選んだのは……ネタバレ注意でした ^^;
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2011/08/01 01:59
ついに蝶子が登場・・って、意外にまとも・・・。
でも、どんな企みをもっているかわかりませんよね。
ロクが息苦しさを感じたのは、やはり危険を感じたのかしら。


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2011/08/01 00:05
>咲雪さん
 こんばんは ^^

 ロクの場合、母親の風子も“風子さん”と呼んでいますから ^^;
 ロクが「母ちゃん」と呼ぶので、「ママでしょう」と訂正して
 いる内に、いつの間にか、名前で呼ぶようになったみたいです ^^;
 多分、父親が「風子さん」と呼んでいるのではないかと……。

 思い出せていない蛇神との過去。
 嫌な事があった事だけは、心の隅に残っているのかもしれません ^^;
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2011/07/31 23:58
>Beliver さん
 まずは、今の蝶子になる前の、素直で朗らかな蝶子を
 出してみました ^^

 ロクの犬神は、ちょっと特殊な存在で、名前に“神”と
 つくモノ同士、感じる物があるようです ^^;
 本当に 力のあるモノは、感知する事が出来ないと言う
 お話だったりします。
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2011/07/31 23:55
>スイーツマンさん
 今の蝶子になる前の、本来の蝶子です ^^
 これは、全てが歪みだす きっかけのお話です。

 いえいえ、学ぶべきは 時間の使い方 ^^;
 まだ学ぶ事は多いですけど ^^
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2011/07/31 18:42
こんばんは^^

わたしの周りでは、保護者の方をさん付けで呼ぶのが流行っていますよ。
小学生の間でだけですが^^;

嫌なことがあると、近付きたくないものですよねぇ。
ロク様も、そんな感じだったのでしょうか…?
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2011/07/31 14:21
蝶子さん登場!

ロクが感じた重みはなんでしょう? “なにか”の、霊力でしょうか。
ロクしかわからないというのは、犬神が反応しているからではないかと思いますが、
う~ん、どうなんだろ。
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2011/07/31 03:36
いよいよ蝶子とご対面ですね
次回は壮絶な予感

学習? 習いごとですか? いってらっしゃいませ




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